古事記 / 上巻・須佐之男命の泣きと追放
故各隨依賜之命。所知看之中。速須佐之男命。不知所命之國而。八拳須至于心前。啼伊佐知伎也。(自伊下四字以音。下效此)其泣狀者。靑山如枯山泣枯。河海者悉泣乾。是以惡神之音。如狹蠅皆滿。萬物之妖悉發。故伊邪那岐大御神。詔速須佐之男命。何由以汝。不治所事依之國而。哭伊佐知流。爾答白。僕者欲罷妣國根之堅洲國。故哭。爾伊邪那岐大御神大忿怒詔。然者汝不可住此國。乃神夜貝比夜貝比賜也。(自夜以下七字以音)故其伊邪那岐大神者。坐淡海之多賀也。
新字:故各随依賜之命。所知看之中。速須佐之男命。不知所命之国而。八拳須至于心前。啼伊佐知伎也。(自伊下四字以音。下効此)其泣状者。青山如枯山泣枯。河海者悉泣乾。是以悪神之音。如狭蠅皆満。万物之妖悉発。故伊邪那岐大御神。詔速須佐之男命。何由以汝。不治所事依之国而。哭伊佐知流。爾答白。僕者欲罷妣国根之堅洲国。故哭。爾伊邪那岐大御神大忿怒詔。然者汝不可住此国。乃神夜貝比夜貝比賜也。(自夜以下七字以音)故其伊邪那岐大神者。坐淡海之多賀也。
書き下し
故、各依さしたまひし命のまにまに、知らし看す中に、速須佐之男命は、命さしし国を知らさずて、八拳須心の前に至るまで、啼きいさちき。(伊より下四字は音を以てす。下これに効へ)その泣く状は、青山は枯山の如く泣き枯らし、河海は悉に泣き乾しき。ここを以ちて悪しき神の音、さ蝿なす皆満ち、万の物の妖悉に発りき。故、伊邪那岐大御神、速須佐之男命に詔りたまはく、「何由かも汝は事依させし国を治らさずて、哭きいさちる」。ここに答へ白さく、「僕は妣の国根之堅州国に罷らむと欲ふ。故、哭くなり」。ここに伊邪那岐大御神大く忿怒りて詔りたまはく、「然らば汝はこの国に住むべからず」とのりたまひて、乃ち神やらひにやらひ賜ひき。(夜より以下七字は音を以てす)故、その伊邪那岐大神は、淡海の多賀に坐すなり。
現代語訳
それぞれが任された命令のとおりに治めているなかで、速須佐之男命だけは、任された国を治めず、八握ほどの長い髭が胸の前に垂れるまで、泣きわめいていました。その泣くさまは、青々とした山が枯れ山になるほど泣き枯らし、河や海はことごとく泣いて干上がるほどでした。このため悪い神々の声が、五月の蝿のようにあたりに満ち、あらゆる災いがことごとく起こりました。そこで伊邪那岐大御神は、速須佐之男命に問いました。「どういうわけで、お前は任せた国を治めずに、泣きわめいているのか」。答えて言うには、「私は亡き母のいる根之堅州国に行きたいと思います。それで泣いているのです」。伊邪那岐大御神は大いに怒って言いました。「それならお前はこの国に住んではならない」。そしてすぐに追放なさいました。その伊邪那岐大神は、淡海の多賀に鎮座しておられます。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『古事記』上巻・須佐之男命の昇天と武装ここに速須佐之男命言さく、「然らば天照大御神に請して罷らむ」とまをして、乃ち天に参上る時、山川悉に動み、国土皆震りき。ここに天照大御神聞き驚きて詔りたまはく、「我がなせの命の上り来る由は、必ず善き心ならじ。我が国を奪はむと欲ふにこそあれ」とのりたまひて、即ち御髪を解きて、御みづらに纏きて、乃ち左右の御みづらにも、亦御鬘にも、亦左右の御手にも、各八尺の勾璁の五百津のみすまるの珠(美より流までの四字は音を以てす)を纏き持ちて、そびらには千入の靫を負ひ、ひらには五百入の靫を附け、(訓入を能理と云ふ。曾より邇までは音を以てす)亦いつの竹鞆を取り佩ばして、弓腹振り立てて、堅庭は向股に踏みなづみ、(三字は音を以てす)沫雪の如く蹶散かして、いつの男建踏み建びて、待ち問ひたまはく、「何故上り来つる」。ここに速須佐之男命答へ白さく、「僕は邪き心無し。ただ大御神の命以ちて、僕が哭きいさちる事を問ひ賜ひき。故、白しつらく、(三字は音を以てす)『僕は妣の国に往かむと欲ひて哭く』とまをしき。
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『古事記』上巻・追放と大気津比売故、天照大御神出で坐す時、高天原及び葦原中国自ら照り明かりき。ここに八百万の神共に議(はか)りて、速須佐之男命に千位(ちくら)の置戸(おきと)を負せ、また鬚(ひげ)と手足の爪とを切り、祓へしめて、神夜良比(かむやらひ)夜良比岐(やらひき)。また食物(をすもの)を大気津比売神に乞ひき。ここに大気都比売、鼻・口及び尻より種々の味物(ためつもの)を取り出だして、種々作り具へて進(たてまつ)る時、速須佐之男命その態を立ち伺ひて、穢汚(けが)して奉進(たてまつ)ると為(おも)ひて、すなはちその大宜津比売神を殺しき。故、殺さえし神の身に生れる物は、頭に蚕生り、二つの目に稲種生り、二つの耳に粟生り、鼻に小豆生り、陰(ほと)に麦生り、尻に大豆生りき。故、ここに神産巣日御祖命、これを取らしめて、種と成しき。故、避(やら)はえて、出雲国の肥の河上、名は鳥髪(とりかみ)といふ地に降りたまひき。この時、箸その河より流れ下りき。ここに須佐之男命、人その河上にありと以為ひて、尋ね覓(ま)ぎ上り往けば、老夫(おきな)と老女(おみな)と二人ありて、童女(をとめ)を中に置きて泣けり。ここに問ひたまひしく、「汝等は誰ぞ」ととひたまひき。故、その老夫答へて言しけらく、「僕は国つ神、大山津見神の子ぞ。僕が名は足名椎と謂ひ、妻の名は手名椎と謂ひ、女(むすめ)の名は櫛名田比売と謂ふ」といひき。
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『古事記』上巻・国作りの始まりまた河の瀬に追ひ撥(はら)ひて、意礼(おれ)、大国主神となり、また宇都志国玉神となりて、その我が女須世理毘売を嫡妻(むかひめ)として、宇迦の山の山本に、底つ石根に宮柱ふとしり、高天原に氷椽(ひぎ)たかしりて居れ。この奴(やつこ)」とのりたまひき。故、その大刀・弓を持ちて、その八十神を追ひ避(さ)くる時、坂の御尾ごとに追ひ伏せ、河の瀬ごとに追ひ撥ひて、始めて国を作りたまひき。故、その八上比売は、先の期(ちぎり)のごとく、美刀阿多波志つ。故、その八上比売は率て来ましつれども、その嫡妻須世理毘売を畏みて、その生める子をば、木の俣に刺し挟みて返りき。故、その子を名づけて木俣神と云ひ、また名は御井神と謂ふ。
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『古語拾遺』開闢と天つ罪一に聞く、夫れ開闢の初め、伊奘諾・伊奘冉の二神、共に夫婦と為りて、大八州国及び山川草木を生む。次に日神・月神を生む。最後に素戔鳴神を生む。而るに素戔鳴神、常に哭泣を以て行と為す。故に人民をして夭折せしめ、青山をして枯に変ぜしむ。斯に因りて父母の二神、勅して曰く、「汝甚だ無道なり。宜しく早く根国に退き去るべし」と。又天地剖判の初め、天中に生ずる所の神、名を天御中主神と曰う。次に高皇産霊神、次に神皇産霊神。其の高皇産霊神の生む所の女、名を栲幡千千姫命と曰う。其の男、名を天忍日命と曰う。又の男、名を天太玉命と曰う。太玉命の率いる所の神、名を天日鷲命・手置帆負命・産狭知命・櫛明玉命・天目一箇命と曰う。是に於て素戔鳴神、日神に辞し奉らんと欲して天に昇る時、櫛明玉命迎え奉りて、献るに瑞の八坂瓊の曲玉を以てす。素戔鳴神之を受けて転じて日神に奉る。仍りて共に約誓す。即ち其の玉に感じて天祖吾勝尊を生む。是を以て天照大神、吾勝尊を育みて、特に甚だ鍾愛し、常に腋の下に懐く。称して腋子と曰う。其の後、素戔鳴神、日神の為に行い甚だ無状なり。種々に凌侮す。所謂る畔毀ち・溝埋め・樋放ち・重播き・串刺し・生剥ぎ逆剥ぎ・屎戸なり。
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『古事記』上巻・誓約の始まりここに大御神詔りたまはく、「汝はこの国に在るべからず」とのりたまひて、神やらひやらひ賜ひき。故、罷り往かむ状を請さむと以為ひて、参上りつらくのみ。異心無し」。ここに天照大御神詔りたまはく、「然らば汝の心の清く明きは何して知らむ」。ここに速須佐之男命答へ白さく、「各うけひて子を生まむ」。(宇より以下三字は音を以てす。下これに効へ)故ここに各天安河を中に置きてうけふ時、天照大御神、先づ建速須佐之男命の佩かせる十拳剣を乞ひ度して、三段に打ち折りて、ぬなとももゆらに(この八字は音を以てす)天之真名井に振り滌ぎて、さがみにかみて(佐より下六字は音を以てす。下これに効へ)、吹き棄つる気吹の狭霧に成りませる神の御名は、多紀理毘売命。(この神名は音を以てす)亦の御名は奥津島比売命と謂ふ。次に市寸島比売命。亦の御名は狭依毘売命と謂ふ。次に多岐都比売命。(三柱。この神名は音を以てす)速須佐之男命、天照大御神の左の御みづらに纏かせる八尺の勾璁の五百津のみすまるの珠を乞ひ度して、ぬなとももゆらに、天之真名井に振り滌ぎて、さがみにかみて、吹き棄つる気吹の狭霧に成りませる神の御名は、正勝吾勝勝速日天之忍穂耳命。
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『古事記』上巻・水蛭子と淡島の失敗ここにその妹伊邪那美命に問ひたまはく、「汝が身は如何にか成れる」。答へ白したまはく、「吾が身は成り成りて、成り合はぬ処一処在り」。ここに伊邪那岐命詔りたまはく、「我が身は成り成りて、成り余れる処一処在り。故、この吾が身の成り余れる処を以ちて、汝が身の成り合はぬ処に刺し塞ぎて、国土を生み成さむと以為ふ。生まむこと奈何」(訓生を宇牟と云ふ。下これに効へ)。伊邪那美命答へたまはく、「然善けむ」。ここに伊邪那岐命詔りたまはく、「然らば吾と汝と、この天の御柱を行き廻り逢ひて、みとのまぐはひせむ」(この七字は音を以てす)。かく云ひ期りて、乃ち詔りたまはく、「汝は右より廻り逢へ。我は左より廻り逢はむ」。約り竟へて廻る時、伊邪那美命、先づ「あなにやしえをとこを」と言ひ(この十字は音を以てす。下これに効へ)、後に伊邪那岐命、「あなにやしえをとめを」と言ひたまひき。各言ひ竟へて後に、その妹に告げたまはく、「女人の先づ言へるは良からず」。然れども久美度に(この四字は音を以てす)興して、子水蛭子を生みたまひき。この子は葦船に入れて流し去てき。次に淡嶋を生みたまひき。これも亦子の例には入れず。ここに二柱の神、議りて云りたまはく、「今吾が生める子良からず。猶ほ天つ神の御所に白すべし」。即ち共に参上りて、天つ神の命を請ひたまひき。

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