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明君家訓 / 第2条一

凡家中の士、不擇貴賤學問をいたすべく候、學問とは別にかはり申儀はこれなく候、人たる所の道にて候へば、朝夕第一に可心得の處、脇の儀の樣に心得、學問不仕候ても、其分と存罷在躰に候、不吟味なる儀不過之候、さりながら當代學問仕由申輩に、結句不學問の人よりおとり申もの有之候、其故は、此人元來をのれが才智にほこり、名利の心深くして、不學なりと人の申を無念に存、書籍をとりあつかひ、少々文學を知、古事ども端々覺候て、人をあなどりをのれに傲るたすけといたし候、才智有之上に文藝も有之候へば、能士の樣に見へ候得共、實は仁義の心なくして、偏に盜人の振舞に候、さればこそ拔群不學の人にはおとり申候、其外は、あるひは詩文をつくり、或は書籍を翫びて、徒に日を渉る輩有之候、これは一向慰に仕るまでにて、何の益も無之事候、今おの〱へ申渡は、右のとをりの儀共にては無之候、學問は右申通、人たる所の道にて、人と生たるもの、これを不知不行候ては、偏に禽獸の有樣にて候、

新字:凡家中の士、不択貴賤学問をいたすべく候、学問とは別にかはり申儀はこれなく候、人たる所の道にて候へば、朝夕第一に可心得の処、脇の儀の様に心得、学問不仕候ても、其分と存罷在体に候、不吟味なる儀不過之候、さりながら当代学問仕由申輩に、結句不学問の人よりおとり申もの有之候、其故は、此人元来をのれが才智にほこり、名利の心深くして、不学なりと人の申を無念に存、書籍をとりあつかひ、少々文学を知、古事ども端々覚候て、人をあなどりをのれに傲るたすけといたし候、才智有之上に文芸も有之候へば、能士の様に見へ候得共、実は仁義の心なくして、偏に盗人の振舞に候、さればこそ抜群不学の人にはおとり申候、其外は、あるひは詩文をつくり、或は書籍を翫びて、徒に日を渉る輩有之候、これは一向慰に仕るまでにて、何の益も無之事候、今おの〱へ申渡は、右のとをりの儀共にては無之候、学問は右申通、人たる所の道にて、人と生たるもの、これを不知不行候ては、偏に禽獣の有様にて候、

書き下し

凡家中の士、不擇貴賤學問をいたすべく候、學問とは別にかはり申儀はこれなく候、人たる所の道にて候へば、朝夕第一に可心得の處、脇の儀の樣に心得、學問不仕候ても、其分と存罷在躰に候、不吟味なる儀不過之候、さりながら當代學問仕由申輩に、結句不學問の人よりおとり申もの有之候、其故は、此人元來をのれが才智にほこり、名利の心深くして、不學なりと人の申を無念に存、書籍をとりあつかひ、少々文學を知、古事ども端々覺候て、人をあなどりをのれに傲るたすけといたし候、才智有之上に文藝も有之候へば、能士の樣に見へ候得共、實は仁義の心なくして、偏に盜人の振舞に候、さればこそ拔群不學の人にはおとり申候、其外は、あるひは詩文をつくり、或は書籍を翫びて、徒に日を渉る輩有之候、これは一向慰に仕るまでにて、何の益も無之事候、今おの〱へ申渡は、右のとをりの儀共にては無之候、學問は右申通、人たる所の道にて、人と生たるもの、これを不知不行候ては、偏に禽獸の有樣にて候、

現代語訳

およそ家中の士は、身分の貴賤を選ばず学問をすべきである。学問とは何か特別なものではなく、人としての道であるから、朝夕第一に心得るべきなのに、脇のことのように思い、学問をしなくてもそのままでよいと思って過ごしているのは、不吟味の極みである。しかしながら、今の世で学問をしているという者の中に、かえって学問をしない人より劣る者がいる。その理由は、この人はもともと自分の才智を誇り、名利の心が深く、学がないと人に言われるのを無念に思って、書籍を扱い、少々文学を知り、故事を端々覚えて、人を侮り自分に驕る助けとしているからである。才智がある上に文芸もあれば、よい士のように見えるが、実は仁義の心がなく、ひとえに盗人の振る舞いである。だからこそ、抜群に学のない人にも劣るのである。そのほかには、詩文を作り、書籍を玩んで、むなしく日を過ごす者がいる。これはただ慰みにするだけで、何の益もない。いま皆に申し渡すのは、このようなことではない。学問は申したとおり人たる道であり、人と生まれて、これを知らず行わないのは、ひとえに禽獣のありさまである。

解説

この段で名君は、貴賤を問わず学問をせよと命じ、学問とは特別なものではなく人としての道そのものだと言います。それを脇のことのように扱う不吟味を戒める一方で、学問をしていると称する者にも落とし穴があると指摘します。才智や名利の心から、知識を人を侮る道具にする者は、仁義の心を欠いた盗人の振る舞いで、学のない人にも劣るという厳しい評です。詩文や書物を慰みにするだけの者も益なしとされ、人として知り行うべき道を知らなければ禽獣と変わらないと結びます。知識を優越感の飾りにせず、行いに結びつけよという指摘は、資格や学歴を誇りがちな現代の職場にもそのまま響きます。

この章句が説くこと

学問人の道名利仁義知行明君家訓

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