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君子訓 / 巻之中

一幼くして父なきを孤といひ老いて子なきを獨といひ、老いて妻なきを鰥といひ、老いて夫なきを寡といふ。是を四窮民といふ。天下の内にて、いと不幸にして便なき者なり。此四の者世に多けれども、其親類の財力ありて養ふ者は飢寒に及ばず。其餘の飢寒に及ぶものは、大村といふとも二三人に過ぐべからず。是を養ふに、其費多からず。其所の奉行司より常に扶助をなして、飢寒せしむべからず。是奉行たる人の職分なり。民の飢寒するは、其所の政苛ければなり。故に乞人の多きは司の恥なり。

新字:一幼くして父なきを孤といひ老いて子なきを独といひ、老いて妻なきを鰥といひ、老いて夫なきを寡といふ。是を四窮民といふ。天下の内にて、いと不幸にして便なき者なり。此四の者世に多けれども、其親類の財力ありて養ふ者は飢寒に及ばず。其余の飢寒に及ぶものは、大村といふとも二三人に過ぐべからず。是を養ふに、其費多からず。其所の奉行司より常に扶助をなして、飢寒せしむべからず。是奉行たる人の職分なり。民の飢寒するは、其所の政苛ければなり。故に乞人の多きは司の恥なり。

書き下し

一幼くして父なきを孤といひ老いて子なきを独といひ、老いて妻なきを鰥といひ、老いて夫なきを寡といふ。是を四窮民といふ。天下の内にて、いと不幸にして便なき者なり。此四の者世に多けれども、其親類の財力ありて養ふ者は飢寒に及ばず。其余の飢寒に及ぶものは、大村といふとも二三人に過ぐべからず。是を養ふに、其費多からず。其所の奉行司より常に扶助をなして、飢寒せしむべからず。是奉行たる人の職分なり。民の飢寒するは、其所の政苛ければなり。故に乞人の多きは司の恥なり。

現代語訳

幼くして父のない者を孤といい、老いて子のない者を独といい、老いて妻のない者を鰥といい、老いて夫のない者を寡といいます。これを四窮民といいます。天下のうちでもっとも不幸で頼るところのない者です。この四つの者は世に多いですが、親類に財力があって養ってもらえる者は飢えや寒さに及びません。そのほかの飢えや寒さに及ぶ者は、大きな村でも二、三人を超えないでしょう。これを養うのに、費用は多くかかりません。その所の奉行や役人から常に扶助をして、飢えや寒さに苦しませてはなりません。これは奉行たる人の職分です。民が飢え凍えるのは、その所の政治が苛酷だからです。ですから物乞いが多いのは、役人の恥です。

解説

孤・独・鰥・寡の四窮民は、孟子梁恵王下篇で「天下の窮民にして告ぐる無き者」とされた、もっとも弱い立場の人々です。益軒は、親類のない者は大きな村でも二、三人ほどで、養う費用は多くないのだから、役人が常に扶助せよと具体的に述べています。物乞いが多いのは役人の恥だ、という言葉は、福祉を行政の責任として明確に位置づけるものです。今でいえば、ひとり親家庭や身寄りのない高齢者への支援にあたり、社会の弱い人をどう支えるかという問いは今も変わりません。

この章句が説くこと

福祉窮民職分民仁

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