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名将言行録 / 『名将言行録』大谷吉隆 城より徳を恃め

○吉隆、佐和山に至りし時、三成城を堅固に普請せし由を語る。吉隆聞て、凡そ城を堅固にするは、敵地抔に砦を構へ、本城より後詰するに便り能き所こそ、縄張を考へ、要害を構ふべし。然るに貴殿は出て働く大將なれば、城普請は入らざる覺悟なり。只大將の要害は德に在り、德ある所、天下之に歸すと言へば、城普請は抑々末なり、是地利人和に若かざる所なりと言はれけり。 ○同時、吉隆、三成に向ひ、貴殿は實に天下無雙の才覺人なり、誰か之に對せんや、然れども、肝要の所、惡しければ、以來は能々分別あられよと言ふ。三成、其故を問ふ、吉隆夫は、貴殿の心にて候、必ず死せんと思はゞ、萬に一つも生き、生んと思はゞ必ず死するものなり、貴殿才覺は餘れども、一大事の所不足なりと言はれけり。

新字:○吉隆、佐和山に至りし時、三成城を堅固に普請せし由を語る。吉隆聞て、凡そ城を堅固にするは、敵地抔に砦を構へ、本城より後詰するに便り能き所こそ、縄張を考へ、要害を構ふべし。然るに貴殿は出て働く大将なれば、城普請は入らざる覚悟なり。只大将の要害は徳に在り、徳ある所、天下之に帰すと言へば、城普請は抑々末なり、是地利人和に若かざる所なりと言はれけり。 ○同時、吉隆、三成に向ひ、貴殿は実に天下無双の才覚人なり、誰か之に対せんや、然れども、肝要の所、悪しければ、以来は能々分別あられよと言ふ。三成、其故を問ふ、吉隆夫は、貴殿の心にて候、必ず死せんと思はゞ、万に一つも生き、生んと思はゞ必ず死するものなり、貴殿才覚は余れども、一大事の所不足なりと言はれけり。

書き下し

○吉隆、佐和山に至りし時、三成城を堅固に普請せし由を語る。吉隆聞て、凡そ城を堅固にするは、敵地抔に砦を構へ、本城より後詰するに便り能き所こそ、縄張を考へ、要害を構ふべし。然るに貴殿は出て働く大將なれば、城普請は入らざる覺悟なり。只大將の要害は德に在り、德ある所、天下之に歸すと言へば、城普請は抑々末なり、是地利人和に若かざる所なりと言はれけり。 ○同時、吉隆、三成に向ひ、貴殿は實に天下無雙の才覺人なり、誰か之に對せんや、然れども、肝要の所、惡しければ、以來は能々分別あられよと言ふ。三成、其故を問ふ、吉隆夫は、貴殿の心にて候、必ず死せんと思はゞ、萬に一つも生き、生んと思はゞ必ず死するものなり、貴殿才覺は餘れども、一大事の所不足なりと言はれけり。

現代語訳

吉隆が佐和山に至ったとき、三成は城を堅固に普請したことを語った。吉隆はそれを聞いて言った。そもそも城を堅固にするのは、敵地などに砦を構え、本城から後詰めするのに都合のよいところで、縄張りを考え要害を構えるものだ。ところが貴殿は出て働く大将であるから、城の普請は必要のない覚悟のはずだ。大将の要害は徳にある。徳のあるところに天下は帰すと言うから、城普請はそもそも末のことだ。これは地の利が人の和に及ばないところである、と言われた。 このとき吉隆は三成に向かって言った。貴殿はまことに天下に並ぶ者のない才覚の人だ。誰がこれに対抗できよう。しかし、肝要のところが悪ければ、これからはよくよく分別なさるがよい、と。三成がその理由を尋ねると、吉隆は、それは貴殿の心です。必ず死のうと思えば万に一つも生き、生きようと思えば必ず死ぬものです。貴殿は才覚は余っているが、一大事のところが足りない、と言われた。

解説

前半は、守りを固める城より、人が集まる徳こそが大将の要害だという話で、孟子の「地の利は人の和に如かず」を引いた言い方です。後半は、死を覚悟した者が生き、生に執着する者が死ぬという、戦場の逆説を三成の性格に当てた忠告です。いずれも吉隆が三成に直言した場面として語られる逸話で、確かな記録かは分かりません。ただ、設備や仕組みの整備に力を注ぎ、人心を後回しにしがちな現代の組織にも刺さる指摘です。
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この章句が説くこと

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