韓非子 / 外儲説右上第三十四
於是日也,郎中盡知之;於是月也,境内盡知之。王召樗里疾曰:「是何匈匈也,何道出?」樗里疾曰:「似犀首也。」王曰:「吾無與犀首言也,其犀首何哉?」樗里疾曰:「犀首也羈旅,新抵罪,其心孤,是言自嫁於衆。」王曰:「然。」使人召犀首,已逃諸侯矣。堂谿公謂昭侯曰:「今有千金之玉巵,通而無當,可以盛水乎?」昭侯曰:「不可。」「有瓦器而不漏,可以盛酒乎?」昭侯曰:「可。」對曰:「夫瓦器,至賤也,不漏,可以盛酒。雖有乎千金之玉巵,至貴而無當,漏,不可盛水,則人孰注漿哉?今爲人之主而漏其羣臣之語,是猶無當之玉巵也。雖有聖智,莫盡其術,爲其漏也。」昭侯曰:「然。」昭侯聞堂谿公之言,自此之後,欲發天下之大事,未嘗不獨寝,恐夢言而使人知其謀也。一曰:堂谿公見昭侯曰:「今有白玉之巵而無當,有瓦巵而有當。君渴,將何以飲?」君曰:「以瓦巵。」堂谿公曰:「白玉之巵美而君不以飲者,以其無當耶?」君曰:「然。」堂谿公曰:「爲人主而漏泄其羣臣之語,譬猶玉巵之無當。」堂谿公每見而出,昭侯必獨卧,惟恐夢言泄於妻妾。申子曰:「獨視者謂明,獨聽者謂聰。
新字:於是日也,郎中尽知之;於是月也,境内尽知之。王召樗里疾曰:「是何匈匈也,何道出?」樗里疾曰:「似犀首也。」王曰:「吾無与犀首言也,其犀首何哉?」樗里疾曰:「犀首也羈旅,新抵罪,其心孤,是言自嫁於衆。」王曰:「然。」使人召犀首,已逃諸侯矣。堂谿公謂昭侯曰:「今有千金之玉巵,通而無当,可以盛水乎?」昭侯曰:「不可。」「有瓦器而不漏,可以盛酒乎?」昭侯曰:「可。」対曰:「夫瓦器,至賤也,不漏,可以盛酒。雖有乎千金之玉巵,至貴而無当,漏,不可盛水,則人孰注漿哉?今為人之主而漏其羣臣之語,是猶無当之玉巵也。雖有聖智,莫尽其術,為其漏也。」昭侯曰:「然。」昭侯聞堂谿公之言,自此之後,欲発天下之大事,未嘗不独寝,恐夢言而使人知其謀也。一曰:堂谿公見昭侯曰:「今有白玉之巵而無当,有瓦巵而有当。君渇,将何以飲?」君曰:「以瓦巵。」堂谿公曰:「白玉之巵美而君不以飲者,以其無当耶?」君曰:「然。」堂谿公曰:「為人主而漏泄其羣臣之語,譬猶玉巵之無当。」堂谿公毎見而出,昭侯必独臥,惟恐夢言泄於妻妾。申子曰:「独視者謂明,独聴者謂聰。
書き下し
是の日に於てや、郎中尽く之を知る。是の月に於てや、境内尽く之を知る。王樗里疾を召して曰く、「是れ何ぞ匈匈たるや、何に道りて出づる」と。樗里疾曰く、「犀首に似たり」と。王曰く、「吾犀首と言ふ無きなり、其れ犀首は何ぞや」と。樗里疾曰く、「犀首や羈旅にして、新たに罪に抵す、其の心孤なり、是の言は自ら衆に嫁するなり」と。王曰く、「然り」と。人をして犀首を召さしむるに、已に諸侯に逃れたり。堂谿公昭侯に謂ひて曰く、「今千金の玉巵有り、通じて当無し、以て水を盛る可きか」と。昭侯曰く、「不可なり」と。「瓦器有りて漏れず、以て酒を盛る可きか」と。昭侯曰く、「可なり」と。対へて曰く、「夫れ瓦器は、至賤なり、漏れざれば、以て酒を盛る可し。千金の玉巵有りと雖も、至貴にして当無く、漏るれば、水を盛る可からず、則ち人孰か漿を注がんや。今人の主と為りて其の羣臣の語を漏らすは、是れ猶ほ当無きの玉巵のごときなり。聖智有りと雖も、其の術を尽くす莫きは、其の漏るるが為なり」と。昭侯曰く、「然り」と。昭侯堂谿公の言を聞き、此れより後、天下の大事を発せんと欲すれば、未だ嘗て独り寝ねずんばあらず、夢言して人をして其の謀を知らしむるを恐るるなり。一に曰く、堂谿公昭侯に見えて曰く、「今白玉の巵有りて当無く、瓦巵有りて当有り。君渇せば、将に何を以て飲まんとする」と。君曰く、「瓦巵を以てせん」と。堂谿公曰く、「白玉の巵美にして君以て飲まざる者は、其の当無きを以てか」と。君曰く、「然り」と。堂谿公曰く、「人主と為りて其の羣臣の語を漏泄するは、譬へば猶ほ玉巵の当無きがごとし」と。堂谿公見ゆる毎に出づれば、昭侯必ず独り臥す、惟だ夢言の妻妾に泄れんことを恐る。申子曰く、「独り視る者を明と謂ひ、独り聴く者を聡と謂ふ。
現代語訳
その日のうちに郎中たちはみなこれを知り、その月のうちに国中がみなこれを知った。王は樗里疾を呼んで言った。「この騒ぎは何事か。どこから漏れたのか」。樗里疾は「犀首から出たようです」と言った。王が「私は犀首とそんな話はしていない。それが犀首からとはどういうことか」と言うと、樗里疾は言った。「犀首はよそから来た身で、しかも罪を得て来たばかりで、心細いのです。このような話をして、自分を皆に売り込んでいるのです」。王は「そうか」と言った。人をやって犀首を呼ばせたが、すでに他の諸侯のもとへ逃げていた。堂谿公が韓の昭侯に言った。「いまここに千金の値打ちのある玉の杯があって、底が抜けていて受けるところがないとすれば、水を入れることができましょうか」。昭侯は「できない」と言った。「素焼きの器があって漏れないなら、酒を入れることができましょうか」。昭侯は「できる」と言った。堂谿公は答えた。「素焼きの器はこの上なく安物ですが、漏れなければ酒を入れることができます。千金の玉の杯があっても、この上なく高価でも底がなく漏れるなら、水を入れることはできず、誰も飲み物を注ぎはしません。いま君主でありながら臣下たちとの話を漏らすのは、底のない玉の杯のようなものです。聖人の知恵があっても、その術を尽くせないのは、漏れるからです」。昭侯は「そうだ」と言った。昭侯は堂谿公の言葉を聞いてから後は、天下の大事を起こそうとするときには、必ず一人で寝た。寝言で人に計略を知られるのを恐れたのである。別の伝えではこうである。堂谿公が昭侯に謁見して言った。「いま白玉の杯があって底がなく、素焼きの杯があって底があるとします。君が喉が渇いたら、どちらで飲まれますか」。昭侯は「素焼きの杯で飲む」と言った。堂谿公が「白玉の杯が美しいのに君がそれで飲まれないのは、底がないからですか」と言うと、昭侯は「そうだ」と言った。堂谿公は言った。「君主でありながら臣下たちとの話を漏らすのは、たとえば底のない玉の杯のようなものです」。堂谿公が謁見して退出するたびに、昭侯は必ず一人で寝た。寝言が妻妾に漏れるのを恐れたのである。申子は言った。「一人で見る者を明といい、一人で聞く者を聡という。
解説
関連する章句
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『韓非子』外儲説右上第三十四堂谿公術を知る、故に玉卮を問う。昭侯術を能くす、故に以に聴きて獨り寢ぬ。
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『韓非子』外儲説右上第三十四左右王の之を説ぶを引きて以て先づ客に告げ以て徳と為す。靖郭君の斉に相たるや、王后死す、未だ置く所を知らず、乃ち玉珥を献じて以て之を知る。一に曰く、薛公斉に相たり、斉の威王の夫人死す、中に十孺子有りて皆王に貴ばる、薛公王の立てんと欲する所を知りて一人を置きて以て夫人と為さんことを請はんと欲す。王之を聴かば、則ち是れ説王に行はれて、夫人を置くに重んぜらるるなり。王聴かざれば、是れ説行はれずして、夫人を置くに軽んぜらるるなり。先づ王の置かんと欲する所を知りて以て王に之を置くことを勧めんと欲し、是に於て十玉珥を為りて其の一を美にして之を献ず。王以て十孺子に賦す。明日坐して、美珥の在る所を視て王に勧めて以て夫人と為さしむ。甘茂秦の恵王に相たり、恵王公孫衍を愛し、之と間に言ふ所有り、曰く、「寡人将に子を相とせんとす」と。甘茂の吏穴に道りて之を聞き、以て甘茂に告ぐ。甘茂入りて王に見えて、曰く、「王賢相を得たり、臣敢て再拝して賀す」と。王曰く、「寡人国を子に託す、安んぞ更に賢相を得ん」と。対へて曰く、「将に犀首を相とせんとす」と。王曰く、「子安くにか之を聞く」と。対へて曰く、「犀首臣に告ぐ」と。王犀首の泄らすを怒り、乃ち之を逐ふ。一に曰く、犀首は、天下の善将なり、梁王の臣なり。秦王之を得て与に天下を治めんと欲す、犀首曰く、「衍は其れ人臣なる者なり、敢て主の国を離れず」と。居ること期年、犀首罪を梁王に抵し、逃れて秦に入る、秦王甚だ之を善くす。樗里疾は、秦の将なり、犀首の之に代はりて将たらんことを恐れ、穴を王の常に隠語する所に鑿つ。俄かにして王果たして犀首と計りて、曰く、「吾韓を攻めんと欲す、奚如」と。犀首曰く、「秋ならば可なり」と。王曰く、「吾国を以て子に累はさんと欲す、子必ず泄らす勿かれ」と。犀首反り走りて再拝して曰く、「命を受く」と。是に於て樗里疾や穴に道りて之を聴けり。郎中皆曰く、「兵秋に起こりて韓を攻め、犀首将たり」と。
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『韓非子』外儲説右上第三十四辞言通ずれば則ち臣は言ひ難くして、主は神ならず。説は申子の「六慎」を言ふと、唐易の弋を言ふとに在り。患は国羊の変を請ふと、宣王の太息とに在るなり。
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『韓非子』外儲説右上第三十四臣をして君の禄を利とせざるを得ず、上の名に服する無きを得ざらしむ。夫れ君の禄を利とし、上の名に服せば、焉んぞ服せざるを得ん。二。申子曰く、「上明らかに見はるれば、人之に備ふ。其の明らかならざること見はるれば、人之を惑はす。其の知見はるれば、人之を飾る。知らざること見はるれば、人之に匿す。其の欲無きこと見はるれば、人之を司ふ。其の欲有ること見はるれば、人之を餌す。故に曰く、吾従りて之を知る無し、惟だ無為以て之を規す可し」と。一に曰く、申子曰く、「而の言を慎めや、人且に女を知らんとす。而の行を慎めや、人且に女に随はんとす。而の知見はるるや、人且に女に匿さんとす。而の知無きこと見はるるや、人且に女を意らんとす。女知有るや、人且に女に臧さんとす。女知無きや、人且に女を行はんとす。故に曰く、惟だ無為以て之を規す可し」と。田子方唐易鞠に問ひて曰く、「弋する者は何をか慎む」と。対へて曰く、「鳥は数百の目を以て子を視る、子は二目を以て之を御す、子謹んで子の廩を周くせよ」と。田子方曰く、「善し。子は之を弋に加へよ、我は之を国に加へん」と。鄭の長者之を聞きて曰く、「田子方は廩を為さんと欲するを知れども、未だ廩を為す所以を得ず。夫れ虚無にして見はるること無き者は、廩なり」と。一に曰く、斉の宣王弋を唐易子に問ひて曰く、「弋する者は奚をか貴ぶ」と。唐易子曰く、「廩を謹むに在り」と。王曰く、「何をか廩を謹むと謂ふ」と。対へて曰く、「鳥は数十目を以て人を視、人は二目を以て鳥を視る、奈何ぞ廩を謹まざらんや。故に『廩を謹むに在り』と曰ふなり」と。王曰く、「然らば則ち天下を為むるに何を以て此の廩を為さん。今人主は二目を以て一国を視、一国は万目を以て人主を視る、将に何を以て自ら廩を為さんとする」と。対へて曰く、「鄭の長者に言有りて曰く、『夫れ虚静無為にして見はるること無きなり』と。其れ以て此の廩と為す可きか」と。国羊鄭君に重んぜらる、君の己を悪むを聞き、侍飲して、因りて先づ君に謂ひて曰く、「臣適たま不幸にして過有らば、願はくは君幸にして之を告げよ。臣請ふ変更せん、則ち臣は死罪を免れん」と。客に韓の宣王に説く有り、宣王説びて太息す。
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『韓非子』內儲說上七術第三十韓の昭侯、騎をして県に於てせしむ。使者報ず。昭侯問ひて曰く、「何をか見たる」と。対へて曰く、「見る所無きなり」と。昭侯曰く、「然りと雖も、何をか見たる」と。曰く、「南門の外に、黄犢の苗を道の左に食む者有り」と。昭侯、使者に謂ふ、「敢へて吾の女に問ふ所を洩らす毋かれ」と。乃ち令を下して曰く、「苗の時に当たりて、牛馬の人の田中に入るを禁ずること固より令有り。而るに吏以て事と為さず、牛馬甚だ多く人の田中に入る。亟かに其の数を挙げて之を上れ。得ずんば、将に其の罪を重くせんとす」と。是に於て三郷挙げて之を上る。昭侯曰く、「未だ尽くさざるなり」と。復た往きて之を審らかにし、乃ち南門の外の黄犢を得たり。吏、昭侯を以て明察と為し、皆其の所に悚懼して敢へて非を為さず。周主、令を下して曲杖を索めしむ。吏之を求むること数日にして得ること能はず。周主私かに人をして之を求めしむれば、日を移さずして之を得たり。乃ち吏に謂ひて曰く、「吾吏の事を事とせざるを知る。曲杖は甚だ易きなり、而るに吏得ること能はず。我人をして之を求めしむれば、日を移さずして之を得たり、豈に忠と謂ふべけんや」と。吏乃ち皆其の所に悚懼して、君を以て神明と為す。卜皮は県令為り。其の御史汚濊にして愛妾有り。卜皮乃ち少庶子をして佯りて之を愛せしめ、以て御史の陰情を知る。西門豹は鄴の令為り。佯りて其の車轄を亡ひ、吏をして之を求めしむるも得ること能はず。人をして之を求めしめて之を家人の屋間に得たり。七。陽山君、衛に相たり。王の己を疑ふを聞き、乃ち偽りて樛豎を謗りて以て之を知る。淖歯、斉王の己を悪むを聞き、乃ち矯りて秦の使ひと為りて以て之を知る。斉人に乱を為さんと欲する者有り。王の之を知らんことを恐れ、因りて詐りて愛する所の者を逐ひ、走りて王をして之を知らしむ。
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『韓非子』內儲說上七術第三十一に曰く、韓の昭侯曰く、「竽を吹く者衆し、吾以て其の善き者を知る無し」と。田厳対へて曰く、「一一にして之を聴け」と。趙、人をして申子に因りて韓に兵を請はしめ、将に以て魏を攻めんとす。申子之を君に言はんと欲するも、君の己の外市するを疑はんことを恐れ、然らずんば趙に悪まれんことを恐る。乃ち趙紹・韓沓をして嘗試に君の動貌を試みしめて而る後に之を言ふ。内は則ち昭侯の意を知り、外は則ち趙を得るの功有り。三国の兵韓に至る。秦王、楼緩に謂ひて曰く、「三国の兵深し。寡人、河東を割きて講ぜんと欲す、何如」と。対へて曰く、「夫れ河東を割くは大費なり。国を患ひより免るるは大功なり。此れ父兄の任なり、王何ぞ公子汜を召して焉に問はざる」と。王、公子汜を召して之に告ぐ。対へて曰く、「講ずるも亦悔い、講ぜざるも亦悔ゆ。王今河東を割きて講ずれば、三国帰りて、王必ず曰はん、『三国固より且に去らんとす、吾特に三城を以て之を送る』と。講ぜずんば、三国也韓に入り、則ち国必ず大いに挙げられん、王必ず大いに悔いん。王曰はん、『三城を献ぜざればなり』と。臣故に曰く、王講ずるも亦悔い、講ぜざるも亦悔ゆ、と」と。王曰く、「為に我悔ゆるや、寧ろ三城を亡ひて悔ゆるも、危ふくして乃ち悔ゆること無からん。寡人講ずるを断ぜり」と。応侯、秦王に謂ひて曰く、「王、宛・葉・藍田・陽夏を得、河内を断ち、梁・鄭を困しむるも、未だ王たらざる所以の者は、趙未だ服せざればなり。上党を弛むること一に在るのみ、以て東陽に臨めば、則ち邯鄲は口中の虱なり。王拱して天下を朝せしめ、後るる者は兵を以て之に中てん。然れども上党の安楽は、其の処甚だ劇し。臣恐らくは之を弛めて聴かざらん、奈何」と。王曰く、「必ず弛めて之に易へん」と。五。龐敬は県令なり。市者を遣はして行かしめ、而して公大夫を召して之を還す。立つこと間有りて、以て之に詔する無く、卒に遣はして行かしむ。市者以為へらく令と公大夫と言有りと、相信ぜず、以て姦無きに至る。