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啓発録 / 立志

故ニ先ヅ我知識聊ニテモ開候ハバ篤ト我心ニ計リ吾所向所爲ヲサダメ其上ニテ師ニツキ友ニ謀リ吾及バヌ足ラハヌ處ヲ補ヒ其極メ置タル處ニ心ヲ定メテ心多端ニ流レテ多岐亡羊ノ失ナカランコトヲ願ハシク候凡テ心ノ迷フハ心ノ幾筋ニモ分レ候處ヨリ起リ候事ニテ心ノ紛亂致シ候ハ吾志未ダ一定セヌ故ナリ心定マラズ心收マラズシテハ聖賢豪傑ニハ成ラレヌモノニテ候

新字:故ニ先ヅ我知識聊ニテモ開候ハバ篤ト我心ニ計リ吾所向所為ヲサダメ其上ニテ師ニツキ友ニ謀リ吾及バヌ足ラハヌ処ヲ補ヒ其極メ置タル処ニ心ヲ定メテ心多端ニ流レテ多岐亡羊ノ失ナカランコトヲ願ハシク候凡テ心ノ迷フハ心ノ幾筋ニモ分レ候処ヨリ起リ候事ニテ心ノ紛乱致シ候ハ吾志未ダ一定セヌ故ナリ心定マラズ心収マラズシテハ聖賢豪傑ニハ成ラレヌモノニテ候

書き下し

故に先づ我知識聊にても開候はば、篤と我心に計り、吾所向所為をさだめ、其上にて師につき友に謀り、吾及ばぬ足らはぬ処を補ひ、其極め置たる処に心を定めて、心多端に流れて多岐亡羊の失なからんことを願はしく候。凡て心の迷ふは心の幾筋にも分れ候処より起り候事にて、心の紛乱致し候は吾志未だ一定せぬ故なり。心定まらず心収まらずしては、聖賢豪傑には成られぬものにて候。

現代語訳

だから、まず自分の知識が少しでも開けたなら、じっくりと自分の心で考えて、自分の向かうところ、なすべきことを定め、そのうえで師について友に相談し、自分の及ばないところ足りないところを補い、その定めたところに心を決めて、心が多方面へ流れて、多岐亡羊(道が多すぎて羊を見失う)の失敗がないようにと願います。すべて心が迷うのは、心がいくつにも分かれるところから起こるもので、心が乱れるのは、自分の志がまだ一つに定まっていないからです。心が定まらず収まらないままでは、聖賢豪傑にはなれません。

解説

前の段を受けて、知識が少し開けたら、まず自分の心でよく考えて進む方向を決め、そのうえで師や友に相談して足りないところを補え、と順序を示しています。多岐亡羊、つまり道が多すぎて羊を見失うというたとえを使い、心が幾筋にも分かれることが迷いの原因だと言います。心が乱れるのは志がまだ一つに定まっていないからだという診断は、筋が通っています。大切なのは、自分で決めてから他人に相談する順序で、相談が丸投げにならないことです。職場でも、部下に自分の案を持ってこさせてから助言するやり方は、判断の筋力を育てます。

この章句が説くこと

立志多岐亡羊師友迷い志啓発録

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