啓発録 / 勉學
學トハナラフト申ス事ニテ總テヨキ人スグレタル人ノ善キ行ヒ善キ事業ヲ迹付シテ習ヒ參ルヲイフ故ニ忠義孝行ノ事ヲ見テハ直ニ其人ノ忠義孝行ノ所爲ヲ慕ヒ倣ヒ吾モ急度其人ノ忠義孝行ニ負ケズ劣ラズ勉メ行キ候事學ノ第一義ナリ然ルヲ後世ニ至リ字義ヲ誤リ詩文ヤ讀書ヲ學ト心得候ハ笑カシキ事ドモナリ
新字:学トハナラフト申ス事ニテ総テヨキ人スグレタル人ノ善キ行ヒ善キ事業ヲ迹付シテ習ヒ参ルヲイフ故ニ忠義孝行ノ事ヲ見テハ直ニ其人ノ忠義孝行ノ所為ヲ慕ヒ倣ヒ吾モ急度其人ノ忠義孝行ニ負ケズ劣ラズ勉メ行キ候事学ノ第一義ナリ然ルヲ後世ニ至リ字義ヲ誤リ詩文ヤ読書ヲ学ト心得候ハ笑カシキ事ドモナリ
書き下し
学とはならふと申す事にて、総てよき人すぐれたる人の善き行ひ善き事業を迹付して習ひ参るをいふ。故に忠義孝行の事を見ては、直に其人の忠義孝行の所為を慕ひ倣ひ、吾も急度其人の忠義孝行に負けず劣らず勉め行き候事、学の第一義なり。然るを後世に至り字義を誤り、詩文や読書を学と心得候は、笑かしき事どもなり。
現代語訳
学とは「ならう」ということで、およそ立派な人、優れた人の善い行いや善い事業のあとをたどって習っていくことを言います。ですから、忠義孝行のことを見たら、すぐにその人の忠義孝行のふるまいを慕って倣い、自分もきっとその人の忠義孝行に負けず劣らず勉めていくことが、学の第一義です。ところが後世になって字義を誤り、詩文や読書を学と心得ているのは、おかしなことです。
解説
左内は「学」の字義から立て直します。学とは「ならう」ことで、すぐれた人の善い行いや事業のあとを追って習うことだと言い、忠義孝行を見たらその人に負けず劣らず勤めるのが第一義だとします。後世になって、詩文や読書を学と取り違えたのは笑止なことだと退けます。知識の量ではなく、行いを倣うところに学の中心を置く見方は、現代の学び直しの議論にも通じます。研修で知識を詰め込んでも、現場の行動が変わらなければ学んだことにならない、という管理職の実感と重なります。部下の育成でも、手本となる人の仕事ぶりを近くで見せ、真似る機会を設けることが、講義より効くことがあります。
この章句が説くこと
勉学学倣う行い忠孝啓発録
関連する章句
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啓発録・勉學学と申は、忠孝の筋と文武の業とより外には無之。君に忠を竭し親に孝を尽すの真心を以て、文武の事を骨折勉強致し、御治世の時には御側に被召使候へば、君の御過を補ひ匡し、御徳を弥増に盛んになし奉り、御役人となり候時は、其役所の事首尾能取修め、依怙贔負不致、賄賂請謁を不受、公平廉直にして、其一局何れも其威に畏れ其徳に懐き候程の仕わざなし可申義を、平世に心掛け居り。
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『弁名』學朱子の論語集註に曰く、「学の言たる効なり。後覚の者は必ず先覚の為す所に効ふ」と。仁斎先生曰く、「学は効なり覚なり。効法する所有りて覚悟するなり。学の字の訓は、此の二義を兼ねて、而る後に其の義尽くすを得。所謂効とは、猶ほ書を学ぶ者の、初め只だ法帖を臨摹して、其の筆意点画に効ふを得るがごときなり。而して所謂覚とは、猶ほ書を学ぶこと既に久しくして、而る後自ら古人の用筆の妙を覚悟するがごときなり」と。是の二先生は、皆聖人の道を学ぶことを務めずして、聖人を学ぶことを務むる者のみ。故に聖賢の言ふ所行ふ所に効法して以て聖賢の心を悟らんと欲す。諸を辟ふるに、大匠人に規矩を授くるに、其の人其の規矩に遵ひて以て之を学ばず、乃ち大匠の為す所に効法して以て其の斤を用ふるの妙を悟らんと欲するがごとし。則ち其の手を傷つけ鼻を創つけざる者幾ど希なり。豈に謬らずや。
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