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名将言行録 / 『名将言行録』藤堂高虎 敵将の助言と人材登用

○石田三成、虜となる。高虎對面し、舊好のことゞもを語り、武士は相互ひなり、是非なきことゝ、懃懃に挨拶し、儲今度擒者備味方より見ては見え難し、敵方より見給ひて如何と思はるゝことあらば、古の好もあれば告げ給へ、後日の益あらんことを願ふ所なりと言ふ。三成、左言はるゝ上は、言を殘すべきにあらず、先手の鐵砲頭、働小身に見えたり、小身と大身と、働格別なるものなり、今度の働小身に見えて如何なり、自今以後大身にせられなば可ならんか、此外に申べきことなしと言ふ。是より高虎鐵砲頭を千石高にせり。 ○高虎、渡邊勘兵衞了を二萬石にて抱えたり。加藤嘉明之を聞き、和泉はむさとしたることをするもの哉、我ならば二萬石にて二百石取る待を百人抱ゆべし、如何に勘兵衞鬼神なりとも、侍百人向ひたらんには、微塵になるべしと言ふ、高虎之を聞て、左馬は何ぞ不智なることを言ふもの哉、平侍二百や三百堅めたる所は、人が踏破て通るべく、爰は勘兵衞が堅めたりと言ば、敵の肝を冷し、利ありと言はれけり。 ○高虎、家康の爲めに諸大名をして家室を致し、質と爲さしめんと欲し、先づ我より始め、天下の首唱となる。爰に於て諸大名皆家を攜へ江戸に至り、永く泰平の基を固くせり。

新字:○石田三成、虜となる。高虎対面し、旧好のことゞもを語り、武士は相互ひなり、是非なきことゝ、懃懃に挨拶し、儲今度擒者備味方より見ては見え難し、敵方より見給ひて如何と思はるゝことあらば、古の好もあれば告げ給へ、後日の益あらんことを願ふ所なりと言ふ。三成、左言はるゝ上は、言を残すべきにあらず、先手の鉄砲頭、働小身に見えたり、小身と大身と、働格別なるものなり、今度の働小身に見えて如何なり、自今以後大身にせられなば可ならんか、此外に申べきことなしと言ふ。是より高虎鉄砲頭を千石高にせり。 ○高虎、渡辺勘兵衛了を二万石にて抱えたり。加藤嘉明之を聞き、和泉はむさとしたることをするもの哉、我ならば二万石にて二百石取る待を百人抱ゆべし、如何に勘兵衛鬼神なりとも、侍百人向ひたらんには、微塵になるべしと言ふ、高虎之を聞て、左馬は何ぞ不智なることを言ふもの哉、平侍二百や三百堅めたる所は、人が踏破て通るべく、爰は勘兵衛が堅めたりと言ば、敵の肝を冷し、利ありと言はれけり。 ○高虎、家康の為めに諸大名をして家室を致し、質と為さしめんと欲し、先づ我より始め、天下の首唱となる。爰に於て諸大名皆家を攜へ江戸に至り、永く泰平の基を固くせり。

書き下し

○石田三成、虜となる。高虎對面し、舊好のことゞもを語り、武士は相互ひなり、是非なきことゝ、懃懃に挨拶し、儲今度擒者備味方より見ては見え難し、敵方より見給ひて如何と思はるゝことあらば、古の好もあれば告げ給へ、後日の益あらんことを願ふ所なりと言ふ。三成、左言はるゝ上は、言を殘すべきにあらず、先手の鐵砲頭、働小身に見えたり、小身と大身と、働格別なるものなり、今度の働小身に見えて如何なり、自今以後大身にせられなば可ならんか、此外に申べきことなしと言ふ。是より高虎鐵砲頭を千石高にせり。 ○高虎、渡邊勘兵衞了を二萬石にて抱えたり。加藤嘉明之を聞き、和泉はむさとしたることをするもの哉、我ならば二萬石にて二百石取る待を百人抱ゆべし、如何に勘兵衞鬼神なりとも、侍百人向ひたらんには、微塵になるべしと言ふ、高虎之を聞て、左馬は何ぞ不智なることを言ふもの哉、平侍二百や三百堅めたる所は、人が踏破て通るべく、爰は勘兵衞が堅めたりと言ば、敵の肝を冷し、利ありと言はれけり。 ○高虎、家康の爲めに諸大名をして家室を致し、質と爲さしめんと欲し、先づ我より始め、天下の首唱となる。爰に於て諸大名皆家を攜へ江戸に至り、永く泰平の基を固くせり。

現代語訳

○石田三成が虜となりました。高虎は対面して、昔なじみのことなどを語り、武士はお互いさまで、どうにもならないことだと、ねんごろに挨拶し、このたび生け捕られた者の備えは、味方から見ては見えにくいところがあります、敵方から見て、どうお思いになることがありますか、昔のよしみもあるので教えてください、後日の役に立てたいのですと言いました。三成は、そう言われる以上、言葉を残すべきではない、先手の鉄砲頭の働きは小身に見えた。小身と大身とでは働きに格別の違いがあるものだ。今度の働きは小身に見えたが、いかがなものか。今後は大身にされるのがよいのではないか。このほかに申すことはない、と言いました。これより高虎は鉄砲頭を千石の高にしました。 ○高虎は渡辺勘兵衛了を二万石で召し抱えました。加藤嘉明はこれを聞いて、和泉は無茶なことをするものだ。私なら二万石で二百石取りの侍を百人召し抱える。いかに勘兵衛が鬼神であっても、侍百人が向かえば微塵になるだろう、と言いました。高虎はこれを聞いて、左馬は何と不智なことを言うものか。平の侍が二、三百人で堅めた所は、人が踏み破って通れるだろう。しかしここは勘兵衛が堅めていると言えば、敵の肝を冷やし、利がある、と言いました。 ○高虎は家康のために、諸大名に妻子を江戸に置かせて人質とさせようと考え、まず自分から始めて天下の先がけとなりました。ここにおいて諸大名は皆家族を連れて江戸に至り、永く太平の基を固めました。

解説

三章の逸話が並びます。捕らえた三成に敵から見た自軍の弱点を尋ね、返ってきた助言を実行して鉄砲頭の禄を上げた話。名のある勘兵衛を高禄で召し抱え、数で勝負する考えを退けた話。そして、自ら先に家族を江戸へ置いて諸大名の範を示した話です。高虎は、敵の言葉からも学び、一人の名手を置く効果を計算し、自分から動いて規範を作る人物として描かれます。人質の制は当時の通念で、現代の人権の感覚とは異なります。外部の批判や異論を材料にして組織を整え、大事な役に最良の人を置くという点で、人事の古典的な示唆として読めます。
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この章句が説くこと

人材登用敵の助言鉄砲頭渡辺勘兵衛人質藤堂高虎

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