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文武訓 / 武訓上

一張南軒曰。君子不避難。亦不預於難。此意は、不慮にのがれがたき難に臨みて、其場をはづして身をのがるゝは怯し、義にあらず。是難を去らざるなり。難にあふとも、難を避けて身をのがるべからず。又、我が身にあづからざる事にわざと出合ひて、難にあづかるは愚なり。此二は共に理にあたらず、勇にあらず。されば身を捨つることはやすけれど、捨ててかひありて理にあたることはかたし。道理にそむきて、死ぬまじき時に死し、あたら命をすつるは愚なりといふべし。死ぬべき時に死なざるは、不義といふ故に、死ぬべからざる時に死して身を失ひ、死ぬべき時に死なずして義を失ふも、共に勇にあらず、理にそむけり。

書き下し

一張南軒曰く、君子は難を避けず。亦難に預からず。此意は、不慮にのがれがたき難に臨みて、其場をはづして身をのがるるは怯し、義にあらず。是難を去らざるなり。難にあふとも、難を避けて身をのがるべからず。又、我が身にあづからざる事にわざと出合ひて、難にあづかるは愚なり。此二は共に理にあたらず、勇にあらず。されば身を捨つることはやすけれど、捨ててかひありて理にあたることはかたし。道理にそむきて、死ぬまじき時に死し、あたら命をすつるは愚なりといふべし。死ぬべき時に死なざるは、不義といふ故に、死ぬべからざる時に死して身を失ひ、死ぬべき時に死なずして義を失ふも、共に勇にあらず、理にそむけり。

現代語訳

張南軒が言いました。「君子は難を避けない。また難に関わらない」。この意味は、思いがけず逃れられない難に臨んで、その場を外して身を逃れるのは臆病で、義ではない。これが「難を避けない」ということです。難に会っても、難を避けて身を逃れてはいけません。また、自分の身に関係のない事にわざわざ出ていって難に関わるのは愚かです。この二つはともに理にかなわず、勇ではありません。ですから、身を捨てることはたやすいけれども、捨ててかいがあって理にかなうことは難しいのです。道理にそむいて、死ぬべきでない時に死に、惜しい命を捨てるのは愚かだというべきです。死ぬべき時に死なないのは不義といいます。ゆえに、死ぬべきでない時に死んで身を失うのも、死ぬべき時に死なずに義を失うのも、ともに勇ではなく、理にそむくのです。

解説

南宋の儒者張栻(号は南軒)の言葉「君子は難を避けず、また難に預からず」を解説した一節です。自分に降りかかった難からは逃げないが、関係のない争いにわざわざ首を突っ込むこともしない。その両方がそろって初めて本当の勇だと益軒は言います。身を捨てることより、捨てて意味があることの方が難しいという指摘は深いものです。職場でも、自分の責任からは逃げず、無用な対立には巻き込まれない、という線引きができる人が信頼されます。

この章句が説くこと

勇義難判断君子

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