甲陽軍鑑 / 品第十三
必ずよき大將は道理を能く別けらるこを以て名大將とは申し奉つる、名大將は道理非のわかること、敵も味方も同風なり、又道理のわかたざるは心のいたらざればなり、心の至らぬ大將をさしてあしき大將と申す、先づ一番によくこころ靜かなる大將の度々軍に勝ち威光强よければ、一入おも〳〵敷くみへ候、君子のおもきは奧深く候て、少しも越度なし、其下の侍大小·上下共に念をつかひ義を全ふする故、邪慾なうして私くしなる意地なければ、善惡のさた敵味方のことなり共有る樣に、申す事は一ツも首尾のちがはざる樣にと心がくるにつき、侍衆大小共に越度なることまれ也、
新字:必ずよき大将は道理を能く別けらるこを以て名大将とは申し奉つる、名大将は道理非のわかること、敵も味方も同風なり、又道理のわかたざるは心のいたらざればなり、心の至らぬ大将をさしてあしき大将と申す、先づ一番によくこころ静かなる大将の度々軍に勝ち威光強よければ、一入おも〳〵敷くみへ候、君子のおもきは奥深く候て、少しも越度なし、其下の侍大小·上下共に念をつかひ義を全ふする故、邪慾なうして私くしなる意地なければ、善悪のさた敵味方のことなり共有る様に、申す事は一ツも首尾のちがはざる様にと心がくるにつき、侍衆大小共に越度なることまれ也、
書き下し
必ずよき大将は道理を能く別けらるこを以て名大将とは申し奉つる、名大将は道理非のわかること、敵も味方も同風なり、又道理のわかたざるは心のいたらざればなり、心の至らぬ大将をさしてあしき大将と申す、先づ一番によくこころ静かなる大将の度々軍に勝ち威光强よければ、一入おも〳〵敷くみへ候、君子のおもきは奥深く候て、少しも越度なし、其下の侍大小·上下共に念をつかひ義を全ふする故、邪慾なうして私くしなる意地なければ、善悪のさた敵味方のことなり共有る様に、申す事は一ツも首尾のちがはざる様にと心がくるにつき、侍衆大小共に越度なることまれ也、
現代語訳
必ずよい大将は道理をよく分けられるので、名大将と申し上げるのである。名大将は道理と非道の分かれることが、敵も味方も同じ風である。また道理の分からないのは心が至らないからである。心の至らない大将を指して悪い大将という。まず第一に、よく心静かな大将が度々の戦に勝ち、威光が強ければ、ひとしお重々しく見える。君子の重さは奥深くて少しも越度がない。その下の侍は大小・上下ともに念を使い義を全うするので、邪欲がなく私の意地がないから、善悪の沙汰が敵味方のことであってもありのままに、申すことは一つも首尾が違わないようにと心がけるにつけ、侍衆は大小ともに越度がまれである。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『甲陽軍鑑』品第十四さて又大将の一方向なるをばきず有と申ス、强からん所をばよくつようし給ひ、よはからん所をば能よはく、こはからん所をは能こはく、やはらかならん所をば能やはらかに如此なるを能大将と申す、ケ様なる大将の下にては若き衆是非と武辺を心がくる故、忠節·忠功の衆をば羨ましがる者なり、うらやましければ必ず其手抦なる人を崇る者なり、縦ば能児若衆を是非と望めば、其若衆の親類迄を馳走するなり、又能書ならはんと思ふ者は能書の人を馳走する心に其若を矢切に是非此君の用にたゝんと存る侍は、必す其君へ忠節したる人をちそうする、其君を思はすして恩斗うけて用に立事を心懸ざる侍は、其家にて君に忠功·忠節したる人を猜む者なり、此儀を能御覧じ分給へ、
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『甲陽軍鑑』品第十三强き大将はふまへ所有るに付き、下劣の口に侵されず、生れ付きたるごとくにありて、俄かに器用も立てずしてまします、是れも强成る故ぞかし、必ず心の剛なる大将は主の意地にあてがふて、目利きし給ふにより少しも崇敬有る侍に柔弱なるはなし、縦へば十人の中に一二人よわき者あれども、それは又何ぞ取り得の有ること一二ヶ条も在之、とかくとしてむてなるはさのみなし、それ〳〵の得物を目利きし給びて召しつかはるゝは、是れ心の剛なる大将のわざなり、
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『甲陽軍鑑』品第十二能き大将は行義よけれは義理ふかし、義理深けれは分別有り、分別あれは慈悲有り、慈悲深ければ縦へ生付候て様子はそゝけても静かにして、それ〳〵に人をみしりてつかひ給へは、一人として恨み申すべき様なし、自然町人·地下人をめしよせらるゝことあれども、さし定りて台所のかたはらなどに置き、用の時召しよせられ、町人には売買などの事尋ね給ひ、地下人には其筋の様子か又は百姓のうはさ、何にても不審有ることを尋ね有り、隙あけば本の所へ帰りて罷在る作法なる故、侍衆のことは是非に及ばず、小者·中間又若党迄も奉公人とみては、町人·百姓共畏まり、或はへり道をいたし通すなり、蔵法師衆も百姓をのだニてゝを賑はし、公儀の物を盗ず、侍衆を執する事是れ能く大将の能き人を召しつかひ給ふ故なり、
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『甲陽軍鑑』品第十二よき大将は軍の時悉く皆我ざいをもつて勝利を得給ひても、主の手抦とはなくして、近習·小姓·小殿原·若党·小人·中間衆迄も誉たて、皆あれらが働きをもつて合に勝たりト教育。故に如此の大時の上には大名小名点〓之若蠶小武辺おぼへの者多く出る本ニハ「さを以てや、動いて、いは得云者なり、然は慎之公宜ふは将将の為に絶てももは多若夢·中間小者は尊近合廿人衆·小人·中間衆に一きだ て入念を入給ひ、
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『甲陽軍鑑』品第十三心剛なれば義理深かし、ぎり深ければ行儀よし、行儀よければ時にあたりて、毛頭色を好む、遊山などし給ふと人の恨み申す様なる儀も不当もし給はず、義理を専らまもり給ふなれば我等忠節のど者には、大綱をば多く細心をば少しつゝも宛て行ひ、無足なる人一人も候はで、縦へ常には器用立なし共、意地きたなしとは申しがたし、さて又臆病なる大将は義理をばわきになし、外聞を本にし給へば、ゑりもとかへもなく心のいさまさる是れは弱大将の仕形なり、
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『甲陽軍鑑』品第十三右の静かなる大将を心のいたらざるあしき大将のまね給へば一段と遅怠候、此遅怠の大将の下にては、侍大小共に分別なくして分別だてを仕り、万事長々敷て埓あかず、又諸侍老若共に大事なきことを深く取成し、耳談合などをして、やうが鼻ましき人の分別をはなへ出すは無分別のみの時なり、
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