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啓発録 / 立志

志ヲ立ルトキハ此心ノ向フ所ヲ急度相定一度右ノ如ク思詰候ヘハ彌切ニ其向キヲ立テ常々其心持ヲ失ハヌ樣ニ持コタヘ候事ニテ候凡志ト申ハ書物ニテ大ニ發明致シ候カ或ハ師友ノ講究ニ依リ候カ或ハ自分患難憂苦ニ迫リ候カ或ハ憤發激勵致シ候歟ノ處ヨリ立チ定リ候者ニテ平生安樂無事ニ致シ居リ心ノタルミ居候時ニ立事ハナシ

新字:志ヲ立ルトキハ此心ノ向フ所ヲ急度相定一度右ノ如ク思詰候ヘハ弥切ニ其向キヲ立テ常々其心持ヲ失ハヌ様ニ持コタヘ候事ニテ候凡志ト申ハ書物ニテ大ニ発明致シ候カ或ハ師友ノ講究ニ依リ候カ或ハ自分患難憂苦ニ迫リ候カ或ハ憤発激励致シ候歟ノ処ヨリ立チ定リ候者ニテ平生安楽無事ニ致シ居リ心ノタルミ居候時ニ立事ハナシ

書き下し

志を立るときは此心の向ふ所を急度、相定、一度右の如く思詰候へは、弥切に其向きを立て、常々其心持を失はぬ様に持こたへ候事にて候。凡志と申は、書物にて大に発明致し候か、或は師友の講究に依り候か、或は自分患難憂苦に迫り候か、或は憤発激励致し候歟の処より立ち定り候者にて、平生安楽無事に致し居り、心のたるみ居候時に立事はなし。

現代語訳

志を立てるときは、この心の向かう先をきっぱりと定め、一度このように思い詰めたなら、いよいよ切実にその向きを立てて、常にその心持ちを失わないように持ちこたえることです。そもそも志というものは、書物で大いに悟るか、あるいは師や友との研究によるか、あるいは自分が患難憂苦に迫られるか、あるいは憤って奮い励むか、そうしたところから立ち定まるもので、普段安楽無事に過ごし、心がたるんでいるときに立つことはありません。

解説

志がどこから立つのかを、四つの場合に分けて挙げています。書物で大いに悟る、師や友と究め合う、苦難や憂いに迫られる、憤って奮い立つ、の四つで、平穏無事でたるんでいるときには立たないと言い切ります。十代の左内が、志は安楽の中では育たないと見抜いている点は注目に値します。同時に、一度向きを定めたら常にその心持ちを失わぬよう持ちこたえよ、と継続の手間も忘れていません。現代の組織でも、本気の目標は、失敗や壁にぶつかった経験の後に生まれることが多いものです。若手に楽な環境だけを用意するより、適度な困難と対話の場をつくることが、志の芽を育てる条件になります。

この章句が説くこと

立志志患難憤発師友啓発録

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