家道訓 / 巻之二・総論中
一家のわざを能くつとむれば、利養は求めずして其内にあり。士は、奉公をよくつとめてへつらはず、農は田畠をよく作りて、公をおそれて公役をよくつとめ、工は器物に心を用ひてよく作り出し、粗相なる物をつくりて人を欺かず。商は交易をつとめて僞らず、高利をとらず。四民共にかくのごとくなれば、あながちに利をむさぼらざれども、福祿はおのづから來る。つとむべきわざを正路につとめずして、ひが事をして利をむさぼる者は、一旦は人により幸ありといへども、天道のにくみ給ふ理なれば、後は必ず禍あり。愚人は、當時早く利を得んとして、後の禍をしらず。四民共に、只正直にわが家のわざをよくつとめ、天道をおそれて僞なかるべし。是わざはひをのがれ、福を得る道なり。
新字:一家のわざを能くつとむれば、利養は求めずして其内にあり。士は、奉公をよくつとめてへつらはず、農は田畠をよく作りて、公をおそれて公役をよくつとめ、工は器物に心を用ひてよく作り出し、粗相なる物をつくりて人を欺かず。商は交易をつとめて偽らず、高利をとらず。四民共にかくのごとくなれば、あながちに利をむさぼらざれども、福禄はおのづから来る。つとむべきわざを正路につとめずして、ひが事をして利をむさぼる者は、一旦は人により幸ありといへども、天道のにくみ給ふ理なれば、後は必ず禍あり。愚人は、当時早く利を得んとして、後の禍をしらず。四民共に、只正直にわが家のわざをよくつとめ、天道をおそれて偽なかるべし。是わざはひをのがれ、福を得る道なり。
書き下し
一家のわざを能くつとむれば、利養は求めずして其内にあり。士は、奉公をよくつとめてへつらはず、農は田畠をよく作りて、公をおそれて公役をよくつとめ、工は器物に心を用ひてよく作り出し、粗相なる物をつくりて人を欺かず。商は交易をつとめて偽らず、高利をとらず。四民共にかくのごとくなれば、あながちに利をむさぼらざれども、福禄はおのづから来る。つとむべきわざを正路につとめずして、ひが事をして利をむさぼる者は、一旦は人により幸ありといへども、天道のにくみ給ふ理なれば、後は必ず禍あり。愚人は、当時早く利を得んとして、後の禍をしらず。四民共に、只正直にわが家のわざをよくつとめ、天道をおそれて偽なかるべし。是わざはひをのがれ、福を得る道なり。
現代語訳
家の仕事をよく努めれば、利益は求めなくてもその中にあります。武士は奉公をよく努めてへつらわず、農民は田畑をよく作り、お上を恐れて公役をよく務め、職人は器物に心を用いてよく作り出し、粗末な物を作って人を欺かず、商人は交易に努めて偽らず、高利を取りません。四民ともにこのようであれば、むやみに利をむさぼらなくても、福禄はおのずから来ます。努めるべき仕事を正しい道で努めず、ひがごとをして利をむさぼる者は、一時は人によって幸いがあっても、天の道の憎まれる理なので、後には必ず災いがあります。愚かな人は、その時に早く利を得ようとして、後の災いを知りません。四民ともに、ただ正直に自分の家の仕事をよく努め、天の道を恐れて偽りがないようにすべきです。これが災いを逃れ、福を得る道です。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『君子訓』巻之下一君子は国土の利を取り尽さずして民に与へ、運上課役をかけて民を苦めず。然れども民の利を恣にする事を禁ず。且仕へて君の禄を得る者は、商をなし利を求むべからず。故に古語にも、大を受くる者は小を取らずといへり。天道の物を生ずる、二ながら全き事なし、牙ある獣には角なし、角ある獣には上歯なし、翼あるものには手なし、花よきものは実あしし、実よきものは花あしし。士として君の禄を得る者、民と利を争ひ、民の財を奪ふは、天道に背けり。
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『呻吟語』内篇・修身・利に處して利を讓り、名に處して名を讓る利に處すれば則ち人をして君子を做さしめ、我は小人を做す。名に處すれば則ち人をして小人を做さしめ、我は君子を做す。斯れ惑ひの甚だしきなり。聖賢は利に處して利を讓り、名に處して名を讓る。故に淡然恬然として、世と忤らず。
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『韓非子』詭使第四十五聖人の治道を為す所以の者は三つ。一に曰く「利」、二に曰く「威」、三に曰く「名」。夫れ利なる者は、民を得る所以なり。威なる者は、令を行ふ所以なり。名なる者は、上下の同じく道とする所なり。
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孫子・九地篇利に合いて動き、利に合わずして止まる。
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『呻吟語』内篇・存心・大利も小義に換へず大利も小義に換へず、況んや小利を以て大義を壞るをや。貪る者は以て戒む可し。
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『墨子』經說上平。惔然たり。利。是を得て喜べば、則ち是れ利なり。其の害は、是に非ざるなり。害。是を得て惡めば、則ち是れ害なり。其の利は、是に非ざるなり。治。吾が事、治まれり。人に南北を治むる有り。譽む。必ず其の行いなり、其の言の忻ぶなり。人をして之を督せしむ。誹る。必ず其の行いなり、其の言の忻ぶなり。譽むるに文名を以て告ぐるは、彼の實を舉ぐるなり。故。言なる者は、諸れ口能く之を出だして民するものなり。民は畫俿の若きなり。言や言と謂う、猶お名の致すがごときなり。且。前よりするを且と曰い、後よりするを己と曰う。方に然らんとするも亦た且なり。名の若き者は、君なり、若の名を以てする者なり。功は時を待たず、衣裘の若し。功は時を待たず、衣裘の若し。賞。罪は禁に在らず、惟だ害あれば罪無きも殆く姑し。上、下の功に報ゆるなり。
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