君子訓 / 巻之中
一我朝にても、上代の帝王の政には、老人を憐み給ひ、年八十以上の民には位一階を授け、絁綿布粟をたまはり、孝子順孫義夫節婦をば、其門閭に表して終身事なからしめ、鰥寡孤獨疾病ありて、自ら存し難き者をば、惠み救ひたまひし事、舊記に多く見えたり。又大風に逢ひて百姓の廬舍破壊したるは、其年の田租を免されし事あり。
新字:一我朝にても、上代の帝王の政には、老人を憐み給ひ、年八十以上の民には位一階を授け、絁綿布粟をたまはり、孝子順孫義夫節婦をば、其門閭に表して終身事なからしめ、鰥寡孤独疾病ありて、自ら存し難き者をば、恵み救ひたまひし事、旧記に多く見えたり。又大風に逢ひて百姓の廬舎破壊したるは、其年の田租を免されし事あり。
書き下し
一我朝にても、上代の帝王の政には、老人を憐み給ひ、年八十以上の民には位一階を授け、絁綿布粟をたまはり、孝子順孫義夫節婦をば、其門閭に表して終身事なからしめ、鰥寡孤独疾病ありて、自ら存し難き者をば、恵み救ひたまひし事、旧記に多く見えたり。又大風に逢ひて百姓の廬舎破壊したるは、其年の田租を免されし事あり。
現代語訳
わが国でも、上代の帝王の政治では、老人を憐れまれ、八十歳以上の民には位を一階授け、あしぎぬ・綿・布・粟を賜り、孝行な子や孫、義を守る夫、節を守る婦人は、その家の門や村の門に表彰して一生課役を免じ、身寄りのない者や病気で自分では暮らしていけない者を恵み救われたことが、古い記録に多く見えます。また大風にあって百姓の家が壊れたときは、その年の田租を免除されたこともありました。
解説
中国の例に続いて、日本の古代にも老人をいたわり、孝子や節婦を表彰し、身寄りのない者や病人を救った政治があったことを挙げています。こうした施策は続日本紀などの古い記録に見えるもので、益軒は旧記に多く見えると述べています。災害で家が壊れた年には税を免除したという例も、今の災害時の減税や支援に通じるものです。儒教の理想を中国だけのものとせず、日本の歴史の中にも見いだそうとする益軒の姿勢がうかがえ、高齢者福祉や被災者支援の原点を考えさせる一節です。
この章句が説くこと
福祉老人孝災害仁政
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