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名将言行録 / 『名将言行録』伊達政宗 金箔の磔柱で上洛

○十九年、葛西大崎一揆起る。蒲生氏鄕討て之を平ぐ。政宗、右一揆の棟梁たりとの聞えあるにより、秀吉怒り、政宗の敵に交通せし書牒を以て、政宗を詰問せられしに、政宗陳じて曰く、箇樣の無實あるべきことを計り、某が判形の鶺鴒に心印を付け置きしが、謀書の判には、其印なし。其印と申すは鶺鴒の眼を針にて突て矓と成したり。此頃人の方へ遣はしたる書牒と引合はせ、御覽あるべしとの趣なり。然れども氏鄕より分明の注進あるにより、秀吉、政宗に上京あるべしとのことなり。此時政宗、金銀の上箔にて包みたる磔柱を行列の先に立て上京せり。是は政宗程の者が磔に掛らんに、並々の樣にては口惜きとの用意なり。折節、秀吉、伏見の城を築き、其役を見て居られしが、政宗上り來るを聞き、是へ來るべしと言はる。政宗猶豫せる景色もなく、秀吉の前に出にければ、秀吉杖取直して、政宗の頭に押當て、其元上京せざるに於ては、斯の如くすべしと思へども、時刻移さず馳上りし上は、宥免するなりと言はれけり。

新字:○十九年、葛西大崎一揆起る。蒲生氏郷討て之を平ぐ。政宗、右一揆の棟梁たりとの聞えあるにより、秀吉怒り、政宗の敵に交通せし書牒を以て、政宗を詰問せられしに、政宗陳じて曰く、箇様の無実あるべきことを計り、某が判形の鶺鴒に心印を付け置きしが、謀書の判には、其印なし。其印と申すは鶺鴒の眼を針にて突て矓と成したり。此頃人の方へ遣はしたる書牒と引合はせ、御覧あるべしとの趣なり。然れども氏郷より分明の注進あるにより、秀吉、政宗に上京あるべしとのことなり。此時政宗、金銀の上箔にて包みたる磔柱を行列の先に立て上京せり。是は政宗程の者が磔に掛らんに、並々の様にては口惜きとの用意なり。折節、秀吉、伏見の城を築き、其役を見て居られしが、政宗上り来るを聞き、是へ来るべしと言はる。政宗猶予せる景色もなく、秀吉の前に出にければ、秀吉杖取直して、政宗の頭に押当て、其元上京せざるに於ては、斯の如くすべしと思へども、時刻移さず馳上りし上は、宥免するなりと言はれけり。

書き下し

○十九年、葛西大崎一揆起る。蒲生氏鄕討て之を平ぐ。政宗、右一揆の棟梁たりとの聞えあるにより、秀吉怒り、政宗の敵に交通せし書牒を以て、政宗を詰問せられしに、政宗陳じて曰く、箇樣の無實あるべきことを計り、某が判形の鶺鴒に心印を付け置きしが、謀書の判には、其印なし。其印と申すは鶺鴒の眼を針にて突て矓と成したり。此頃人の方へ遣はしたる書牒と引合はせ、御覽あるべしとの趣なり。然れども氏鄕より分明の注進あるにより、秀吉、政宗に上京あるべしとのことなり。此時政宗、金銀の上箔にて包みたる磔柱を行列の先に立て上京せり。是は政宗程の者が磔に掛らんに、並々の樣にては口惜きとの用意なり。折節、秀吉、伏見の城を築き、其役を見て居られしが、政宗上り來るを聞き、是へ來るべしと言はる。政宗猶豫せる景色もなく、秀吉の前に出にければ、秀吉杖取直して、政宗の頭に押當て、其元上京せざるに於ては、斯の如くすべしと思へども、時刻移さず馳上りし上は、宥免するなりと言はれけり。

現代語訳

十九年、葛西・大崎の一揆が起こった。蒲生氏郷が討ってこれを平定した。政宗がこの一揆の首謀者であるという噂があったため、秀吉は怒り、政宗が敵と通じた書状を示して問いただした。政宗は弁明して言った。「このような無実の疑いがあるだろうと考え、私の花押の鶺鴒に目印をつけておいたのですが、偽造した書状の花押には、その印がありません。その印というのは、鶺鴒の目を針で突いて曇らせたものです。この頃ほかの人に送った書状と引き合わせてご覧ください」ということであった。しかし氏郷から明らかな報告があったので、秀吉は政宗に上京するよう命じた。このとき政宗は、金銀の上箔で包んだ磔柱を行列の先頭に立てて上京した。これは、政宗ほどの者が磔にかかるなら、並大抵の様子では悔しいという用意であった。ちょうど秀吉は伏見の城を築き、その工事を見ていたが、政宗が上京してきたと聞き、「ここへ来い」と言った。政宗はためらう様子もなく秀吉の前に出ると、秀吉は杖を持ち直して政宗の頭に押し当て、「そなたが上京しなかったならば、このようにしてやろうと思っていたが、時を移さず駆けつけてきたからには、許す」と言った。

解説

一揆の首謀者と疑われた政宗が、花押の印を理由に潔白を訴え、さらに金箔の磔柱を先頭に上洛した場面です。死を覚悟した態度を堂々と示し、秀吉は赦免します。華やかな演出は伝承の色合いが濃く、史実の細部は確かめにくい逸話です。ただ、疑いを受けたときに、証拠を示す冷静さと、逃げずに出頭する覚悟をそろえる点は、危機対応の型として読めます。何を見せ、どこで自分の決意を示すかが、相手の判断を左右するという示唆があります。
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この章句が説くこと

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