肝要工夫録 / 先祖の苦労を忘れず
さて其先祖の戰場にありて、日夜寢食を安んぜず、君恩を重んじ、一命を輕んじて、精ざる飯に糠味噌汁も足れりと思ひ、忠勤を勵むこと、數多の書に殘りて、その辛苦、いはむ方なし。然るを、其子孫として、其祿を受け繼ぎて、惣領なれば、いつも家督を取ると思ひ、其先祖の佛事法事も、そこ〱に、常に敬することは、いよ〱薄く、豺狼に劣りし行をなしながら、たゞ常に美服を好み、厚味を嗜み、居所の物好に金銀を費し、名利を專らとして、私の爲に淫祀をなして、神佛を祈ること、愚の事なり。たゞ一筋に先祖を尊信し、父母を大切にすることを以て肝要とすべし。
新字:さて其先祖の戦場にありて、日夜寝食を安んぜず、君恩を重んじ、一命を軽んじて、精ざる飯に糠味噌汁も足れりと思ひ、忠勤を励むこと、数多の書に残りて、その辛苦、いはむ方なし。然るを、其子孫として、其禄を受け継ぎて、惣領なれば、いつも家督を取ると思ひ、其先祖の仏事法事も、そこ〱に、常に敬することは、いよ〱薄く、豺狼に劣りし行をなしながら、たゞ常に美服を好み、厚味を嗜み、居所の物好に金銀を費し、名利を専らとして、私の為に淫祀をなして、神仏を祈ること、愚の事なり。たゞ一筋に先祖を尊信し、父母を大切にすることを以て肝要とすべし。
書き下し
さて其先祖の戰場にありて、日夜寢食を安んぜず、君恩を重んじ、一命を輕んじて、精ざる飯に糠味噌汁も足れりと思ひ、忠勤を勵むこと、數多の書に殘りて、その辛苦、いはむ方なし。然るを、其子孫として、其祿を受け繼ぎて、惣領なれば、いつも家督を取ると思ひ、其先祖の佛事法事も、そこ〱に、常に敬することは、いよ〱薄く、豺狼に劣りし行をなしながら、たゞ常に美服を好み、厚味を嗜み、居所の物好に金銀を費し、名利を專らとして、私の爲に淫祀をなして、神佛を祈ること、愚の事なり。たゞ一筋に先祖を尊信し、父母を大切にすることを以て肝要とすべし。
現代語訳
さて、その先祖が戦場にあって、日夜寝食を安んぜず、君恩を重んじ一命を軽んじて、精げない飯に糠味噌汁で足りると思い、忠勤に励んだことは、多くの書に残っており、その辛苦は言いようがありません。それなのに、その子孫として禄を受け継ぎ、惣領なのでいつも家督を取るものと思い、先祖の仏事法事もそこそこで、常の敬いはますます薄く、豺狼にも劣る行いをしながら、ただ常に美服を好み、美食を嗜み、住まいの趣向に金銀を費やし、名利を専らとし、私のために淫祀を行って神仏に祈るのは、愚かなことです。ただ一筋に先祖を尊び信じ、父母を大切にすることを肝要とすべきです。
解説
この章句が説くこと
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