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甲陽軍鑑 / 品第十四

其の人並の內に、無心懸けなる人をさして世間に申渡る臆病人なり、物前にて腰たゝず無性になる人は本の臆病者とて、結句兵よりも稀れなれば、侍千人の中にも漸く一人あり、又右すぐれて二十人のごとくなる者、千の備へには步者に侍小者へかけて二三十もあるべし、それは勝賴公も御存知あらん、定て長坂長閑·跡部大炊助は猶以て知り給はん、原美濃が小者ほつせん小幡山城が小者藤右衛門、多田淡路小者新六、是等は度々の手抦を仕つれば、結句忰者小者に手抦物あらん、

新字:其の人並の内に、無心懸けなる人をさして世間に申渡る臆病人なり、物前にて腰たゝず無性になる人は本の臆病者とて、結句兵よりも稀れなれば、侍千人の中にも漸く一人あり、又右すぐれて二十人のごとくなる者、千の備へには歩者に侍小者へかけて二三十もあるべし、それは勝頼公も御存知あらん、定て長坂長閑·跡部大炊助は猶以て知り給はん、原美濃が小者ほつせん小幡山城が小者藤右衛門、多田淡路小者新六、是等は度々の手抦を仕つれば、結句忰者小者に手抦物あらん、

書き下し

其の人並の内に、無心懸けなる人をさして世間に申渡る臆病人なり、物前にて腰たゝず無性になる人は本の臆病者とて、結句兵よりも稀れなれば、侍千人の中にも漸く一人あり、又右すぐれて二十人のごとくなる者、千の備へには歩者に侍小者へかけて二三十もあるべし、それは勝頼公も御存知あらん、定て長坂長閑·跡部大炊助は猶以て知り給はん、原美濃が小者ほつせん小幡山城が小者藤右衛門、多田淡路小者新六、是等は度々の手抦を仕つれば、結句忰者小者に手抦物あらん、

現代語訳

その人並の内で、心がけのない人を指して世間でいう臆病人である。物の前で腰が立たず、正体をなくす人は本当の臆病者といって、かえって兵(つわもの)よりも稀であるから、侍千人の中にもようやく一人である。また右の優れた二十人のような者は、千人の備えなら、徒歩の者から侍の小者にかけて二、三十人もあるであろう。それは勝頼公もご存じであろうし、長坂長閑・跡部大炊助はなおさら知っておられよう。原美濃の小者ほつせん、小幡山城の小者藤右衛門、多田淡路の小者新六、これらは度々手柄を立てたので、かえって忰者・小者に手柄者があるものである。

解説

世間が臆病と呼ぶのは、多くは心がけのない人並の者で、本当に腰の立たない臆病者は千人に一人しかいないという。逆に優れた者は、身分の低い小者の中にも名のある手柄者がいる。人を身分や肩書で臆病とも有能とも決めつけるな、という戒めである。現場の末端にいる人の中にこそ、実績のある者がいると知っておきたい。安易な決めつけは、埋もれた人材を見逃すもとになると心得ておきたい。

この章句が説くこと

人材臆病評価小者手柄身分

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