国語 / 晋語五
伯宗朝,以喜歸。其妻曰:「子貌有喜,何也?」曰:「吾言於朝,諸大夫皆謂我智似陽子。」對曰:「陽子華而不實,主言而無謀,是以難及其身。子何喜焉?」伯宗曰:「吾飲諸大夫酒,而與之語,爾試聽之。」曰:「諾。」既飲,其妻曰:「諸大夫莫子若也。然而民不能戴其上久矣,難必及子乎!盍亟索士整庇州犁焉。」得畢陽。及欒弗忌之難,諸大夫害伯宗,將謀而殺之。畢陽實送州犁于荊。
新字:伯宗朝,以喜帰。其妻曰:「子貌有喜,何也?」曰:「吾言於朝,諸大夫皆謂我智似陽子。」対曰:「陽子華而不実,主言而無謀,是以難及其身。子何喜焉?」伯宗曰:「吾飲諸大夫酒,而与之語,爾試聴之。」曰:「諾。」既飲,其妻曰:「諸大夫莫子若也。然而民不能戴其上久矣,難必及子乎!盍亟索士整庇州犁焉。」得畢陽。及欒弗忌之難,諸大夫害伯宗,将謀而殺之。畢陽実送州犁于荊。
書き下し
伯宗朝して、喜びを以て帰る。其の妻曰く、「子の貌に喜び有り、何ぞや」と。曰く、「吾朝に言うに、諸大夫皆我を智陽子に似たりと謂う」と。対えて曰く、「陽子は華にして実ならず、言を主として謀無し、是を以て難其の身に及べり。子何ぞ喜ばん」と。伯宗曰く、「吾諸大夫に酒を飲ましめて、之と語らん。爾試みに之を聴け」と。曰く、「諾」と。既に飲む。其の妻曰く、「諸大夫子に若(し)くは莫し。然れども民の其の上を戴く能わざること久し。難必ず子に及ばんか。盍(なん)ぞ亟(すみ)やかに士を索(もと)めて州犁(しゅうり)を整庇(せいひ)せざる」と。畢陽(ひつよう)を得たり。欒弗忌(らんふつき)の難に及び、諸大夫伯宗を害し、将に謀りて之を殺さんとす。畢陽実に州犁を荊(けい)に送る。
現代語訳
伯宗が朝廷から、喜んだ様子で帰ってきた。妻が言った。「お顔に喜びが見えますが、どうなさったのですか。」伯宗は言った。「朝廷で発言したら、大夫たちがみな、わしの智恵は陽子(陽処父)に似ていると言ったのだ。」妻は答えた。「陽子は花ばかりで実がなく、口ばかり達者で深い謀がありませんでした。だから災いがその身に及んだのです。何を喜ぶことがありましょう。」伯宗は言った。「それなら大夫たちを招いて酒を飲み、語り合ってみよう。お前はそっと聞いていてみよ。」妻は「承知しました」と言った。酒宴が済むと、妻は言った。「大夫たちは誰もあなたに及びません。けれども民が上に立つ賢者を戴かなくなって久しいのです。災いはきっとあなたに及ぶでしょう。すぐに頼れる士を探し、州犁(伯宗の子)を託して守らせてはいかがですか。」こうして伯宗は畢陽(晋の士)を得た。のちに欒弗忌(晋の大夫)の難が起こると、大夫たちは伯宗を害そうとして、謀って殺そうとした。このとき畢陽は州犁を守って荊(楚)へ送り届けた。
解説
この章句が説くこと
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国語・晋語五陽処父(ようしょほ)衛に如(ゆ)き、反(かえ)りて甯(ねい)を過ぎ、逆旅(げきりょ)の甯嬴氏(ねいえいし)に舎る。嬴其の妻に謂いて曰く、「吾君子を求むること久し、今乃ち之を得たり」と。挙(た)ちて之に従う。陽子道すがら之と語り、山に及びて還る。其の妻曰く、「子求むる所を得て之に従わず、何ぞ其れ懐(おも)うや」と。曰く、「吾其の貌を見て之を欲し、其の言を聞きて之を悪(にく)む。夫れ貌は情の華なり。言は貌の機なり。身は情を為し、中に成る。言は身の文なり。言文にして之を発し、合して後に行う、離るれば則ち釁(きず)有り。今陽子の貌は済(な)れども、其の言は匱(とぼ)し、其の実に非ざるなり。若し中済らずして外之を彊(し)うれば、其の卒(つい)に将に復(かえ)らんとし、中は外を以て易(かわ)らん。若し内外類(よ)くして言之に反すれば、其の信を瀆(けが)すなり。夫れ言は以て信を昭らかにす、之を奉ずること機の如く、時を歴て之を発す、胡(なん)ぞ瀆す可けんや。今陽子の情は譓(けい)なり、済すを以て蓋うなり。且つ剛にして能を主(たっと)び、本づかずして犯す、怨みの聚まる所なり。吾未だ其の利を獲ずして其の難に及ばんことを懼る、是の故に之を去る」と。期年にして、乃ち賈季(かき)の難有り、陽子之に死す。
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国語・晋語九衛より還り、三卿藍台(らんだい)に宴す。智襄子、韓康子(かんこうし)に戯れて段規(だんき)を侮る。智伯国(ちはくこく)之を聞き、諫めて曰く、「主備えずんば、難必ず至らん」と。曰く、「難は将に我に由らんとす。我難を為さずんば、誰か敢えて之を興さん」と。対えて曰く、「是に異なり。夫れ郤氏に車轅の難有り、趙に孟姫の讒有り、欒に叔祁の愬(うった)え有り、范・中行に亟治(きょくち)の難有り。皆主の知る所なり。夏書に之れ有りて曰く、『一人三たび失す、怨み豈に明らかなるに在らんや。見えざるに是れ図れ』と。周書に之れ有りて曰く、『怨みは大に在らず、亦小に在らず』と。夫れ君子は能く小物を勤む、故に大患無し。今主一宴して人の君相を恥ずかしめ、又備えずして『敢えて難を興さず』と曰う。乃ち不可なること無からんや。夫れ誰か喜ぶべからざらん、而して誰か懼るべからざらん。蜹蟻蜂蠆(ぜいぎほうたい)も皆能く人を害す。況んや君相をや」と。聴かず。是より五年にして、乃ち晋陽の難有り。段規反し、難を首(はじ)め、智伯を師に殺し、遂に智氏を滅ぼす。
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説苑・貴德智伯衛より還り、三卿藍臺に燕す、智襄子韓康子に戯れて段規を侮る、智果之を聞きて諫めて曰く、「主難に備へずんば、難必ず至らん」と。曰く、「難将に我に由らんとす、我難を為さざれば、誰か敢へて之を興さん」と。対へて曰く、「是に異なり、夫れ郤氏には車轅の難有り、趙には孟姫の讒有り、欒には叔祁の訴有り、范中行には函冶の難有り、皆主の知る所なり。夏書に之有りて曰く、『一人三たび失す、怨み豈に明に在らんや、見えざるに是れ図れ』と。周書に之有りて曰く、『怨みは大に在らず、亦た小に在らず』と。夫れ君子は能く小物を勤む、故に大患無し。今主一謀にして人君・相を媿しめ、又備へずんば、敢へて難を興さずと曰ふも、乃ち不可ならざらんや。嘻、懼れざるべからず、蚋蟻蜂蠆すら皆能く人を害す、況んや君相をや」と。聴かず、是より五年にして晋陽の難有り、段規反りて智伯を師に殺す、遂に智氏を滅ぼす。
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国語・晋語五梁山崩る。伝(てん)を以て伯宗(はくそう)を召す。大車の道に当たりて覆(くつがえ)るに遇う。立ちて之を辟(さ)けしめて曰く、「伝を避けよ」と。対えて曰く、「伝は速やかなるが為なり。若し吾が避くるを俟(ま)たば、則ち加(ますます)遅からん。捷(ちかみち)して行くに如かず」と。伯宗喜び、其の居を問う。曰く、「絳(こう)の人なり」と。伯宗曰く、「何をか聞く」と。曰く、「梁山崩れて伝を以て伯宗を召すと」と。伯宗問いて曰く、「乃ち将に若何(いかん)せんとする」と。対えて曰く、「山に朽壌有りて崩る、将に若何せん。夫れ国は山川を主(つかさど)る。故に川涸れ山崩るれば、君之が為に服を降し、次(やど)りを出で、縵(まん)に乗り、挙げず、上帝に策し、国三日哭して、以て礼す。伯宗と雖も亦た是くの如きのみ、其れ之を若何せん」と。其の名を問えども告げず、以て見(まみ)えしめんことを請えども許さず。伯宗絳に及び、以て告ぐ。而して之に従う。
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国語・晋語九智宣子(ちせんし)将に瑤(よう)を以て後と為さんとす。智果(ちか)曰く、「宵(しょう)に如かざるなり」と。宣子曰く、「宵や佷(こん)なり」と。対えて曰く、「宵の佷は面に在り、瑤の佷は心に在り。心の佷は国を敗り、面の佷は害あらず。瑤の人に賢(まさ)る者は五、其の逮(およ)ばざる者は一なり。美鬢(びびん)長大なるは則ち賢り、射御足力なるは則ち賢り、伎芸畢(ことごと)く給(た)るは則ち賢り、巧文辯恵なるは則ち賢り、彊毅果敢なるは則ち賢る。是くの如くにして甚だ不仁なり。其の五賢を以て人を陵(しの)ぎ、而して不仁を以て之を行わば、其れ誰か能く之を待たん。若し果たして瑤を立てば、智宗必ず滅びん」と。聴かず。智果族を太史に別ちて輔氏(ほし)と為る。智氏の亡ぶるに及ぶや、唯だ輔果のみ在り。
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国語・晋語一献公驪戎を伐ちて之に克ち、驪子を滅ぼし、驪姫を獲て以て帰り、立てて以て夫人と為し、奚斉(けいせい)を生む。其の娣(てい)卓子を生む。驪姫、申生をして曲沃を主(つかさど)りて以て懸(けん)を速やかにせしめ、重耳(ちょうじ)をして蒲城に処らしめ、夷吾をして屈に処らしめ、奚斉をして絳(こう)に処らしめ、以て辱め無きの故を儆(いまし)めんことを請う。公之を許す。 史蘇朝し、大夫に告げて曰く、「二三大夫其れ之を戒めよ。乱本生ぜり。日(さき)に、君驪姫を以て夫人と為す。民の疾心固より皆至る。昔の伐つや、百姓を興すに百姓の為にするを以てす。是を以て民能く之を欣び、故に忠を尽くし労を極めて以て死を致さざる莫きなり。今君百姓を起こして以て自ら封ず。民外には其の利を得ずして、内には其の貪を悪む。則ち上下既に判(わか)るる有り。然り而して又男を生む。其れ天道なるか。天其の毒を彊くし、民其の態を疾む。其れ乱生ぜんかな。吾聞く、君の好を好みて悪を悪み、楽を楽しみて安を安んず、是を以て能く常有りと。木を伐りて其の本よりせずんば、必ず復た生ず。水を塞ぎて其の源よりせずんば、必ず復た流る。禍を滅ぼして其の基よりせずんば、必ず復た乱る。今君其の父を滅ぼして其の子を畜(やしな)う。禍の基なり。其の子を畜い、又其の欲に従う。子は父の恥に報いんことを思いて其の欲を信(の)ぶ。色を好むと雖も、必ず心を悪む。好むと謂うべからず。其の色を好めば、必ず之に情を授く。彼其の情を得て以て其の欲を厚くし、其の悪心に従わば、必ず国を敗りて且つ深く乱れん。乱は必ず女戎よりす。三代皆然り」と。驪姫果たして難を作し、太子を殺して二公子を逐う。君子曰く、「難の本を知れり」と。
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