君子訓 / 巻之中
一凡人の譽め誹り、必みだりに信ずべからず。善人にも人を知ること昧き人ありて、譽め謗りに誤あり。又小人婦女奴婢は、知なく私ありて、人の善惡邪正を知らず。我が心に合へば惡人をも譽めあげ、心に合はざれば善人をも謗りおとす。善行をも惡といひ、惡行をもよしといふ。小なる事を大に言ひなし、大なるひが事をも咎めず。時の勢に徇ひて、ほめそしること定まらず。道理に違ひ、正直ならず。愚なる人は、かかるひがことを信じて、君子を退け、小人を親みて、小人にたぶらかされ、名を汚し、身を亡すに至る。つゝしむべし。
新字:一凡人の誉め誹り、必みだりに信ずべからず。善人にも人を知ること昧き人ありて、誉め謗りに誤あり。又小人婦女奴婢は、知なく私ありて、人の善悪邪正を知らず。我が心に合へば悪人をも誉めあげ、心に合はざれば善人をも謗りおとす。善行をも悪といひ、悪行をもよしといふ。小なる事を大に言ひなし、大なるひが事をも咎めず。時の勢に徇ひて、ほめそしること定まらず。道理に違ひ、正直ならず。愚なる人は、かかるひがことを信じて、君子を退け、小人を親みて、小人にたぶらかされ、名を汚し、身を亡すに至る。つゝしむべし。
書き下し
一凡人の誉め誹り、必みだりに信ずべからず。善人にも人を知ること昧き人ありて、誉め謗りに誤あり。又小人婦女奴婢は、知なく私ありて、人の善悪邪正を知らず。我が心に合へば悪人をも誉めあげ、心に合はざれば善人をも謗りおとす。善行をも悪といひ、悪行をもよしといふ。小なる事を大に言ひなし、大なるひが事をも咎めず。時の勢に徇ひて、ほめそしること定まらず。道理に違ひ、正直ならず。愚なる人は、かかるひがことを信じて、君子を退け、小人を親みて、小人にたぶらかされ、名を汚し、身を亡すに至る。つつしむべし。
現代語訳
およそ人のほめそしりは、決してみだりに信じてはなりません。善い人にも人を見る目の暗い人がいて、ほめそしりに誤りがあります。また小人や女性、召使いは、知恵がなく私心があって、人の善悪や正邪を知りません。自分の心に合えば悪人でもほめ上げ、心に合わなければ善人でもそしりおとします。善い行いも悪いと言い、悪い行いも良いと言います。小さなことを大きく言いふらし、大きな過ちも咎めません。時の勢いに従って、ほめたりそしったりが定まりません。道理に違い、正直ではありません。愚かな人は、このような誤りを信じて、君子を退け、小人に親しんで、小人にたぶらかされ、名を汚し、身を滅ぼすに至ります。慎むべきです。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
『慎思録』巻之一学者は必ず道に通じて、而る後に君子の学と為すべし。故に孝弟忠信を修むるの余暇、須らく義理を研究し聡明を開発するを以て務めと為すべし。苟も然らざれば、則ち博学広聞、経義詳審なりと雖も、道に通ずること能はず、徒らに記誦訓詁の習ひのみ。何を以てか天下の事理を判断し、天下の是非を弁別して、差失無かるべけんや。且つ或いは雕虫の文、藻飾の詞を以て事と為す。巧みなりと雖も、亦何ぞ己に益し人に補ふこと有らんや。
-
『大和俗訓』巻之八・応接一人の善言を聞きて移りやすきは、誠によし。人の不善なる言を聞きて、移りやすき人あり。まよへりと云ふべし。是知なければなり。よく心の内に思案し、其言の是非をわきまへて、悪しき言にまよふべからず。一古人の言に、衆人を以て人を望めば、人従ひやすしといへり。衆人とは凡夫のことなり。人の我に対し不義なるをば、凡夫なればかくこそあらめと思ひ、なだめ許して咎めざれば、人我に従ひやすく、人そむかずとなり。君子の道を以て矩にして、凡夫を一々ただせば、一も矩にあはず。一人も全き人なかるべし。かくの如くすれば、人我に従はず、背きやすし。ひが事多きは、うき世のならひぞと思ひさとりて、人をとがめ世をうらみざる事、君子の心なり。
-
『五常訓』巻之四・義一子曰く、君子の天下に於けるや、適も無く、莫も無し、義と之れ与に比ふ。君子は天下一切のことにおいて、専らに主としてすべき事も無く、又すべからざる事もなし。是万の事、善悪一定せず、唯時の宜しき道にしたがふべし。一事を以ていはば、世に出でて必仕ふるを専らにせず、是無適なり。仕へまじき時は仕へずして、世をのがるべし。又必仕へざるを以てむねとせず。是無莫なり。仕ふべき時は仕へて、道を行ふべし。然れば、仕ふるも仕へざるも、唯義とともにしたがふべし。仕へて宜しき時は仕へ、仕ふまじき時は仕へず。是義にしたがふなり。たとへば道を行くに、早きがよしといふは適なり。早きを悪しきとするは莫なり。早く行きてよき時は早く、しづかに行きてよき時はしづかなるは、義とともにしたがふ也。人に物を与へんと定むるは適なり。与へまじきと定むるは莫なり。与ふべき時は与へ、与ふまじき時は与へず。是義とともにしたがふなり。万のこと、皆是を以ておして知るべし。義は事の主なり。万事の善悪一定せず、唯義にまかせて行ふべし。是善なり。
-
『文武訓』武訓上一張南軒曰く、君子は難を避けず。亦難に預からず。此意は、不慮にのがれがたき難に臨みて、其場をはづして身をのがるるは怯し、義にあらず。是難を去らざるなり。難にあふとも、難を避けて身をのがるべからず。又、我が身にあづからざる事にわざと出合ひて、難にあづかるは愚なり。此二は共に理にあたらず、勇にあらず。されば身を捨つることはやすけれど、捨ててかひありて理にあたることはかたし。道理にそむきて、死ぬまじき時に死し、あたら命をすつるは愚なりといふべし。死ぬべき時に死なざるは、不義といふ故に、死ぬべからざる時に死して身を失ひ、死ぬべき時に死なずして義を失ふも、共に勇にあらず、理にそむけり。
-
『囲炉夜話』第二百三則・必ず諸を心に問ふ言は盡くは信ず可からず、必ず諸を理に揆る。事は未だ遽かに行ふ可からず、必ず諸を心に問ふ。
-
『酔古堂剣掃』集醒・事に任ずる者は利害の慮を忘る事を議する者は身事の外に在り、宜しく利害の情を悉すべし。事に任ずる者は身事の中に居り、當に利害の慮を忘るべし。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る