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正法眼蔵随聞記 / 巻四

示して云く、傳へ聞く實否は知らざれども、故持明院の中納言入道あるとき祕藏の太刀を盗まれたりけるに、士の中に犯人ありけるを、餘の士沙汰し出してまゐらせたりしに、入道の云へらく、此れは我が太刀にあらずひがことなりとてかへされたり、決定その太刀なれども、士の恥辱を思ふてかへされたりと、人皆な是を知りけれども、其の時は無爲にしてすぎけり、故に子孫も繁昌せり、俗なほ心ある人はかくの如し、

新字:示して云く、伝へ聞く実否は知らざれども、故持明院の中納言入道あるとき秘蔵の太刀を盗まれたりけるに、士の中に犯人ありけるを、余の士沙汰し出してまゐらせたりしに、入道の云へらく、此れは我が太刀にあらずひがことなりとてかへされたり、決定その太刀なれども、士の恥辱を思ふてかへされたりと、人皆な是を知りけれども、其の時は無為にしてすぎけり、故に子孫も繁昌せり、俗なほ心ある人はかくの如し、

書き下し

示して云く、伝へ聞く実否は知らざれども、故持明院の中納言入道あるとき秘蔵の太刀を盗まれたりけるに、士の中に犯人ありけるを、余の士沙汰し出してまゐらせたりしに、入道の云へらく、此れは我が太刀にあらずひがことなりとてかへされたり、決定その太刀なれども、士の恥辱を思ふてかへされたりと、人皆な是を知りけれども、其の時は無為にしてすぎけり、故に子孫も繁昌せり、俗なほ心ある人はかくの如し、

現代語訳

示して言われた。伝え聞いたことで実否は知らないけれども、故持明院の中納言入道が、あるとき秘蔵の太刀を盗まれたところ、侍の中に犯人がいたのを、他の侍が取り調べて差し出したところ、入道が言われた。これは自分の太刀ではない、間違いである、といって返された。まさしくその太刀であったけれども、侍の恥辱を思って返されたのだと、人はみなこれを知っていたけれども、その時は何事もなく過ぎた。だから子孫も繁栄した。俗世でさえ心ある人はこのようである。

解説

盗んだ者を罰する代わりに、盗品を自分のものでないと言い切ることで事を収める。皆が事実を知っていたという一句が効いていて、隠蔽ではなく、退路を作ったのだと分かる。子孫の繁栄まで結びつけられ、恥をかかせない判断が長い目で報いを生むという見方が示されている。逃げ道を残す裁きも、一つの手だということである。

この章句が説くこと

恥辱寛恕方便盗み子孫判断

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