君子訓 / 巻之下
一人を殺し、家に火をつけ、公の財を盜む、大罪なればかならず刑に行はるゝこと、いかなる愚民も知れり。父母尊長をないがしろにし、人を打擲し、いつはりを行ひ、人の財を盜み、人の妻を犯すたぐひも、また國の大禁なり。されど右の三ヶ條の如くには民恐れず。國郡を治むる人は、兼てかやうの禁制を嚴しく立て、月々に讀みきかせ、民をして深く法令を恐れしむべし。法令ゆるがせなれば、惰りて罪を犯す者多し。民の父母として、我が國郡に死罪多きは、豈心に快からんや。是不仁にして民を愛するに心を用ひざればなり。
新字:一人を殺し、家に火をつけ、公の財を盗む、大罪なればかならず刑に行はるゝこと、いかなる愚民も知れり。父母尊長をないがしろにし、人を打擲し、いつはりを行ひ、人の財を盗み、人の妻を犯すたぐひも、また国の大禁なり。されど右の三ヶ条の如くには民恐れず。国郡を治むる人は、兼てかやうの禁制を厳しく立て、月々に読みきかせ、民をして深く法令を恐れしむべし。法令ゆるがせなれば、惰りて罪を犯す者多し。民の父母として、我が国郡に死罪多きは、豈心に快からんや。是不仁にして民を愛するに心を用ひざればなり。
書き下し
一人を殺し、家に火をつけ、公の財を盗む、大罪なればかならず刑に行はるること、いかなる愚民も知れり。父母尊長をないがしろにし、人を打擲し、いつはりを行ひ、人の財を盗み、人の妻を犯すたぐひも、また国の大禁なり。されど右の三ヶ条の如くには民恐れず。国郡を治むる人は、兼てかやうの禁制を厳しく立て、月々に読みきかせ、民をして深く法令を恐れしむべし。法令ゆるがせなれば、惰りて罪を犯す者多し。民の父母として、我が国郡に死罪多きは、豈心に快からんや。是不仁にして民を愛するに心を用ひざればなり。
現代語訳
人を殺す、家に火をつける、公の財を盗むことは大罪なので必ず刑に処されることは、どんな愚かな民でも知っています。父母や目上をないがしろにし、人を殴り、偽りを行い、人の財を盗み、人の妻を犯すたぐいもまた国の大きな禁制です。けれども右の三か条ほどには民は恐れません。国郡を治める人は、前もってこうした禁制を厳しく立て、毎月読み聞かせて、民に法令を深く恐れさせるべきです。法令がゆるがせであれば、気がゆるんで罪を犯す者が多くなります。民の父母として、自分の国郡に死罪が多いのは、どうして心地よいことでしょうか。これは不仁で、民を愛することに心を用いていないからです。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『大和俗訓』巻之三・心術上一民の司となる人、我一人のたのしみを好むべからず。民と共に楽しむべし。是まことの楽なり。天下の人は、たかきもひききも、皆我が兄弟の理ありて、本は一体なることを知り、我が心を以て人の心をおしはかり、聊人のうれひ苦む事をなすべからず。貧窮にしてうゑこごゆるもの、病者、かたはなる者、世をわたりかねて憂ひくるしめる鰥寡孤独の類をば、我が力を以て救ふべし。鰥寡孤独とは、老いて妻なきを鰥と云ひ、老いて夫なきを寡といひ、いとけなうして父なきを孤と云ひ、老いて子なきを独と云ふ。此四の者は、世の中の困窮せる民にて、人のめぐみを受くべきたよりな飢ゑこごえする人なり、いとあはれむべし。いにしへの聖人の政は、まづかやうのふびんなる民は、早くめぐみ給ふ。
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『君子訓』巻之中一文王は、民を視ること傷むが如しとて、民を治めて既に安けれども、猶も傷み苦める事あらんかと憂ひ給ふ。是仁者のこころ、国家を治むる第一の用心なり。左伝にも、国の興るは民を視ること傷むが如し、其亡ぶるは民をみる事土芥の如しといへり。是国の治乱興亡の分るる所なり。
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『大和俗訓』巻之三・心術上一民を司どる人は、民の父母なれば、民をあはれむ心を本とすべし。民の心を以て心として、民の好む事を好みてほどこし、民のきらふ事をきらひてほどこさず、父母の子を思ふが如くする故、是を民の父母と云ふ。民の上に立つ人は、民をやしなふ職分を天より授け給ふ事を知りて、天道にしたがひ、民をくるしましむべからず。我一人の楽をきはめんとて、おほくの人を苦むるは、天道の御心にそむけり。天道おそるべし。すべて人は高きもひききも同じ人なれば、民の楽み苦みも、我と同じ。我が心を以て民の心をおしはかるに違はず。民のうれひ苦みを思ひはかりて、憐むべし。不仁なる人は、民をあはれまずして、民を愛すれば奢りて上をあなどるとて、民をあはれまず。
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『君子訓』巻之上一孟子曰く、親を親しみて民を仁し、民を仁して物を愛すと言へり。君子の道は、仁を専らとして、人を慈しみ、物を憐むなり。其内に天然の次第あり。まづ親を親むとは、父母兄弟親類縁者を厚くするをいへり。次には民を仁す。民を仁すとは、臣下万民を広く慈しみ、各其所を得せしむるをいふ。もし一人も其所を得ざれば、仁するにあらず。其余は物を愛するにあり。物を愛すとは、禽獣虫魚艸木をみだりに殺さず、みだりに伐らざるをいふ。其内、親疎貴賤有情無情大小の次第によりて、仁を施すに厚薄の替りあれば、かく三の品をわけ、教を立て給へり。すべて言へば、親しむも愛するも、皆仁なり。一仁政を行はんとならば、まづ倹約を守るべし。倹約は奢縦ならざるなり。衣服居宅、よろづ内の事につきて、華美を好まず、みだりに費さざる是なり。
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『五常訓』巻之二・仁之上是己をおす恕なり。又一には、仁を人に施すの道、我が心を以て人の心をおしはかるに、人も我も同じ心なれば、我が好む事は、人も亦必、好むものなり。我が心にきらふ事は、人も亦必きらふもの也。かくの如我が心を以て人の心にくらぶるは、つゆ違ふ事なし。不仁無礼を、人の我に施すは、我がきらふ所也。是を以て人の心をおしはかるに、人もまた不仁無礼をきらふ故に、人に不仁無礼を施さず。是恕なり。民を治むる道を以ていはば、わが身もし下にありて、困窮し饑ゑ寒え、妻を売り子を売りて、親子はなれ、兄弟妻子離散するにいたらば、我が甚きらふ事なるべし。其心を以て、民の心をおしはかるに、我がきらふ如く、民も亦きらふべき事を知りて、民の饑ゑず寒えず、困窮せず、妻子を売らざるやうに、あはれみて施すべし。
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『呻吟語』内篇・談道・大擔當と大快樂仁以て己が任と為し、死して後已む、此れは是れ大擔當なり。老者は帛を衣て肉を食らひ、黎民は饑ゑず寒からず、此れは是れ大快樂なり。
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