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及門遺範 / 先生の学問と早世

一先生講究經史、學無不該、而於聖人經綸事業尤致力、內之則自 天神創業 列聖繼述、以至 皇綱□紐、武人爲政、外之則自堯舜周孔立政明敎、漢唐宋明治亂興衰、以至身毒西洋形勢沿革、異敎罔民呑倂肆毒之跡、上下數千載、推究原委、甄別臧否、禮樂制度、經國治民之規模、人情風俗之變態、論之如指掌、而稽古徵今、自 幕府法令、及我 東藩政治敎禁、徵之文書、求之口碑、雖斷簡破牘俚言瑣語、莫不採錄蒐羅、其鈔錄記載、積至汗牛充棟、門人請著述成編、先生曰、吾學旣不得試諸事業、托之文字、亦不可以已、我將待年至知命、然後有所著作焉、其言未及遂、以五十三而終、實文政九年丙戌冬十一月朔也、距今二十餘年、門人亦離合聚散、凋不謝尠、追懷往事、泫然書之、

新字:一先生講究経史、学無不該、而於聖人経綸事業尤致力、内之則自 天神創業 列聖継述、以至 皇綱□紐、武人為政、外之則自堯舜周孔立政明教、漢唐宋明治乱興衰、以至身毒西洋形勢沿革、異教罔民呑併肆毒之跡、上下数千載、推究原委、甄別臧否、礼楽制度、経国治民之規模、人情風俗之変態、論之如指掌、而稽古徴今、自 幕府法令、及我 東藩政治教禁、徴之文書、求之口碑、雖断簡破牘俚言瑣語、莫不採録蒐羅、其鈔録記載、積至汗牛充棟、門人請著述成編、先生曰、吾学既不得試諸事業、托之文字、亦不可以已、我将待年至知命、然後有所著作焉、其言未及遂、以五十三而終、実文政九年丙戌冬十一月朔也、距今二十余年、門人亦離合聚散、凋不謝尠、追懐往事、泫然書之、

書き下し

一、先生経史を講究し、学として該ねざる無し。而して聖人経綸の事業に於いて尤も力を致す。内には則ち天神の創業、列聖の継述より、以て皇綱□紐、武人政を為すに至り、外には則ち堯舜周孔の政を立て教を明らかにするより、漢唐宋明の治乱興衰、以て身毒西洋の形勢沿革、異教の民を罔し呑併して毒を肆にするの跡に至るまで、上下数千載、原委を推究し、臧否を甄別す。礼楽制度、経国治民の規模、人情風俗の変態、之を論ずること掌を指すが如し。而して古を稽へ今に徴するに、幕府の法令、及び我が東藩の政治教禁より、之を文書に徴し、之を口碑に求め、断簡破牘、俚言瑣語と雖も、採録蒐羅せざる莫し。其の鈔録記載、積みて汗牛充棟に至る。門人著述して編を成さんことを請ふ。先生曰く、吾が学既に諸れを事業に試すを得ず。之を文字に托するも、亦た以て已むべからず。我将に年知命に至るを待ち、然る後に著作する所有らんとす、と。其の言未だ遂ぐるに及ばず、五十三を以て終はる。実に文政九年丙戌冬十一月朔なり。今を距つること二十余年、門人も亦た離合聚散し、凋謝尠からず。往事を追懐し、泫然として之を書す。

現代語訳

一 先生は経書と史書を究め、学ばないものはありませんでした。そして聖人が国を治める事業に、とりわけ力を尽くしました。国内では、天の神の創業、歴代の天皇の継承から、皇室の綱紀が(底本で判読できない字)(底本で判読できない一字)紐し、武人が政治を行うに至るまで、国外では、堯・舜・周公・孔子が政を立て教えを明らかにしたことから、漢・唐・宋・明の治乱興亡、さらにインドや西洋の形勢の移り変わり、異教が民を欺き併呑して害毒を放つ跡に至るまで、数千年を上下に見て、その始末を究め、良し悪しを見分けました。礼楽制度、国を治め民を治める規模、人情風俗の変化を、掌を指すように論じました。そして古をたずね今に証するにあたって、幕府の法令、および我が東の藩(水戸藩)の政治や教え・禁令に至るまで、文書によって裏付け、口伝えの話に求め、切れ切れの書き付けや破れた木簡、俗な言葉や細かな話であっても、採録し集めないものはありませんでした。その書き抜きや記録は、積み上げれば牛が汗をかくほど運び、家に積めば棟まで届くほどになりました。門人たちが著述をまとめることを願うと、先生は言いました。「私の学問は、すでに事業に試すことができなくなった。それを文字に託すのも、やめるわけにはいかない。私は五十歳の知命の年になるのを待って、それから著作をしようと思う」と。その言葉を果たす前に、五十三歳で亡くなりました。まことに文政九年(丙戌)冬十一月一日のことです。今から二十年余り前になり、門人たちも離れたり集まったりして、亡くなった者も少なくありません。昔のことを思い出し、涙をにじませつつこれを書きました。

解説

書の結びにあたる条です。藤田幽谷の学問は、経史から国内外の制度、幕府や藩の法令、口伝や断片的な資料まで、事業に生かすために広く集められたことが記されます。著述は知命(五十歳)を待ってと考えたまま五十三歳で亡くなり、会沢が涙をにじませて書き残しました。現代の人の上に立つ者にとっても、いつかまとめようと思っている経験や知見は、先延ばしにすると失われかねないという教訓として読めます。記録を日々残し、伝える作業は、今日から始めたいものです。

この章句が説くこと

及門遺範会沢正志斎藤田幽谷記録著述追悼

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