君子訓 / 巻之上
一匹夫立針の地を持たず、衣薄く食足らざる者多し。されど是また天地の子なり。國郡の主も亦天地の子なり。國を保つ人は、其財祿の多きこと、匹夫と幾萬倍といふ事を知らず。同じく天地の子にして、其財祿の多少天地懸隔なること斯のごとし。然るに國郡を保つ人は、其國郡の寶を用ひ、身を養ひて足らず。下にある匹夫の、常にさへ衣服たらずして、飢寒を免れ難き者の財を貪るは、天道の萬民を養ひ惠み給ふ心に叶ふべからず。國郡の主といへど、其喰ふ所は匹夫より多きこと能はず、著る所も匹夫より長きこと能はず。居る所は一屋に過ぎず。然れば國郡の主といへども、財多きことを求むべからず。其領地に生ずる財を用ひて餘あり。然るにもし領地の財用にてたらざるは、是侈をなし、費多くして、其財を失ひ、儉約を行はざればなり。
新字:一匹夫立針の地を持たず、衣薄く食足らざる者多し。されど是また天地の子なり。国郡の主も亦天地の子なり。国を保つ人は、其財禄の多きこと、匹夫と幾万倍といふ事を知らず。同じく天地の子にして、其財禄の多少天地懸隔なること斯のごとし。然るに国郡を保つ人は、其国郡の宝を用ひ、身を養ひて足らず。下にある匹夫の、常にさへ衣服たらずして、飢寒を免れ難き者の財を貪るは、天道の万民を養ひ恵み給ふ心に叶ふべからず。国郡の主といへど、其喰ふ所は匹夫より多きこと能はず、著る所も匹夫より長きこと能はず。居る所は一屋に過ぎず。然れば国郡の主といへども、財多きことを求むべからず。其領地に生ずる財を用ひて余あり。然るにもし領地の財用にてたらざるは、是侈をなし、費多くして、其財を失ひ、倹約を行はざればなり。
書き下し
一匹夫立針の地を持たず、衣薄く食足らざる者多し。されど是また天地の子なり。国郡の主も亦天地の子なり。国を保つ人は、其財禄の多きこと、匹夫と幾万倍といふ事を知らず。同じく天地の子にして、其財禄の多少天地懸隔なること斯のごとし。然るに国郡を保つ人は、其国郡の宝を用ひ、身を養ひて足らず。下にある匹夫の、常にさへ衣服たらずして、飢寒を免れ難き者の財を貪るは、天道の万民を養ひ恵み給ふ心に叶ふべからず。国郡の主といへど、其喰ふ所は匹夫より多きこと能はず、著る所も匹夫より長きこと能はず。居る所は一屋に過ぎず。然れば国郡の主といへども、財多きことを求むべからず。其領地に生ずる財を用ひて余あり。然るにもし領地の財用にてたらざるは、是侈をなし、費多くして、其財を失ひ、倹約を行はざればなり。
現代語訳
身分の低い者には、針を立てるほどの土地も持たず、衣は薄く食も足りない者が多くいます。しかし、これもまた天地の子です。国や郡の主もまた天地の子です。国を保つ人は、その財や禄の多さが、身分の低い者の何万倍かわかりません。同じ天地の子でありながら、その財や禄の多少には天と地ほどの隔たりがあるのです。それなのに国や郡を保つ人が、その国の宝を用いて身を養ってもなお足りないとして、下にいる身分の低い者、ふだんから衣服も足りず飢えや寒さを免れがたい者の財を貪るのは、万民を養い恵まれる天の道の心にかなうはずがありません。国や郡の主といっても、食べる量は身分の低い者より多いことはできず、着る物も身分の低い者より長いことはできず、住む所も一軒の家を超えません。ですから国や郡の主であっても、財の多いことを求めてはなりません。その領地に生じる財を用いれば余りがあります。それなのにもし領地の財で足りないのは、奢りをなし、費用が多くて財を失い、倹約を行わないからです。
解説
この章句が説くこと
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