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名将言行録 / 『名将言行録』明智光春 娘の看病と律義な小姓

明智光安の子、初め三宅彌平治と稱す。明智光秀の從父兄弟なり。後復族して左馬助と改む。天正十年六月十五日死、年四十六。 ○光秀女あり。嘗て病に罹る。光秀、女任せにては心元なしとて、光春を看病に付けて、娘の鈍帳の内に出入せしむ。頓て病氣全快しければ、光秀其方看病故と褒美の上にて、其方を娘と一所に差置きしこと、人は心元なく疑もすべけれども、我は左なしとて、竟に娘と夫婦に爲せしとぞ。 ○細川忠興、光秀の邸へ來りし時、小姓一人緣側の腰障子の立ちたる外を通るとて、目通を通る樣に手を突き、慇懃に拜伏して行く。忠興、光秀に向ひ、御自分の小姓共は、律義なる輩にて候、目通にもあらぬ障子の外を通るに、手を突き拜伏し通り候と言ければ、光秀、夫は三宅彌平治と申者ならん、御呼び候へとある。忠興彼小姓を呼び、其名を問へば、果して三宅彌平治なり。忠興殊の外感稱せり。

新字:明智光安の子、初め三宅弥平治と称す。明智光秀の従父兄弟なり。後復族して左馬助と改む。天正十年六月十五日死、年四十六。 ○光秀女あり。嘗て病に罹る。光秀、女任せにては心元なしとて、光春を看病に付けて、娘の鈍帳の内に出入せしむ。頓て病気全快しければ、光秀其方看病故と褒美の上にて、其方を娘と一所に差置きしこと、人は心元なく疑もすべけれども、我は左なしとて、竟に娘と夫婦に為せしとぞ。 ○細川忠興、光秀の邸へ来りし時、小姓一人縁側の腰障子の立ちたる外を通るとて、目通を通る様に手を突き、慇懃に拝伏して行く。忠興、光秀に向ひ、御自分の小姓共は、律義なる輩にて候、目通にもあらぬ障子の外を通るに、手を突き拝伏し通り候と言ければ、光秀、夫は三宅弥平治と申者ならん、御呼び候へとある。忠興彼小姓を呼び、其名を問へば、果して三宅弥平治なり。忠興殊の外感称せり。

書き下し

明智光安の子、初め三宅彌平治と稱す。明智光秀の從父兄弟なり。後復族して左馬助と改む。天正十年六月十五日死、年四十六。 ○光秀女あり。嘗て病に罹る。光秀、女任せにては心元なしとて、光春を看病に付けて、娘の鈍帳の内に出入せしむ。頓て病氣全快しければ、光秀其方看病故と褒美の上にて、其方を娘と一所に差置きしこと、人は心元なく疑もすべけれども、我は左なしとて、竟に娘と夫婦に爲せしとぞ。 ○細川忠興、光秀の邸へ來りし時、小姓一人緣側の腰障子の立ちたる外を通るとて、目通を通る樣に手を突き、慇懃に拜伏して行く。忠興、光秀に向ひ、御自分の小姓共は、律義なる輩にて候、目通にもあらぬ障子の外を通るに、手を突き拜伏し通り候と言ければ、光秀、夫は三宅彌平治と申者ならん、御呼び候へとある。忠興彼小姓を呼び、其名を問へば、果して三宅彌平治なり。忠興殊の外感稱せり。

現代語訳

明智光安の子で、はじめ三宅彌平治と名のりました。明智光秀の父方のいとこにあたります。のちに明智の姓に戻り、左馬助と改めました。天正十年六月十五日に亡くなり、享年四十六です。 ○光秀の娘がかつて病気にかかりました。光秀は、女中に任せきりでは心もとないと、光春に看病を命じ、娘の帳の内に出入りさせました。やがて病気が全快すると、光秀は「おまえに看病させ、娘と同じところに置いたことを、人は不安に思い疑いもしただろうが、私はそうは思わなかった」と言って褒美を与え、ついに娘と夫婦にさせたということです。 ○細川忠興が光秀の屋敷を訪れたとき、小姓が一人、縁側の腰障子が立ててある外を通るのに、目通りの前を通るかのように手をつき、丁寧に拝伏して行きました。忠興が光秀に、「ご自分の小姓たちは律義な者たちですね。目通りでもない障子の外を通るのに、手をついて拝伏して通りました」と言うと、光秀は、「それは三宅彌平治という者でしょう。お呼びください」と言いました。忠興がその小姓を呼んで名を問うと、はたして三宅彌平治でした。忠興はたいそう感心しました。

解説

明智光春の略歴のあと、二つの逸話が並びます。娘の看病を任せて疑わず、のちに夫婦にしたという話と、人目のない障子の外でも礼を崩さない小姓の話です。ともに「見られていない場面での振る舞い」が主君の信頼を生んだという筋で、いずれも光春の人柄を伝える逸話として語られています。成立当時の縁組は主君の意向で決まる色合いが強く、現代の感覚とは異なります。ただ、信頼は能力の高さより、誰も見ていない場での誠実さから積み上がる、という点は今の職場にも通じます。
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この章句が説くこと

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