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秘本玉くしげ / 上 恥辱と思わぬ上

たとひいかほど困窮はしても、上のはからひだによろしければ、此事は起るものにあらず。然るに近年は、ここにもかしこにも多きによりて、めづらしからぬ事になりて、まづ一旦靜まればよき事にして、さのみ跡の吟味もくはしからず、張本人を一兩人とらへて定まりのとほり刑に行へば、そのむきにて、跡の上の取計らひをたしなみ改むる事もせず、世間に例多ければ、さのみ耻辱とも思はれぬやうの所もありとぞ。

新字:たとひいかほど困窮はしても、上のはからひだによろしければ、此事は起るものにあらず。然るに近年は、ここにもかしこにも多きによりて、めづらしからぬ事になりて、まづ一旦静まればよき事にして、さのみ跡の吟味もくはしからず、張本人を一両人とらへて定まりのとほり刑に行へば、そのむきにて、跡の上の取計らひをたしなみ改むる事もせず、世間に例多ければ、さのみ耻辱とも思はれぬやうの所もありとぞ。

書き下し

たとひいかほど困窮はしても、上のはからひだによろしければ、此事は起るものにあらず。然るに近年は、ここにもかしこにも多きによりて、めづらしからぬ事になりて、まづ一旦静まればよき事にして、さのみ跡の吟味もくはしからず、張本人を一両人とらへて定まりのとほり刑に行へば、そのむきにて、跡の上の取計らひをたしなみ改むる事もせず、世間に例多ければ、さのみ恥辱とも思はれぬやうの所もありとぞ。

現代語訳

たとえどれほど困窮しても、上の計らいさえよければ、このことは起こるものではない。それなのに近年は、ここにもあそこにも多いので、珍しくないことになって、まずひとたび静まればよいことにして、それほど後の吟味も詳しくせず、張本人を一人二人捕らえて決まりのとおり刑に処せば、それでよしとして、その後の上の取り計らいを慎み改めることもせず、世間に例が多いので、それほど恥辱とも思われないような所もあるという。

解説

宣長は、どれほど困窮しても上の計らいさえ良ければ騒動は起きないと言い切る。ところが近年は各地で頻発して珍しくなくなったため、ひとまず静まればよしとし、後の吟味もいい加減にして、張本人を一人二人処刑すれば終わりにする。上の側の取り計らいを改めることもせず、よそにも例が多いからと恥とも思わない所がある、と宣長は批判する。問題が常態化すると、それを起こした責任の感覚が麻痺していく。騒動の数が増えたことが、かえって上の反省を鈍らせているのである。よその会社でも起きていることだからと、自社の不祥事を恥と感じなくなっていないだろうか。

この章句が説くこと

一揆吟味張本人恥辱常態化

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