君子訓 / 巻之下
一君子は國土の利を取り盡さずして民に與へ、運上課役をかけて民を苦めず。然れども民の利を恣にする事を禁ず。且仕へて君の祿を得る者は、商をなし利を求むべからず。故に古語にも、大を受くる者は小を取らずといへり。天道の物を生ずる、二ながら全き事なし、牙ある獸には角なし、角ある獸には上齒なし、翼あるものには手なし、花よきものは實あしゝ、實よきものは花あしゝ。士として君の祿を得る者、民と利を爭ひ、民の財を奪ふは、天道に背けり。
新字:一君子は国土の利を取り尽さずして民に与へ、運上課役をかけて民を苦めず。然れども民の利を恣にする事を禁ず。且仕へて君の禄を得る者は、商をなし利を求むべからず。故に古語にも、大を受くる者は小を取らずといへり。天道の物を生ずる、二ながら全き事なし、牙ある獣には角なし、角ある獣には上歯なし、翼あるものには手なし、花よきものは実あしゝ、実よきものは花あしゝ。士として君の禄を得る者、民と利を争ひ、民の財を奪ふは、天道に背けり。
書き下し
一君子は国土の利を取り尽さずして民に与へ、運上課役をかけて民を苦めず。然れども民の利を恣にする事を禁ず。且仕へて君の禄を得る者は、商をなし利を求むべからず。故に古語にも、大を受くる者は小を取らずといへり。天道の物を生ずる、二ながら全き事なし、牙ある獣には角なし、角ある獣には上歯なし、翼あるものには手なし、花よきものは実あしし、実よきものは花あしし。士として君の禄を得る者、民と利を争ひ、民の財を奪ふは、天道に背けり。
現代語訳
君子は国土の利益を取り尽くさずに民に分け与え、運上や課役をかけて民を苦しめません。けれども民が利を思いのままにむさぼることは禁じます。また、仕えて主君の俸禄を得ている者は、商いをして利益を求めてはなりません。だから古い言葉にも「大きなものを受ける者は小さなものを取らない」と言います。天の道が物を生み出すときは、二つながら完全なものはありません。牙のある獣には角がなく、角のある獣には上の歯がなく、翼のあるものには手がなく、花の美しいものは実が悪く、実の良いものは花が悪いのです。士として主君の俸禄を得ている者が、民と利を争い、民の財を奪うのは、天の道に背いています。
解説
この章句が説くこと
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『家道訓』巻之二・総論中一家のわざを能くつとむれば、利養は求めずして其内にあり。士は、奉公をよくつとめてへつらはず、農は田畠をよく作りて、公をおそれて公役をよくつとめ、工は器物に心を用ひてよく作り出し、粗相なる物をつくりて人を欺かず。商は交易をつとめて偽らず、高利をとらず。四民共にかくのごとくなれば、あながちに利をむさぼらざれども、福禄はおのづから来る。つとむべきわざを正路につとめずして、ひが事をして利をむさぼる者は、一旦は人により幸ありといへども、天道のにくみ給ふ理なれば、後は必ず禍あり。愚人は、当時早く利を得んとして、後の禍をしらず。四民共に、只正直にわが家のわざをよくつとめ、天道をおそれて偽なかるべし。是わざはひをのがれ、福を得る道なり。
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国語・周語上厲王、栄夷公(えいいこう)を説(よろこ)ぶ。芮良夫(ぜいりょうほ)曰く、「王室其れ将に卑(ひく)からんとするか。夫れ栄公は利を専らにするを好みて大難を知らず。夫れ利は、百物の生ずる所なり、天地の載(な)す所なり。而るに或いは之を専らにせば、其の害多し。天地百物は、皆将に焉(これ)を取らんとす、胡(なん)ぞ専らにす可けんや。怒る所甚だ多くして、大難に備えず。是を以て王に教う、王能く久しからんや。夫れ人に王たる者は、将に利を導きて之を上下に布かんとする者なり。神人百物をして其の極を得ざる無からしめ、猶お日に怵惕(じゅってき)して、怨みの来たるを懼る。故に頌に曰く、『思(ここ)に文なる后稷(こうしょく)、克く彼の天に配す。我が蒸民を立つ、爾の極に匪(あら)ざる莫し』と。大雅に曰く、『陳(の)べ錫(たま)いて周を載す』と。是れ利を布きて難を懼るるにあらずや。故に能く周を載して、以て今に至る。今王専利を学ぶ、其れ可ならんや。匹夫にして利を専らにするも、猶お之を盗と謂う。王にして之を行わば、其の帰すること鮮(すく)なからん。栄公若し用いられなば、周必ず敗れん」と。既にして、栄公卿士と為り、諸侯享せず、王彘に流さる。
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『五常訓』巻之三・仁之下常に心を用ひて、天意にしたがひ、民をあはれみ、困苦をすくひ、政をおこし、仁をほどこさば、其功大にして、天道のむくいも亦限りなかるべし。富貴の人、多くは陰徳の行ふべきことを知らず、勢に乗じて、下の苦をかへり見ず、人のつひえを厭はず、わが身ひとつの栄花をきはむれば、陰徳なくして、天地のいかり、人民のうらみ積て、後はわざはひ出来、子孫にもむくふものなり。天道は、まことに畏るべきかな。又陰徳をば行はずして、鬼神にへつらひ祈りて、福をもとめ、禍をのがれんとして、無益のことをなし、民をくるしめて、財をつひやす。是をたのんで、禍を免れんとせば、天地神明の御心にそむきて、かへりて禍あり。仏家にて、是を業福と云ふ。
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