明君家訓 / 第1条一
今度愚意の趣、一々左に書顯し、各々に申聞候故は、自今以後某も、各々とたがひに、善に進み惡を改め、各ゝは古の忠臣義士にも耻ず、某も明君賢主の跡をもしたひ、後代迄も、君臣ともに能ためしにもひかれ候樣にと、眞實に存入候、各も某が此心底をよく〱推察いたされ、常々被加異見、諸事差引たのみ申外無他候、勿論をの〱も其心得肝要候、しかれば古の聖賢の君さへ群臣の諫を求めたまふ、況某ごときもの、先祖の積善により君位にのぼり、各々の上に居るといへども、生質不肖にして、君たる道にたがひ、各々の心にそむかん事を朝夕おそれ入候、某身の行、領國の政、諸事大小によらず、少しもよろしからぬ儀、又はをの〱存寄たる儀、遠慮なく其儘可被申聞候、其國政の儀は、假初にも臣民に係り候へば、小事も大切に成候間、をの〱指圖を承筈に候、各々も遠慮有べき儀にあらず候、但し某身の上の義、右のとをり申渡候ても、某氣にあたり可申かと、はからひ被申儀可有之と無心許候、
新字:今度愚意の趣、一々左に書顕し、各々に申聞候故は、自今以後某も、各々とたがひに、善に進み悪を改め、各ゝは古の忠臣義士にも耻ず、某も明君賢主の跡をもしたひ、後代迄も、君臣ともに能ためしにもひかれ候様にと、真実に存入候、各も某が此心底をよく〱推察いたされ、常々被加異見、諸事差引たのみ申外無他候、勿論をの〱も其心得肝要候、しかれば古の聖賢の君さへ群臣の諫を求めたまふ、況某ごときもの、先祖の積善により君位にのぼり、各々の上に居るといへども、生質不肖にして、君たる道にたがひ、各々の心にそむかん事を朝夕おそれ入候、某身の行、領国の政、諸事大小によらず、少しもよろしからぬ儀、又はをの〱存寄たる儀、遠慮なく其儘可被申聞候、其国政の儀は、仮初にも臣民に係り候へば、小事も大切に成候間、をの〱指図を承筈に候、各々も遠慮有べき儀にあらず候、但し某身の上の義、右のとをり申渡候ても、某気にあたり可申かと、はからひ被申儀可有之と無心許候、
書き下し
今度愚意の趣、一々左に書顯し、各々に申聞候故は、自今以後某も、各々とたがひに、善に進み惡を改め、各ゝは古の忠臣義士にも耻ず、某も明君賢主の跡をもしたひ、後代迄も、君臣ともに能ためしにもひかれ候樣にと、眞實に存入候、各も某が此心底をよく〱推察いたされ、常々被加異見、諸事差引たのみ申外無他候、勿論をの〱も其心得肝要候、しかれば古の聖賢の君さへ群臣の諫を求めたまふ、況某ごときもの、先祖の積善により君位にのぼり、各々の上に居るといへども、生質不肖にして、君たる道にたがひ、各々の心にそむかん事を朝夕おそれ入候、某身の行、領國の政、諸事大小によらず、少しもよろしからぬ儀、又はをの〱存寄たる儀、遠慮なく其儘可被申聞候、其國政の儀は、假初にも臣民に係り候へば、小事も大切に成候間、をの〱指圖を承筈に候、各々も遠慮有べき儀にあらず候、但し某身の上の義、右のとをり申渡候ても、某氣にあたり可申かと、はからひ被申儀可有之と無心許候、
現代語訳
このたび私の考えを一つひとつ左に書き表し、皆に申し聞かせるのは、今後は私も皆も互いに善に進み悪を改め、皆は昔の忠臣義士にも恥じず、私も明君賢主の跡を慕って、後の世まで君臣そろってよい手本として引かれるようにと、心から思うからである。皆もこの私の心底をよく推察し、常々意見を加え、諸事にわたって助言してくれることを頼むほかはない。もちろん皆の側でもその心得が肝要である。さて、昔の聖賢の君主でさえ群臣の諫めを求められた。まして私のような者は、先祖の積んだ善によって君の位に登り、皆の上に居るとはいえ、生まれつき不肖で、君たる道に背き、皆の心にそむくことを朝夕恐れている。私自身の行い、領国の政治、諸事は大小によらず、少しでもよろしくないこと、またそれぞれが思いついたことは、遠慮なく申し聞かせてほしい。国政のことは、いささかでも臣民に関わるので、小事も大切になる。だから皆の指図を承るはずである。皆も遠慮すべきことではない。ただし、私自身のことについて右のとおり申し渡しても、私の気に障るのではないかと、ためらう者もあろうかと気がかりである。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
『慎思録』巻之四堯舜湯武の天下に王たるや、其の政治豈に過失有らんや。然れども堯に敢諫の鼓有り、舜に誹謗の木有り、湯に司過の士有り、武王に戒慎の鞀有り。猶ほ自ら其の過ちを知ること能はざらんことを恐る。且つ其の臣に禹稷契皐陶伊尹萊朱周公太公望散宜生の諸聖賢有りて、輔相無しと為さず。然れども其の広く其の過ちを聞知せんと欲すること此の如し。今の学者の如きも、亦た当に博く聞き広く覧ることを要すべし。己の見を主として、其の聡明を掩蔽すべからず。
-
言志四録・言志録 第七十一条 諫むる者も虚懐なるべし諫めを聞く者は、固より須らく虚懐なるべし。諫めを進むる者も、亦須らく虚懐なるべし。
-
尚書・伊訓嗚呼(ああ)、先王肇(はじ)めて人紀を修め、諫に従ひて咈(もと)らず、先民に時(こ)れ若(したが)ふ。
-
説苑・君道或るひと趙の簡子に謂いて曰く、「君何ぞ更めざるか」と。簡子曰く、「諾」と。左右曰く、「君未だ過ち有らず、何ぞ更めん」と。君曰く、「吾是れ諾と謂うは、未だ必ずしも過ち有るにあらざるなり。吾将に求めて以て諫むる者を来さんとするなり。今我之を却けば、是れ諫むる者を却くるなり。諫むる者必ず止み、我が過ち日無からん」と。
-
尚書・冏命王若(かく)のごとく曰く、「伯冏よ。惟れ予は徳に克たず、先人を嗣ぎて丕后に宅る。怵惕として惟れ厲ふみ、中夜以て興き、厥の愆を免れんことを思ふ。昔文・武に在りては、聡明斉聖にして、小大の臣、咸く忠良を懐く。其の侍御僕従、正人に匪ざる罔く、以て旦夕厥の辟を承弼し、出入起居、欽まざること有る罔く、号を発し令を施すに、臧からざること有る罔く、下民祗み若ひ、万邦咸く休す。惟れ予一人良無し、実に左右前後の位有るの士の、其の及ばざるを匡すに頼る。
-
『幽夢影』巻下・鏡をして知有らしめば必ず撲破に遭はん媸顏陋質の、鏡と仇を爲さざる者は、亦鏡を以て無知の死物と爲すのみ。鏡をして知有らしめば、必ず撲破に遭はん。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る