甲陽軍鑑 / 品第十三
若侍共則政公御馬出は北條家を誅罰今明日の樣に各さたあれど則政未練ぎあひにて、ちと臆病にましますか、今年來年と申せとも以上に山内殿馬出し給ふこと更になければ、管領の御馬にて出かぬると申は此時代より始まれり、扨こそ上杉公はわろく思ひければ、ゆだん成大將と是をいふ、扨伊豆の小國より出たる北條といやしむるは一段あしきさたなり、さあらば奥州の大將は皆よからんか非義なり、
新字:若侍共則政公御馬出は北条家を誅罰今明日の様に各さたあれど則政未練ぎあひにて、ちと臆病にましますか、今年来年と申せとも以上に山内殿馬出し給ふこと更になければ、管領の御馬にて出かぬると申は此時代より始まれり、扨こそ上杉公はわろく思ひければ、ゆだん成大将と是をいふ、扨伊豆の小国より出たる北条といやしむるは一段あしきさたなり、さあらば奥州の大将は皆よからんか非義なり、
書き下し
若侍共則政公御馬出は北条家を誅罰今明日の様に各さたあれど則政未練ぎあひにて、ちと臆病にましますか、今年来年と申せとも以上に山内殿馬出し給ふこと更になければ、管領の御馬にて出かぬると申は此時代より始まれり、扨こそ上杉公はわろく思ひければ、ゆだん成大将と是をいふ、扨伊豆の小国より出たる北条といやしむるは一段あしきさたなり、さあらば奥州の大将は皆よからんか非義なり、
現代語訳
若侍どもは、則政公が御馬を出されれば北条家の誅罰は今日明日のようだと各々噂したが、則政は未練な気合いで、ちと臆病でおられるのか、今年か来年かと申しても、ついに山内殿が馬を出されることはさらになかったので、管領の御馬ではなかなか出かねる、という言い方はこの時代から始まった。さてこそ上杉公を悪く思ったので、ゆだんなる大将とこれを言う。さて伊豆の小国から出た北条といやしむのは、ひどく悪い沙汰である。それならば奥州の大将は皆よいというのか、道理に合わない。
解説
この章句が説くこと
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『甲陽軍鑑』品第十三其ごとく則政わらはべの如くにて、すがの·上原が当座に機にいるとて、北条家をそしるをまことゝ思ひ給ふ、則政公陣をいやがる底意は臆病なる故なり、始はいげん入道が諫を合点ありて、すとりてあしき夫馬のごとし、すがの·上原にいはれ、のちの変改は馬畜生にもお是も至て臆病の故なり、北条家をあしくいふとて武田信虎公平賀成頼にかち、村上頼平公長尾為景にかつ、合戦のこと迄申出し氏縄をわろくいふは全体女が我とひとつ位の美人をあしういはんとては、又我よりみめのましなる女を引出し、あれがあれほどみめよく共、そんぢやうそれにはをとりたるといふて、そねむ心は則政の北条家悪口するをよろこび給ふ、是もいたりて臆病なる心なり、扨こそ未練なる大将は、女に似たるとは申すなり、
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『甲陽軍鑑』品第十三されども管領則政公には、両出頭のすがの大膳·上原兵庫是を聞て申しけるは、北条宗雲元来伊豆のいかにもちいさき所より出でたる族の、氏康がなにの深きことあるべき、伊豆·相摸両国持ても北条二人·三人合たる程の大身衆、越後·関東·奥両国へかけては則政公御旗下に五六人も在之、上杉家に伝る衆にも北条程の者は有まじげに、はびこるに付ては則政公旗を出され、たゞ一陣に北条家を誅罰し給はんと、すがの·上原両人の口にて、
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『甲陽軍鑑』品第十三某関東の侍たちに馬の目利をとふたれば東西にて母に離れぬも、よき馬になる離なれて草を食は、なを能キ馬に成ル、つきつ離れつする馬は後、夫馬に成てもおもき荷持事ならず、遠き路もならず、やす馬と是をいふ、如レ此畜生さへ機の展転するはあしきに、いはんや日本六十余州において西国に大内殿、関東に上杉殿とて、都を持つ人よりは人数持の大身が、よき家老のよき諫を聞しらでしかも我に忠節したる本間江州·井又左近を、すがの·上原両人に讒言せられて始め誉たる口を引かへ、又あしう仰らるゝはたゝ二ツ三ツの童のごとし、
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『甲陽軍鑑』品第十三扨て此則政の家中には何たる手抦人をも小身なるをばいやしみ、小身にてもよき分別有るべきをばそねみ、又出頭の上原·すがの親類共、大身衆の由贔負をば何たる耄者をもそねまず、わかき人々いんげんに名を取りたる者ならば、是非ともすりかけんと、うでだてを申せども、是も小身にして人の名をよぶ者へは、自然日比申すごとく一言もいへども、仕合せよくして手抦有る人には、かげにてはいへども向いては陣防癈忘する、とかく意地きたなふて、身上の大なるに怖ば臆病の色斗り、
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『甲陽軍鑑』品第十三され共北条家をば小身とていやしみ氏康公出で給へ共、上杉家の人数二万·三万むかい、神奈川·品川·武蔵の府中たかいど·ところ沢·せたがや·などゝいふ所にて氏康と両上杉とつがう八年の取り合ひに、則政公一度も出で給はず少敵とていやしめど、上杉家大将出でざる故、大合戦にもこぜりあひにも、上杉衆皆負けて氏康一度かたずと云ふ事なし、誠に北条家弓矢巳の時とかゝやきばんじまつりごと宜しければ、上杉家の功者共さてあぶなしとつぶやく、
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『甲陽軍鑑』品第十三巻第五弱過たる大将の事弱過たる大将の事付両上杉井北条家生起合厳物語事第三番に臆病なる大将は、心愚痴にして女に似たる故、人を猜みとめる者を好み諂へるを愛し、物ごと無穿鑿に分別なく、無慈悲にして心至らねば人を見しり給はず、機のはしりたるなくこほり堅まりたるやうなれ共、異相なり、是偏に弱大将の女のごとくにありて、心愚痴成るをもつて如此、ケ様の人も大将といへば、しかも大名にて二万·三万或は五万·六万の人数を持ても、忝存ずる者は百人の内外ならでなし、
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
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