君子訓 / 巻之下
一或明君の言にいふ、神の罰君の罰、誠に畏るべし。然れども我が臣下の罰百姓の罰、尤恐るべし。如何となれば、神の罰はいのりて免るべし。君の罰はわびごとを以て遁るべし。唯民と臣との心を失ひて背かれぬれば、其災遁るべきやうなし。
書き下し
一或明君の言にいふ、神の罰君の罰、誠に畏るべし。然れども我が臣下の罰百姓の罰、尤恐るべし。如何となれば、神の罰はいのりて免るべし。君の罰はわびごとを以て遁るべし。唯民と臣との心を失ひて背かれぬれば、其災遁るべきやうなし。
現代語訳
ある明君の言葉にこうあります。神の罰も君の罰も、まことに恐れるべきである。けれども我が臣下の罰、百姓の罰こそ最も恐れるべきである。なぜかといえば、神の罰は祈って免れることができる。君の罰は詫びごとをして逃れることができる。ただ民と臣の心を失って背かれてしまえば、その災いは逃れようがないからだ。
解説
ある明君の言葉として、神の罰や主君の罰よりも、家臣と民の心を失うことのほうが恐ろしいと説く短い条です。神には祈り、主君には詫びれば許されることもあるが、民と臣に見放されればもう取り返しがつかないというのです。この言葉は黒田如水のものとして伝わる「神の罰より主君の罰、主君の罰より臣下百姓の罰」とも重なりますが、益軒は名を挙げていません。部下や顧客の信頼を失うことこそ組織にとって最も回復の難しい損失だという、今にも通じる警句です。
この章句が説くこと
信頼民臣罰君主
関連する章句
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『五常訓』巻之五・信是子貢にこたへ給へる意なるべし。又司馬温公の曰、信者人君の大宝なり。国は民に保ち、民は信にたもつ。信にあらざれば、民をつかふ事なく、民にあらざれば、国を守る事なし。故に古の王者は、四海を欺かずと云へり。夫国は民を以てたもつ。民したがはざれば、国ありても保ちがたし。民は信を以てたもつ。上より民を欺きいつはりて、信なければ、民上を信ぜずして、思ひつかず。民の心をたもちがたし。
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『五常訓』巻之二・仁之上是己をおす恕なり。又一には、仁を人に施すの道、我が心を以て人の心をおしはかるに、人も我も同じ心なれば、我が好む事は、人も亦必、好むものなり。我が心にきらふ事は、人も亦必きらふもの也。かくの如我が心を以て人の心にくらぶるは、つゆ違ふ事なし。不仁無礼を、人の我に施すは、我がきらふ所也。是を以て人の心をおしはかるに、人もまた不仁無礼をきらふ故に、人に不仁無礼を施さず。是恕なり。民を治むる道を以ていはば、わが身もし下にありて、困窮し饑ゑ寒え、妻を売り子を売りて、親子はなれ、兄弟妻子離散するにいたらば、我が甚きらふ事なるべし。其心を以て、民の心をおしはかるに、我がきらふ如く、民も亦きらふべき事を知りて、民の饑ゑず寒えず、困窮せず、妻子を売らざるやうに、あはれみて施すべし。
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