君子訓 / 巻之下
一凡たはれたる音樂を作り出して人心を蕩し、怪しく珍らしき衣服器玩又はからくりなどにて人を惑はし、鬼神左道を以て人を誑し、錢財を貪り取るは、皆姦民の所爲なり。古の明君政をするに、是等の事を堅く禁じて、背く者あれば重刑に行ひ給へり。一公事訴訟を聞くに、まづ我が心を平かにし、氣を和け、各其人の心底を、思ふやうに言に盡させ、目安などをも思ふやうに書かせて、其心を察し、證人を立てさせ、證文を出させ、我が私の贔屓偏頗なく、親戚朋友の毀譽、賴み、助を聞入れず、扨兩方いふの所理のつゞまりたる所をくらべて、其曲直是非を決すべし。もし片口を聞き、或は傍より助け譽むる者の言を信じ、夫に惑ひ移りなば、聞誤まる事多かるべし。
新字:一凡たはれたる音楽を作り出して人心を蕩し、怪しく珍らしき衣服器玩又はからくりなどにて人を惑はし、鬼神左道を以て人を誑し、銭財を貪り取るは、皆姦民の所為なり。古の明君政をするに、是等の事を堅く禁じて、背く者あれば重刑に行ひ給へり。一公事訴訟を聞くに、まづ我が心を平かにし、気を和け、各其人の心底を、思ふやうに言に尽させ、目安などをも思ふやうに書かせて、其心を察し、証人を立てさせ、証文を出させ、我が私の贔屓偏頗なく、親戚朋友の毀誉、頼み、助を聞入れず、扨両方いふの所理のつゞまりたる所をくらべて、其曲直是非を決すべし。もし片口を聞き、或は傍より助け誉むる者の言を信じ、夫に惑ひ移りなば、聞誤まる事多かるべし。
書き下し
一凡たはれたる音楽を作り出して人心を蕩し、怪しく珍らしき衣服器玩又はからくりなどにて人を惑はし、鬼神左道を以て人を誑し、銭財を貪り取るは、皆姦民の所為なり。古の明君政をするに、是等の事を堅く禁じて、背く者あれば重刑に行ひ給へり。一公事訴訟を聞くに、まづ我が心を平かにし、気を和け、各其人の心底を、思ふやうに言に尽させ、目安などをも思ふやうに書かせて、其心を察し、証人を立てさせ、証文を出させ、我が私の贔屓偏頗なく、親戚朋友の毀誉、頼み、助を聞入れず、扨両方いふの所理のつづまりたる所をくらべて、其曲直是非を決すべし。もし片口を聞き、或は傍より助け誉むる者の言を信じ、夫に惑ひ移りなば、聞誤まる事多かるべし。
現代語訳
およそみだらな音楽を作り出して人の心をとろかし、怪しく珍しい衣服や道具、あるいはからくりなどで人を惑わし、鬼神や邪道で人をたぶらかして金銭を貪り取るのは、みな悪い民のしわざです。昔の明君は政治をするにあたり、これらのことを固く禁じ、背く者があれば重い刑に処しました。公事訴訟を聞くには、まず自分の心を平らにし、気持ちを和らげ、それぞれの人の心の底を思うままに言い尽くさせ、訴状なども思うままに書かせて、その心を察し、証人を立てさせ、証文を出させ、自分の私的なひいきや偏りなく、親戚や友人の評判や頼み、口添えを聞き入れず、さて双方の言い分の理の詰まったところを比べて、その曲直是非を決めなさい。もし片方の言い分だけを聞いたり、あるいは横から助けて褒める者の言葉を信じて、それに惑わされ心を移したりすれば、聞き誤ることが多いでしょう。
解説
この章句が説くこと
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『君子訓』巻之下一訟を聞くに、其言の無礼なるを怒り悪むべからず。其言のうやまへるに悦ぶべからず。訟を聞くに喜怒起れば、それによりて私出来るものなり。又人の頼むによりて、其方に意を移すべからず。我が事しげく鬧はしとて、夫によりて訟の事をあらく決断して過ぐべからず。
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