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甲陽軍鑑 / 品第十三

殊更此程我々兩人小田原へよき者を指越し承候へば、北條家には何のさたもなく上杉則政公御旗を出されば、めつぽうに究まりたり、其意趣は氏繩が子氏康當年二十二歲に罷成るが、武邊のこと一圓心がけず、たど歌斗りよみて罷在り、扨は男色二置するなにとのめばな立ちごと述定。男女のおいやけを大盛代々年では武邊仕さうなる侍なく候處に、當家の家老衆北條家をこともなのめにおぞみ給ふこと、一段聞へぬ儀なり、又本間江州·井又左近兩人武略をよく仕たるとのこと、彼兩人上杉家へ歸參申度とて皆僞りの作りごとゝ聞へ候縱へ能く仕ても武略は大敵にこそ用る者にて候へ、上杉家の被官よりはらいさき者に何の機遣にて武略なさるべき、當家の各おかしきことを申され候、

新字:殊更此程我々両人小田原へよき者を指越し承候へば、北条家には何のさたもなく上杉則政公御旗を出されば、めつぽうに究まりたり、其意趣は氏縄が子氏康当年二十二歳に罷成るが、武辺のこと一円心がけず、たど歌斗りよみて罷在り、扨は男色二置するなにとのめばな立ちごと述定。男女のおいやけを大盛代々年では武辺仕さうなる侍なく候処に、当家の家老衆北条家をこともなのめにおぞみ給ふこと、一段聞へぬ儀なり、又本間江州·井又左近両人武略をよく仕たるとのこと、彼両人上杉家へ帰参申度とて皆偽りの作りごとゝ聞へ候縦へ能く仕ても武略は大敵にこそ用る者にて候へ、上杉家の被官よりはらいさき者に何の機遣にて武略なさるべき、当家の各おかしきことを申され候、

書き下し

殊更此程我々両人小田原へよき者を指越し承候へば、北条家には何のさたもなく上杉則政公御旗を出されば、めつぽうに究まりたり、其意趣は氏縄が子氏康当年二十二歳に罷成るが、武辺のこと一円心がけず、たど歌斗りよみて罷在り、扨は男色二置するなにとのめばな立ちごと述定。男女のおいやけを大盛代々年では武辺仕さうなる侍なく候処に、当家の家老衆北条家をこともなのめにおぞみ給ふこと、一段聞へぬ儀なり、又本間江州·井又左近両人武略をよく仕たるとのこと、彼両人上杉家へ帰参申度とて皆偽りの作りごとゝ聞へ候縦へ能く仕ても武略は大敵にこそ用る者にて候へ、上杉家の被官よりはらいさき者に何の機遣にて武略なさるべき、当家の各おかしきことを申され候、

現代語訳

ことにこのごろ我々両人が小田原へよい者を差し向けて承りましたところ、北条家には何の沙汰もなく、上杉則政公が御旗を出されれば、滅亡に極まっております。その意趣は、氏縄の子氏康は当年二十二歳になりますが、武辺のことは一向に心がけず、ただ歌ばかり詠んでおります。さては男色(底本ここ判読しがたい)、武辺をしそうな侍もございませんのに、当家の家老衆が北条家をことのほか恐れなさるのは、ひどく納得のいかないことです。また本間江州・井又左近の両人が武略をよくしたということは、かの両人が上杉家へ帰参したいために皆偽りの作りごとと聞こえます。たとえよくしたとしても、武略は大敵にこそ用いるものでございます。上杉家の被官よりもはるかに小さい者に、何の気遣いで武略をなさるのでしょうか。当家の各々はおかしなことを申されます。

解説

側近は自前の探りを持ち出し、氏康は歌ばかりで武辺の心がけがなく、北条には人もいないと言う。本間と井又の報告は帰参のための作り話だとし、小さな相手に武略など要らないと家老衆を笑う。以前の探りと正反対の結論であり、どちらが事実かを確かめる手立てを主君は取らなかった。相反する報告が並んだ時、報告者の利害を見ずに好みで選べば判断を誤るのである。確かめる手立てを持たない主君は、声の大きい側に流される。

この章句が説くこと

讒言情報侮り武略判断側近

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