古事記 / 上巻・追放と大気津比売
故天照大御神出坐之時。高天原及葦原中國自得照明。於是。八百萬神共議而。於速須佐之男命負千位置戶。亦切鬚及手足爪令拔而。神夜貝比夜貝比岐。又食物乞大氣津比賣神。爾大氣都比賣自鼻口及尻。種種味物取出而。種種具作而進時。速須佐之男命立伺其態。爲穢汚而奉進。乃殺其大宜津比賣神。故所殺神於身生物者。於頭生蠶。於二目生稻種。於二耳生粟。於鼻生小豆。於陰生麥。於尻生大豆。故是神產巢日御祖命令取茲。成種。故所避追而。降出雲國之肥河上在鳥髮地此時箸從其河流下。於是。須佐之男命。以爲人有其河上而。尋覓上往者。老夫與老女二人在而。童女置中而泣。爾問賜之汝等者誰。故其老夫答言。僕者國神。大山津見神之子焉。僕名謂足名椎。妻名謂手名椎。女名謂櫛名田比賣。
新字:故天照大御神出坐之時。高天原及葦原中国自得照明。於是。八百万神共議而。於速須佐之男命負千位置戸。亦切鬚及手足爪令抜而。神夜貝比夜貝比岐。又食物乞大気津比売神。爾大気都比売自鼻口及尻。種種味物取出而。種種具作而進時。速須佐之男命立伺其態。為穢汚而奉進。乃殺其大宜津比売神。故所殺神於身生物者。於頭生蠶。於二目生稲種。於二耳生粟。於鼻生小豆。於陰生麦。於尻生大豆。故是神産巣日御祖命令取茲。成種。故所避追而。降出雲国之肥河上在鳥髪地此時箸従其河流下。於是。須佐之男命。以為人有其河上而。尋覓上往者。老夫与老女二人在而。童女置中而泣。爾問賜之汝等者誰。故其老夫答言。僕者国神。大山津見神之子焉。僕名謂足名椎。妻名謂手名椎。女名謂櫛名田比売。
書き下し
故、天照大御神出で坐す時、高天原及び葦原中国自ら照り明かりき。ここに八百万の神共に議(はか)りて、速須佐之男命に千位(ちくら)の置戸(おきと)を負せ、また鬚(ひげ)と手足の爪とを切り、祓へしめて、神夜良比(かむやらひ)夜良比岐(やらひき)。また食物(をすもの)を大気津比売神に乞ひき。ここに大気都比売、鼻・口及び尻より種々の味物(ためつもの)を取り出だして、種々作り具へて進(たてまつ)る時、速須佐之男命その態を立ち伺ひて、穢汚(けが)して奉進(たてまつ)ると為(おも)ひて、すなはちその大宜津比売神を殺しき。故、殺さえし神の身に生れる物は、頭に蚕生り、二つの目に稲種生り、二つの耳に粟生り、鼻に小豆生り、陰(ほと)に麦生り、尻に大豆生りき。故、ここに神産巣日御祖命、これを取らしめて、種と成しき。故、避(やら)はえて、出雲国の肥の河上、名は鳥髪(とりかみ)といふ地に降りたまひき。この時、箸その河より流れ下りき。ここに須佐之男命、人その河上にありと以為ひて、尋ね覓(ま)ぎ上り往けば、老夫(おきな)と老女(おみな)と二人ありて、童女(をとめ)を中に置きて泣けり。ここに問ひたまひしく、「汝等は誰ぞ」ととひたまひき。故、その老夫答へて言しけらく、「僕は国つ神、大山津見神の子ぞ。僕が名は足名椎と謂ひ、妻の名は手名椎と謂ひ、女(むすめ)の名は櫛名田比売と謂ふ」といひき。
現代語訳
こうして天照大御神が岩戸から出られると、高天原も葦原中国も自然に明るくなりました。そこで八百万の神々は相談し、速須佐之男命に多くの贖いの品を負わせ、鬚と手足の爪も切って罪を祓わせ、高天原から追放しました。追放されたスサノオは、食べ物を大気津比売神に求めました。大気津比売は、鼻や口や尻から種々のおいしい食べ物を取り出し、いろいろに調理して差し出しました。スサノオはその様子をのぞき見て、汚いものを食べさせようとしていると思い、大気津比売神を殺してしまいました。殺された神の体からは、頭に蚕、二つの目に稲、二つの耳に粟、鼻に小豆、陰部に麦、尻に大豆が生えました。神産巣日御祖命はこれらを取らせて、種としました。こうして追放されたスサノオは、出雲国の肥の河上の鳥髪という地に降りました。このとき、箸がその川を流れ下ってきました。スサノオは川上に人がいると思って探して上っていくと、老夫と老女の二人が少女を間に置いて泣いていました。「あなたたちは誰か」とお尋ねになると、老夫は答えました。「私は国つ神、大山津見神の子で、名は足名椎といいます。妻の名は手名椎、娘の名は櫛名田比売といいます」。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『神皇正統記』巻一 地神第一代 天照太神中臣の神忌部の神しりくへなはをひきめぐらして「なかへりましそ。」と申。上天はじめてはれて、もろもろともに相見。面みなあきらかにしろし。手をのべて哥舞て、「あはれ。あな、おもしろ。あな、たのし。あな、さやけ。おけ。」かくて、つみを素戔烏の尊によせて、おほするに千座の置戸をもて首のかみ、手足のつめをぬきてあがはしめ、其罪をはらひて神やらひにやらはれき。かの尊天よりくだりて、出雲の簸の川上と云所にいたり給。其所に一のおきなとうばとあり。一のをとめをすゑてかきなでつゝなきけり。素戔烏尊「たそ。」とゝひ給ふ。「われはこれ国神也。脚摩乳・手摩乳と云ふ。このをとめはわが子なり。奇稲田姫と云ふ。さきに八けの少女あり。としごとに八岐の大蛇のためにのまれき。今此をとめ又のまれなんとす。」と申ければ、尊、「我にくれんや。」との給。「勅のまゝにたてまつる。」と申ければ、此をとめを湯津のつまぐしにとりなし、みづらにさし、やしほをりの酒を八の槽にもりて待給に、はたしてかの大蛇きたれり。
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『古事記』上巻・誓約の始まりここに大御神詔りたまはく、「汝はこの国に在るべからず」とのりたまひて、神やらひやらひ賜ひき。故、罷り往かむ状を請さむと以為ひて、参上りつらくのみ。異心無し」。ここに天照大御神詔りたまはく、「然らば汝の心の清く明きは何して知らむ」。ここに速須佐之男命答へ白さく、「各うけひて子を生まむ」。(宇より以下三字は音を以てす。下これに効へ)故ここに各天安河を中に置きてうけふ時、天照大御神、先づ建速須佐之男命の佩かせる十拳剣を乞ひ度して、三段に打ち折りて、ぬなとももゆらに(この八字は音を以てす)天之真名井に振り滌ぎて、さがみにかみて(佐より下六字は音を以てす。下これに効へ)、吹き棄つる気吹の狭霧に成りませる神の御名は、多紀理毘売命。(この神名は音を以てす)亦の御名は奥津島比売命と謂ふ。次に市寸島比売命。亦の御名は狭依毘売命と謂ふ。次に多岐都比売命。(三柱。この神名は音を以てす)速須佐之男命、天照大御神の左の御みづらに纏かせる八尺の勾璁の五百津のみすまるの珠を乞ひ度して、ぬなとももゆらに、天之真名井に振り滌ぎて、さがみにかみて、吹き棄つる気吹の狭霧に成りませる神の御名は、正勝吾勝勝速日天之忍穂耳命。
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『古事記』上巻・須佐之男命の泣きと追放故、各依さしたまひし命のまにまに、知らし看す中に、速須佐之男命は、命さしし国を知らさずて、八拳須心の前に至るまで、啼きいさちき。(伊より下四字は音を以てす。下これに効へ)その泣く状は、青山は枯山の如く泣き枯らし、河海は悉に泣き乾しき。ここを以ちて悪しき神の音、さ蝿なす皆満ち、万の物の妖悉に発りき。故、伊邪那岐大御神、速須佐之男命に詔りたまはく、「何由かも汝は事依させし国を治らさずて、哭きいさちる」。ここに答へ白さく、「僕は妣の国根之堅州国に罷らむと欲ふ。故、哭くなり」。ここに伊邪那岐大御神大く忿怒りて詔りたまはく、「然らば汝はこの国に住むべからず」とのりたまひて、乃ち神やらひにやらひ賜ひき。(夜より以下七字は音を以てす)故、その伊邪那岐大神は、淡海の多賀に坐すなり。
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『古事記』上巻・天の石屋戸に籠もる又、離田(あはなち)の畔(あ)を埋め溝(みぞ)を(略)、「地(つち)を阿多良斯(あたらし)と許曾(こそ)、我がなせの命はかくしつらめ」と詔りたまへども、なほその悪(あ)しき態(わざ)止まずて転(うたて)あり。天照大御神、忌服屋(いみはたや)に坐して、神御衣(かむみそ)を織らしめたまふ時、その服屋の頂(むね)を穿(うが)ち、天の斑馬(ふちこま)を逆剥(さかは)ぎに剥ぎて堕(おと)し入るる時、天の衣織女(みそおりめ)見驚きて、梭(ひ)に陰上(ほと)を衝きて死にき。故ここに天照大御神見畏(かしこ)み、天の石屋戸を閉(さ)して刺し許母理(こもり)坐しき。ここに高天原皆暗く、葦原中国ことごとに闇し。これによりて常夜(とこよ)往く。ここに万(よろづ)の神の声は、狭蠅(さばへ)なす皆満ち、万(よろづ)の妖(わざはひ)ことごとに発(おこ)りき。ここをもちて八百万の神、天の安の河原に神集ひ集ひて、高御産巣日神の子思金神に思はしめて、常世の長鳴鳥を集めて鳴かしめて、天の安河の河上の天の堅石を取り、天の金山の鉄(くろがね)を取りて、鍛人(かぬち)天津麻羅を求めて、伊斯許理度売命に科(おほ)せて鏡を作らしめ、玉祖命に科せて八尺の勾璁(まがたま)の五百津の御須麻流(みすまる)の珠を作らしめて、天見屋命・布刀玉命を召して、天の香山の真男鹿の肩を内抜きに抜きて、天の香山の天の波波迦(ははか)を取りて、占(うら)へ合はしめて、天の香山の五百津真賢木(まさかき)を根こじにこじて、上枝(ほつえ)に八尺の勾璁の五百津の御須麻流の玉を取り着け、中つ枝に八尺の鏡を取り繋け、下枝(しづえ)に白丹寸手(しらにきて)・青丹寸手(あをにきて)を取り垂(し)でて、この種々(くさぐさ)の物は、
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『古語拾遺』開闢と天つ罪一に聞く、夫れ開闢の初め、伊奘諾・伊奘冉の二神、共に夫婦と為りて、大八州国及び山川草木を生む。次に日神・月神を生む。最後に素戔鳴神を生む。而るに素戔鳴神、常に哭泣を以て行と為す。故に人民をして夭折せしめ、青山をして枯に変ぜしむ。斯に因りて父母の二神、勅して曰く、「汝甚だ無道なり。宜しく早く根国に退き去るべし」と。又天地剖判の初め、天中に生ずる所の神、名を天御中主神と曰う。次に高皇産霊神、次に神皇産霊神。其の高皇産霊神の生む所の女、名を栲幡千千姫命と曰う。其の男、名を天忍日命と曰う。又の男、名を天太玉命と曰う。太玉命の率いる所の神、名を天日鷲命・手置帆負命・産狭知命・櫛明玉命・天目一箇命と曰う。是に於て素戔鳴神、日神に辞し奉らんと欲して天に昇る時、櫛明玉命迎え奉りて、献るに瑞の八坂瓊の曲玉を以てす。素戔鳴神之を受けて転じて日神に奉る。仍りて共に約誓す。即ち其の玉に感じて天祖吾勝尊を生む。是を以て天照大神、吾勝尊を育みて、特に甚だ鍾愛し、常に腋の下に懐く。称して腋子と曰う。其の後、素戔鳴神、日神の為に行い甚だ無状なり。種々に凌侮す。所謂る畔毀ち・溝埋め・樋放ち・重播き・串刺し・生剥ぎ逆剥ぎ・屎戸なり。
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『古事記』上巻・八俣の大蛇への備えまた問ひたまひしく、「汝が哭く由は何ぞ」ととひたまひき。答へ白言ししく、「我が女(むすめ)は、もと八稚女(やをとめ)ありき。これを高志(こし)の八俣遠呂智(やまたのをろち)、年ごとに来て喫(く)ふ。今その来べき時なり。故、泣く」とまをしき。ここに問ひたまひしく、「その形は如何に」ととひたまへば、答へ白さく、「彼(そ)の目は赤加賀智(あかかがち)のごとくして、身一つに八頭八尾あり。またその身に蘿(こけ)と檜・榲(すぎ)と生ひ、その長は谿(たに)八谷(やたに)峡(を)八尾(やを)に度りて、その腹を見れば、ことごとにつねに血爛(ただ)れたり」とまをしき。(ここに赤加賀知と謂へるは、今のほほづきなり。)ここに速須佐之男命、その老夫に詔りたまひしく、「これ汝が女ならば、吾に奉らむや」とのりたまひき。答へ白さく、「恐(かしこ)けれども、御名を覚(し)らず」とまをしき。ここに答へ詔りたまひしく、「吾は天照大御神の伊呂勢(いろせ)なり。故、今天より降り坐しつ」とのりたまひき。ここに足名椎・手名椎神、「然坐さば恐し。立て奉らむ」とまをしき。ここに速須佐之男命、すなはち湯津爪櫛(ゆつつまぐし)にその童女を取り成して、御美豆良(みみづら)に刺して、その足名椎・手名椎神に告りたまひしく、「汝等、八塩折(やしほをり)の酒を醸(か)み、また垣を作り廻らし、その垣に八つの門を作り、門ごとに八つの佐受岐(さずき)を結ひ、その佐受岐ごとに酒船を置きて、船ごとにその八塩折の酒を盛りて待て」とのりたまひき。

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