君子訓 / 巻之上
一孟子曰、親親而仁民、仁民而愛物と言へり。君子の道は、仁を專らとして、人を慈しみ、物を憐むなり。其内に天然の次第あり。まづ親を親むとは、父母兄弟親類緣者を厚くするをいへり。次には民を仁す。民を仁すとは、臣下萬民を廣く慈しみ、各其所を得せしむるをいふ。もし一人も其所を得ざれば、仁するにあらず。其餘は物を愛するにあり。物を愛すとは、禽獸虫魚艸木をみだりに殺さず、みだりに伐らざるをいふ。其内、親疎貴賤有情無情大小の次第によりて、仁を施すに厚薄の替りあれば、かく三の品をわけ、敎を立て給へり。すべて言へば、親しむも愛するも、皆仁なり。一仁政を行はんとならば、まづ儉約を守るべし。儉約は奢縱ならざるなり。衣服居宅、よろづ内の事につきて、華美を好まず、みだりに費さざる是なり。
新字:一孟子曰、親親而仁民、仁民而愛物と言へり。君子の道は、仁を専らとして、人を慈しみ、物を憐むなり。其内に天然の次第あり。まづ親を親むとは、父母兄弟親類縁者を厚くするをいへり。次には民を仁す。民を仁すとは、臣下万民を広く慈しみ、各其所を得せしむるをいふ。もし一人も其所を得ざれば、仁するにあらず。其余は物を愛するにあり。物を愛すとは、禽獣虫魚艸木をみだりに殺さず、みだりに伐らざるをいふ。其内、親疎貴賤有情無情大小の次第によりて、仁を施すに厚薄の替りあれば、かく三の品をわけ、教を立て給へり。すべて言へば、親しむも愛するも、皆仁なり。一仁政を行はんとならば、まづ倹約を守るべし。倹約は奢縦ならざるなり。衣服居宅、よろづ内の事につきて、華美を好まず、みだりに費さざる是なり。
書き下し
一孟子曰く、親を親しみて民を仁し、民を仁して物を愛すと言へり。君子の道は、仁を専らとして、人を慈しみ、物を憐むなり。其内に天然の次第あり。まづ親を親むとは、父母兄弟親類縁者を厚くするをいへり。次には民を仁す。民を仁すとは、臣下万民を広く慈しみ、各其所を得せしむるをいふ。もし一人も其所を得ざれば、仁するにあらず。其余は物を愛するにあり。物を愛すとは、禽獣虫魚艸木をみだりに殺さず、みだりに伐らざるをいふ。其内、親疎貴賤有情無情大小の次第によりて、仁を施すに厚薄の替りあれば、かく三の品をわけ、教を立て給へり。すべて言へば、親しむも愛するも、皆仁なり。一仁政を行はんとならば、まづ倹約を守るべし。倹約は奢縦ならざるなり。衣服居宅、よろづ内の事につきて、華美を好まず、みだりに費さざる是なり。
現代語訳
孟子は「親を親しんで民を仁し、民を仁して物を愛する」と言いました。君子の道は、仁をもっぱらとして、人をいつくしみ、物を憐れむことです。その中に自然の順序があります。まず親を親しむとは、父母・兄弟・親類・縁者を厚くすることをいいます。次に民を仁します。民を仁するとは、臣下や万民を広くいつくしみ、それぞれに所を得させることをいいます。もし一人でも所を得ない者があれば、仁したことにはなりません。その次は物を愛することにあります。物を愛するとは、鳥獣・虫魚・草木をみだりに殺さず、みだりに伐らないことをいいます。そのうちでも、親しい疎い、貴い賤しい、心あるものと心ないもの、大小の順序によって、仁を施すのに厚い薄いの違いがあるので、このように三つの段階を分けて教えを立てられたのです。まとめて言えば、親しむのも愛するのも、皆仁です。仁の政治を行おうとするなら、まず倹約を守るべきです。倹約とは、奢りほしいままにしないことです。衣服や住まいなど、万事内々のことについて、華美を好まず、みだりに費やさないことがそれです。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『大和俗訓』巻之三・心術上一民の司となる人、我一人のたのしみを好むべからず。民と共に楽しむべし。是まことの楽なり。天下の人は、たかきもひききも、皆我が兄弟の理ありて、本は一体なることを知り、我が心を以て人の心をおしはかり、聊人のうれひ苦む事をなすべからず。貧窮にしてうゑこごゆるもの、病者、かたはなる者、世をわたりかねて憂ひくるしめる鰥寡孤独の類をば、我が力を以て救ふべし。鰥寡孤独とは、老いて妻なきを鰥と云ひ、老いて夫なきを寡といひ、いとけなうして父なきを孤と云ひ、老いて子なきを独と云ふ。此四の者は、世の中の困窮せる民にて、人のめぐみを受くべきたよりな飢ゑこごえする人なり、いとあはれむべし。いにしへの聖人の政は、まづかやうのふびんなる民は、早くめぐみ給ふ。
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『君子訓』巻之中一文王は、民を視ること傷むが如しとて、民を治めて既に安けれども、猶も傷み苦める事あらんかと憂ひ給ふ。是仁者のこころ、国家を治むる第一の用心なり。左伝にも、国の興るは民を視ること傷むが如し、其亡ぶるは民をみる事土芥の如しといへり。是国の治乱興亡の分るる所なり。
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『大和俗訓』巻之三・心術上一民を司どる人は、民の父母なれば、民をあはれむ心を本とすべし。民の心を以て心として、民の好む事を好みてほどこし、民のきらふ事をきらひてほどこさず、父母の子を思ふが如くする故、是を民の父母と云ふ。民の上に立つ人は、民をやしなふ職分を天より授け給ふ事を知りて、天道にしたがひ、民をくるしましむべからず。我一人の楽をきはめんとて、おほくの人を苦むるは、天道の御心にそむけり。天道おそるべし。すべて人は高きもひききも同じ人なれば、民の楽み苦みも、我と同じ。我が心を以て民の心をおしはかるに違はず。民のうれひ苦みを思ひはかりて、憐むべし。不仁なる人は、民をあはれまずして、民を愛すれば奢りて上をあなどるとて、民をあはれまず。
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『五常訓』巻之二・仁之上是己をおす恕なり。又一には、仁を人に施すの道、我が心を以て人の心をおしはかるに、人も我も同じ心なれば、我が好む事は、人も亦必、好むものなり。我が心にきらふ事は、人も亦必きらふもの也。かくの如我が心を以て人の心にくらぶるは、つゆ違ふ事なし。不仁無礼を、人の我に施すは、我がきらふ所也。是を以て人の心をおしはかるに、人もまた不仁無礼をきらふ故に、人に不仁無礼を施さず。是恕なり。民を治むる道を以ていはば、わが身もし下にありて、困窮し饑ゑ寒え、妻を売り子を売りて、親子はなれ、兄弟妻子離散するにいたらば、我が甚きらふ事なるべし。其心を以て、民の心をおしはかるに、我がきらふ如く、民も亦きらふべき事を知りて、民の饑ゑず寒えず、困窮せず、妻子を売らざるやうに、あはれみて施すべし。
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『五常訓』巻之二・仁之上其内にも、貴賤親疎の次第あり。次に物を愛す。物とは禽獣、草木を云とりけだもの草木を愛するも、各次第あり。先鳥獣を愛し、次に草木に及ぶべし。親を親み、民を仁し、物を愛するは、軽重の次第あり。親を親むは尤あつく、民を仁する是につぎ、物を愛するは民を仁するより軽し。此三は、すべていへば皆仁なり。其厚薄の次第、みだるべからず。是自然の理にして、しひて次第をわかつにはあらず。
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『呻吟語』内篇・談道・大擔當と大快樂仁以て己が任と為し、死して後已む、此れは是れ大擔當なり。老者は帛を衣て肉を食らひ、黎民は饑ゑず寒からず、此れは是れ大快樂なり。
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