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甲陽軍鑑 / 品第十四

又馬塲美濃申すは、さらば城を責め落とし掃地をいたし城に屋形を置キ奉りて逍遙軒公を始め御親類衆を悉くうしろに陣をとらせ申シ、惣人數は御旗本の先きそへにして、山縣と内藤と拙者と三頭川を越し時々のせりあひをして長陣をはるに付きては、みかたは信州より人夫の運送近し、敵は河內和泉の人數もあれば、長陣ならずして終には信長ひき申すべしとある所に、長坂長閑申すは、それは馬塲美濃あしき分別なり、信長はどの大將がたど引き候はんや、をしかけて軍をする時は如何と長閑いへば、馬塲美濃申さるゝ、そこにては合戰をなされで叶はぬ事と云ふ、長閑申すは、あなたにしかけられて合戰なされんも、此方よりすゝみ給はんも、ひとつ道理にて候と申上れば、

新字:又馬塲美濃申すは、さらば城を責め落とし掃地をいたし城に屋形を置キ奉りて逍遥軒公を始め御親類衆を悉くうしろに陣をとらせ申シ、惣人数は御旗本の先きそへにして、山県と内藤と拙者と三頭川を越し時々のせりあひをして長陣をはるに付きては、みかたは信州より人夫の運送近し、敵は河内和泉の人数もあれば、長陣ならずして終には信長ひき申すべしとある所に、長坂長閑申すは、それは馬塲美濃あしき分別なり、信長はどの大将がたど引き候はんや、をしかけて軍をする時は如何と長閑いへば、馬塲美濃申さるゝ、そこにては合戦をなされで叶はぬ事と云ふ、長閑申すは、あなたにしかけられて合戦なされんも、此方よりすゝみ給はんも、ひとつ道理にて候と申上れば、

書き下し

又馬塲美濃申すは、さらば城を責め落とし掃地をいたし城に屋形を置キ奉りて逍遥軒公を始め御親類衆を悉くうしろに陣をとらせ申シ、惣人数は御旗本の先きそへにして、山県と内藤と拙者と三頭川を越し時々のせりあひをして長陣をはるに付きては、みかたは信州より人夫の運送近し、敵は河内和泉の人数もあれば、長陣ならずして終には信長ひき申すべしとある所に、長坂長閑申すは、それは馬塲美濃あしき分別なり、信長はどの大将がたど引き候はんや、をしかけて軍をする時は如何と長閑いへば、馬塲美濃申さるゝ、そこにては合戦をなされで叶はぬ事と云ふ、長閑申すは、あなたにしかけられて合戦なされんも、此方よりすゝみ給はんも、ひとつ道理にて候と申上れば、

現代語訳

また馬場美濃が申すには、それならば城を攻め落として掃除をし、城に御屋形を置き奉って、逍遙軒公をはじめ御親類衆を皆後ろに陣を取らせ、総人数は御旗本の先備えにして、山県と内藤と拙者と三手で川を越し、時々の競り合いをして長陣を張れば、味方は信州から人夫の運送が近い、敵は河内・和泉の人数もあるので長陣はできず、ついには信長は退くでしょう、と申すところに、長坂長閑が申すには、それは馬場美濃の悪い分別である。信長ほどの大将がどうして退きましょうか。押しかけて戦をする時はどうするのか、と長閑が言えば、馬場美濃が申されるには、その時は合戦をなさらずにはすまないことだと言う。長閑が申すには、あちらにしかけられて合戦なさるのも、こちらから進まれるのも、一つの道理でございます、と申し上げると、

解説

馬場の第三の策は、城を落として拠点とし、長陣で補給の差を使って信長の撤退を待つことだった。長閑は、信長が退かず攻めてきたらどうすると問い、戦うしかないと聞くと、ならばこちらから進むのも同じだと言いくるめた。守って迎え撃つのと、柵に向かって攻めるのとは同じではない。議論のすり替えは、結論を急ぐ場ほど見抜きにくい。言葉の上の同じと、現場の同じは違うことを見抜きたい。

この章句が説くこと

諫言判断すり替え長陣馬場美濃長坂長閑

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