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正法眼蔵随聞記 / 巻三

有る夜示して云く、唐の太宗卽位の後、故殿に栖み給へり、破損せる故に、濕氣あがり、風霧冷かにして、玉體おかされつべし、臣下等造作すへき由を奏しければ、帝の言く、時き農節なり、民定めて愁ひあるべし、秋を待て造るべし、濕氣に侵さるは地にうけられず、風雨に侵さるは天に合はざるなり、天地に背かば身あるべからず、民を煩はさずんば自ら天地に合ふべし、天地に合はゝ身を侵すべからず、と云ふて終に新宮を作らず、故殿に栖み給へり、

新字:有る夜示して云く、唐の太宗即位の後、故殿に栖み給へり、破損せる故に、湿気あがり、風霧冷かにして、玉体おかされつべし、臣下等造作すへき由を奏しければ、帝の言く、時き農節なり、民定めて愁ひあるべし、秋を待て造るべし、湿気に侵さるは地にうけられず、風雨に侵さるは天に合はざるなり、天地に背かば身あるべからず、民を煩はさずんば自ら天地に合ふべし、天地に合はゝ身を侵すべからず、と云ふて終に新宮を作らず、故殿に栖み給へり、

書き下し

有る夜示して云く、唐の太宗即位の後、故殿に栖み給へり、破損せる故に、湿気あがり、風霧冷かにして、玉体おかされつべし、臣下等造作すへき由を奏しければ、帝の言く、時き農節なり、民定めて愁ひあるべし、秋を待て造るべし、湿気に侵さるは地にうけられず、風雨に侵さるは天に合はざるなり、天地に背かば身あるべからず、民を煩はさずんば自ら天地に合ふべし、天地に合はゝ身を侵すべからず、と云ふて終に新宮を作らず、故殿に栖み給へり、

現代語訳

ある夜示して言われた。唐の太宗が即位した後、古い御殿に住んでおられた。破損していたので湿気が上がり、風や霧が冷たくて、玉体が侵されかねなかった。臣下たちが造営すべき旨を奏上したところ、帝は言われた。今は農繁の季節である。民はきっと愁いがあるだろう。秋を待って造るべきである。湿気に侵されるのは地に受け入れられないのであり、風雨に侵されるのは天に合わないのである。天地に背くならば身が保てるはずがない。民を煩わせなければ、自ずと天地に合うであろう。天地に合うならば身を侵されることはない、と言って、ついに新しい宮を作らず、古い御殿に住んでおられた。

解説

臣下は健康を理由に建て替えを勧め、帝は農繁期を理由に断る。しかもその断り方が独特で、湿気や風雨に侵されるのは天地に受け入れられていないからだと読み替える。民を煩わせなければ天地に合い、天地に合えば身も侵されないという論法で、自分の健康と民の負担が別々の話ではなくなっている。断る理由の立て方に、その人の見方が出る。

この章句が説くこと

民負担時期天地治世太宗

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