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啓発録 / 振氣

箇樣ニ覺ノナキモノニ高祿重位ヲ被下平生安樂ニ被成置候ハ偖々君恩ノホド申ス限リナキコト辭ニハ盡シガタシ其御高恩ヲ蒙リナガラ不覺ノ士ノミニテマサカノトキニ我君ノ恥辱ヲサセマシ候テハ返ス返ス恐入候次第ニテ實ニ寐テモ目モ合ハズ喰テモ食ノ咽ニ通ルベキ筈ニアラスコトサラ我先祖ハ國家ヘ對シ奉リ聊ノ功モ可有之候得共其後ノ代々ニ至リテハ皆々手柄ナシニ恩祿ニ浴シ居候義ニ候ヘバ

新字:箇様ニ覚ノナキモノニ高禄重位ヲ被下平生安楽ニ被成置候ハ偖々君恩ノホド申ス限リナキコト辞ニハ尽シガタシ其御高恩ヲ蒙リナガラ不覚ノ士ノミニテマサカノトキニ我君ノ恥辱ヲサセマシ候テハ返ス返ス恐入候次第ニテ実ニ寐テモ目モ合ハズ喰テモ食ノ咽ニ通ルベキ筈ニアラスコトサラ我先祖ハ国家ヘ対シ奉リ聊ノ功モ可有之候得共其後ノ代々ニ至リテハ皆々手柄ナシニ恩禄ニ浴シ居候義ニ候ヘバ

書き下し

箇様に覚のなきものに高禄重位を被下、平生安楽に被成置候は、偖々君恩のほど申す限りなきこと、辞には尽しがたし。其御高恩を蒙りながら、不覚の士のみにて、まさかのときに我君の恥辱をさせまし候ては、返す返す恐入候次第にて、実に寐ても目も合はず、喰ても食の咽に通るべき筈にあらす。ことさら我先祖は国家へ対し奉り、聊の功も可有之候得共、其後の代々に至りては、皆々手柄なしに恩禄に浴し居候義に候へば、

現代語訳

このように覚えのない者に高い禄や重い位をお与えになり、普段は安楽にしておかれることは、さてさて、主君の恩の限りないことは、言葉では尽くしがたいほどです。その高い御恩を受けながら、不覚な士ばかりで、いざというときにわが君に恥辱を負わせてしまっては、返す返す恐れ入るしだいで、まことに寝ても目が合わず、食べても食が喉を通るはずがありません。とりわけ私の先祖は国家に対して少しの功はあったでしょうが、その後の代々に至っては、みな手柄なしに恩禄にあずかってきたのですから、

解説

君恩を受けながら、それに値する働きをしていない者の恐れを述べる段です。寝ても目が合わず、食べても喉を通らないという表現は、恩を借りの感覚として重く受け止めていることを示します。先祖には少しの功があったが、後の代々は手柄なしに恩禄を受けてきた、という事実の認識は、自分たちの足場を冷静に見る目です。左内は、恩を感じることが次の行動を引き出す力になると考えていました。現代でも、先人の築いた信用や先輩の育てた客先の上に仕事をしている人は多くいます。受けている恩を数えることは、感謝というより、自分の責任の大きさを測る行為だといえます。

この章句が説くこと

君恩恩禄責任不覚先祖啓発録

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