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古事記 / 下巻・大日下王の殺害と目弱王

故此二歌者。讀歌也。穴穗御子。坐石上之穴穗宮。治天下也。天皇。爲伊呂弟大長谷王子而。坂本臣等之祖根臣。遣大日下王之許。令詔者。汝命之妹若日下王。欲婚大長谷王子。故可貢。爾大日下王。四拜白之。若疑有如此大命。故。不出外以置也。是恐。隨大命奉進。然言以白事。其思无禮。即爲其妹之禮物。令持押木之玉縵而貢獻。根臣。即盜取其禮物之玉縵。讒大日下王曰。大日下王者。不受勅命曰。己妹乎。爲等族之下席而。取横刀之手上而怒歟。故天皇大怒。殺大日下王而。取持來其王之嫡妻長田大郎女。爲皇后。自此以後。天皇坐神牀而。晝寢。爾語其后曰。汝有所思乎。答曰。被天皇之敦澤。何有所思。於是。其大后之先子目弱王。是年七歲。是王。當于其時而。遊其殿下。

新字:故此二歌者。読歌也。穴穂御子。坐石上之穴穂宮。治天下也。天皇。為伊呂弟大長谷王子而。坂本臣等之祖根臣。遣大日下王之許。令詔者。汝命之妹若日下王。欲婚大長谷王子。故可貢。爾大日下王。四拝白之。若疑有如此大命。故。不出外以置也。是恐。随大命奉進。然言以白事。其思无礼。即為其妹之礼物。令持押木之玉縵而貢献。根臣。即盗取其礼物之玉縵。讒大日下王曰。大日下王者。不受勅命曰。己妹乎。為等族之下席而。取横刀之手上而怒歟。故天皇大怒。殺大日下王而。取持来其王之嫡妻長田大郎女。為皇后。自此以後。天皇坐神牀而。昼寝。爾語其后曰。汝有所思乎。答曰。被天皇之敦沢。何有所思。於是。其大后之先子目弱王。是年七歳。是王。当于其時而。遊其殿下。

書き下し

故、この二つの歌は読歌なり。穴穂御子、石上の穴穂宮に坐して、天下を治らしめしき。天皇、伊呂弟大長谷王子の為に、坂本臣等の祖、根臣を、大日下王の許に遣はして、詔らしめしく、「汝命の妹、若日下王を、大長谷王子に婚はせむと欲ふ。故、貢るべし」とのりたまひき。ここに大日下王、四たび拝みて白さく、「もしかかる大命有らむかと疑ひき。故、外に出ださずして置きつ。これ恐し。大命のまにまに奉進らむ。然れども言を以て白さむは、その思ふこと无礼なり」とまをして、即ちその妹の礼物として、押木の玉縵を持たしめて貢献りき。根臣、即ちその礼物の玉縵を盗み取りて、大日下王を讒して曰く、「大日下王は、勅命を受けずして曰く、『己が妹を、等しき族の下席と為むや』と言ひて、横刀の手上を取りて怒りぬ」といひき。故、天皇大きに怒りて、大日下王を殺して、その王の嫡妻長田大郎女を取り持ち来て、皇后と為したまひき。これより後、天皇、神牀に坐して、昼寝したまひき。ここにその后に語りて曰く、「汝、思ふ所有りや」とのりたまひき。答へて曰く、「天皇の敦き沢を被りて、何か思ふ所有らむ」とまをしき。ここにその大后の先の子目弱王、この年七歳なり。この王、その時に当たりて、その殿の下に遊びき。

現代語訳

この二つの歌は読歌です。穴穂御子(安康天皇)は石上の穴穂宮にいて天下を治めました。天皇は弟の大長谷王子のために、坂本臣らの祖である根臣を大日下王のもとに遣わし、「あなたの妹の若日下王を大長谷王子の妻としたい。差し出すように」と伝えさせました。大日下王は四度拝んで、「こうしたご命令があるかもしれないと思い、妹を外に出さずにおいておりました。恐れ多いことです。仰せのままに差し上げます。ただ、言葉だけで申し上げるのは無礼ですので」と言い、その妹の礼物として押木の玉縵を持たせて献上しました。根臣はその礼物の玉縵を盗み取り、大日下王を讒言して言いました。「大日下王は勅命を受けず、『自分の妹を同じ一族の下の席にさせるものか』と言って、太刀の柄を握って怒りました」。天皇は大いに怒り、大日下王を殺して、その王の正妻である長田大郎女を連れて来て皇后にしました。その後、天皇は神牀で昼寝をして、皇后に語りかけました。「おまえは何か思うことがあるか」。皇后は、「天皇の厚いご恩を受けて、何を思うことがありましょう」と答えました。そのとき、皇后の先の夫の子の目弱王は七歳で、その殿の下で遊んでいました。

解説

弟の縁談の使者に立った根臣が、礼物を盗み、讒言で大日下王を死なせる事件です。天皇は確かめもせず激怒して王を殺し、その妻を皇后とします。大日下王は命令を恐れて礼を尽くしていたのに、一人の使者の虚偽で滅びました。古事記は、情報の伝達役が悪意を持てば、善意の主君も不正義を行うという危うさを描きます。人の上に立つ者は、報告を鵜呑みにせず裏を取り、感情で処断する前に事実を確かめる習慣を持つべきだと読めます。

この章句が説くこと

古事記安康天皇大日下王根臣讒言押木の玉縵

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