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君子訓 / 巻之下

凡訴を聽くに、先入の言を主とすべからず。先入の言とは、先早く言入れたる方の詞なり。夫を信とし善と思へば、後に聞く方の言理あれども、皆僻事に聞きなすものなり。一訴訟する者、正直なるは、我に理あるを賴み、奉行に賂を送らず。故に奉行の助なし。不直なる者は、我が非を掩はんとて、奉行に賂ひ、手立を廻らすにより、是を助くる者多し。如斯なれば理は僻事になり、僻事は理となりて、刑罰あたらず。

新字:凡訴を聴くに、先入の言を主とすべからず。先入の言とは、先早く言入れたる方の詞なり。夫を信とし善と思へば、後に聞く方の言理あれども、皆僻事に聞きなすものなり。一訴訟する者、正直なるは、我に理あるを頼み、奉行に賂を送らず。故に奉行の助なし。不直なる者は、我が非を掩はんとて、奉行に賂ひ、手立を廻らすにより、是を助くる者多し。如斯なれば理は僻事になり、僻事は理となりて、刑罰あたらず。

書き下し

凡訴を聴くに、先入の言を主とすべからず。先入の言とは、先早く言入れたる方の詞なり。夫を信とし善と思へば、後に聞く方の言理あれども、皆僻事に聞きなすものなり。一訴訟する者、正直なるは、我に理あるを頼み、奉行に賂を送らず。故に奉行の助なし。不直なる者は、我が非を掩はんとて、奉行に賂ひ、手立を廻らすにより、是を助くる者多し。如斯なれば理は僻事になり、僻事は理となりて、刑罰あたらず。

現代語訳

およそ訴えを聞くには、先に入った言葉を主としてはなりません。先入の言とは、先に早く言い入れた側の言葉です。それを本当のこと、正しいことと思い込むと、後から聞く側の言葉に理があっても、みな間違いに聞こえてしまうものです。訴訟をする者のうち、正直な者は自分に理があることを頼みにして、奉行に賄賂を送りません。だから奉行の助けがありません。正直でない者は自分の非を覆い隠そうとして、奉行に賄賂を贈り、手立てをめぐらすので、これを助ける者が多いのです。こうなると理は間違いとなり、間違いは理となって、刑罰が当たらなくなります。

解説

裁く人が陥りやすい二つの落とし穴を指摘した条です。一つは先入観で、先に訴えてきた側の話を信じると、後の側の正しい言い分まで曲がって聞こえることです。もう一つは賄賂で、正直な者は理を頼んで何もせず、非のある者ほど裏で手を回すので、放っておくと理と非が逆転してしまいます。益軒は、判断の誤りが心の癖と利害の両方から生じることを見抜いています。最初に聞いた話に引きずられないことは、今の人事評価やトラブル対応でも大切な心得です。

この章句が説くこと

先入観賄賂公平訴訟正直

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