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君子訓 / 巻之上

昔漢の文帝、天下の民貧しとて、一年或は半年の貢を度し免し給ひ、運上など求めざりしかば、天下の藏入の財少く、國用たらずして、困究し給ふべき事なれども、在位二十三年の間、國豐かに民富みて、天下太平なり。天子の倉には、米多くして腐り、錢繩朽ちてきれぎれになりぬるよし。漢史に記し置けり。是儉約を行ひ、諸の費を省き給ひし故なり。帝の儉約を史に記し侍るは、身に皂綈を著給ひ、幸する所の愼夫人、衣裳を地にひかず、殿上の帷帳、文繡の飾なし。嘗て露臺を作らんとて、工人に命じて、其費を積らせたまひしに百金を用ふべきよし奏せしかば、百金は中の產なりとて、其作事を止め給ひしとなり。上一人かくのごとく、少しの費を惜みて、聊の奢なく、下を厚く惠み給ひしかば、群臣以下其德に化して、儉約を守り、富み足らする事、宜なるかな。

新字:昔漢の文帝、天下の民貧しとて、一年或は半年の貢を度し免し給ひ、運上など求めざりしかば、天下の蔵入の財少く、国用たらずして、困究し給ふべき事なれども、在位二十三年の間、国豊かに民富みて、天下太平なり。天子の倉には、米多くして腐り、銭縄朽ちてきれぎれになりぬるよし。漢史に記し置けり。是倹約を行ひ、諸の費を省き給ひし故なり。帝の倹約を史に記し侍るは、身に皂綈を著給ひ、幸する所の慎夫人、衣裳を地にひかず、殿上の帷帳、文繍の飾なし。嘗て露台を作らんとて、工人に命じて、其費を積らせたまひしに百金を用ふべきよし奏せしかば、百金は中の産なりとて、其作事を止め給ひしとなり。上一人かくのごとく、少しの費を惜みて、聊の奢なく、下を厚く恵み給ひしかば、群臣以下其徳に化して、倹約を守り、富み足らする事、宜なるかな。

書き下し

昔漢の文帝、天下の民貧しとて、一年或は半年の貢を度し免し給ひ、運上など求めざりしかば、天下の蔵入の財少く、国用たらずして、困究し給ふべき事なれども、在位二十三年の間、国豊かに民富みて、天下太平なり。天子の倉には、米多くして腐り、銭縄朽ちてきれぎれになりぬるよし。漢史に記し置けり。是倹約を行ひ、諸の費を省き給ひし故なり。帝の倹約を史に記し侍るは、身に皂綈を著給ひ、幸する所の慎夫人、衣裳を地にひかず、殿上の帷帳、文繍の飾なし。嘗て露台を作らんとて、工人に命じて、其費を積らせたまひしに百金を用ふべきよし奏せしかば、百金は中の産なりとて、其作事を止め給ひしとなり。上一人かくのごとく、少しの費を惜みて、聊の奢なく、下を厚く恵み給ひしかば、群臣以下其徳に化して、倹約を守り、富み足らする事、宜なるかな。

現代語訳

昔、漢の文帝は、天下の民が貧しいからといって、一年あるいは半年の年貢を免除され、運上なども求めなかったので、天下の蔵に入る財は少なく、国の費用が足りずにお困りになるはずでしたが、在位二十三年の間、国は豊かで民は富み、天下は太平でした。天子の倉には米が多くて腐り、銭を通した縄が朽ちてばらばらになったと、漢の歴史書に記されています。これは倹約を行い、さまざまな費用を省かれたからです。帝の倹約について史書が記すところでは、ご自身は黒い厚絹の粗末な衣を着られ、寵愛された慎夫人も衣の裾を地に引きずらず、宮殿の帳にも刺繍の飾りがありませんでした。かつて露台を造ろうとして、工人に命じて費用を見積もらせたところ、百金かかると申し上げたので、「百金は中流の家の財産にあたる」と言って、その工事を止められたといいます。上の一人がこのように少しの費用も惜しんで、わずかな奢りもなく、下を厚く恵まれたので、群臣以下もその徳に感化されて倹約を守り、富み足りたのも、もっともなことです。

解説

前漢の文帝の倹約の実例を挙げています。露台の工事を「百金は中民十家の産」として取りやめた話や、自らは粗末な衣を着て、寵愛する慎夫人にも裾を引きずらせなかった話は、史記の孝文本紀に見えます。税を免除しても国が豊かになったのは、上が率先して倹約し、群臣がそれにならったからだと益軒は言います。トップが自ら経費を削る姿を見せれば、組織全体の意識が変わるという教訓は、今の企業のコスト管理や行政改革にもそのまま通じるものです。

この章句が説くこと

倹約文帝財率先徳

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