韓非子 / 功名第二十八
桀爲天子,能制天下,非賢也,勢重也;堯爲匹夫,不能正三家,非不肖也,位卑也。千鈞得船則浮,錙銖失船則沉,非千鈞輕錙銖重也,有勢之與無勢也。故短之臨高也以位,不肖之制賢也以勢。人主者,天下一力以共載之,故安;衆同心以共立之,故尊。人臣守所長、盡所能,故忠。以尊主御忠臣,則長樂生而功名成。
新字:桀為天子,能制天下,非賢也,勢重也;堯為匹夫,不能正三家,非不肖也,位卑也。千鈞得船則浮,錙銖失船則沈,非千鈞軽錙銖重也,有勢之与無勢也。故短之臨高也以位,不肖之制賢也以勢。人主者,天下一力以共載之,故安;衆同心以共立之,故尊。人臣守所長、尽所能,故忠。以尊主御忠臣,則長楽生而功名成。
書き下し
桀は天子と為りて、能く天下を制す、賢なるに非ざるなり、勢重ければなり。堯は匹夫と為りて、三家を正すこと能はず、不肖なるに非ざるなり、位卑ければなり。千鈞も船を得れば則ち浮かび、錙銖も船を失へば則ち沈む、千鈞の軽く錙銖の重きに非ざるなり、勢有ると勢無きとなり。故に短の高きに臨むや位を以てし、不肖の賢を制するや勢を以てす。人主は、天下一力にして以て共に之を載す、故に安し。衆心を同じくして以て共に之を立つ、故に尊し。人臣は長ずる所を守り、能くする所を尽くす、故に忠なり。尊主を以て忠臣を御すれば、則ち長楽生じて功名成る。
現代語訳
桀は天子であったから天下を支配できた。賢かったからではなく、勢い(地位の力)が重かったからである。堯は一介の庶民であったなら、三軒の家さえ正すことができなかっただろう。愚かだったからではなく、地位が低かったからである。千鈞の重さでも船に載せれば浮かび、わずかな重さでも船から落ちれば沈む。千鈞が軽くてわずかなものが重いからではなく、勢いがあるかないかの違いである。だから、背の低い者が高い所から見下ろせるのは地位によるのであり、愚かな者が賢い者を制するのは勢いによるのである。君主は、天下が力を一つにしてともに担ぐから安泰であり、人々が心を一つにしてともに立てるから尊いのである。臣下は自分の長所を守り、できることを尽くすから忠実なのである。尊い君主が忠実な臣下を使えば、長い楽しみが生まれ、功名が成る。
解説
関連する章句
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『韓非子』難勢第四十堯も匹夫為らば、三人を治むること能わじ、而して桀天子為れば、能く天下を亂る。吾此を以て勢位の恃むに足り、而して賢智の慕うに足らざるを知るなり。
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『韓非子』難勢第四十夫れ弩弱くして矢高き者は、風に激せらるればなり。身不肖にして令行はるる者は、助けを衆に得ればなり。堯は隷属に教ふるも民聴かず、南面して天下に王たるに至りて、令すれば則ち行はれ、禁ずれば則ち止む。此に由りて之を観れば、賢智は未だ以て衆を服するに足らず、而して勢位は以て賢者を屈するに足るなり。慎子に応へて曰く、飛龍は雲に乗り、騰蛇は霧に遊ぶ。吾龍蛇を以て雲霧の勢に託せずと為さざるなり。然りと雖も、夫れ賢を釈てて専ら勢に任ずれば、以て治を為すに足るか、則ち吾未だ見るを得ざるなり。夫れ雲霧の勢有りて能く之に乗遊する者は、龍蛇の材美なればなり。今雲盛んなるも螾は乗る能はず、霧醲きも螘は遊ぶ能はざるなり。夫れ盛雲醲霧の勢有りて乗遊する能はざる者は、螾螘の材薄ければなり。今桀・紂南面して天下に王たり、天子の威を以て之が雲霧と為す、而して天下大乱を免れざる者は、桀・紂の材薄ければなり。且つ其の人堯の勢を以て以て天下を治むるや、其の勢何を以て桀の勢の天下を乱す者に異ならんや。夫れ勢とは、能く必ずしも賢者をして之を用ひしめて不肖者をして之を用ひしめざるに非ざるなり。賢者之を用ふれば則ち天下治まり、不肖者之を用ふれば則ち天下乱る。人の情性、賢者は寡くして不肖者は衆し。而して威勢の利を以て乱世の不肖人を済へば、則ち是れ勢を以て天下を乱す者多く、勢を以て天下を治むる者寡し。夫れ勢とは、治に便にして乱に利なる者なり。故に周書に曰く、「虎の為に翼を傅くる毋かれ、将に飛びて邑に入り、人を択びて之を食らはんとす。」夫れ不肖人を勢に乗ずるは、是れ虎の為に翼を傅くるなり。桀・紂は高台深池を為りて以て民力を尽くし、炮烙を為りて以て民性を傷つく。桀・紂の肆行を成すを得る者は、南面の威之が翼と為ればなり。桀・紂をして匹夫為らしめば、未だ始めて一を行はずして身は刑戮に在らん。勢とは、虎狼の心を養ひて暴乱の事を成す者なり、此れ天下の大患なり。勢の治乱に於けるや、本未だ位有らざるなり、而して語専ら勢の以て天下を治むるに足るを言ふ者は、則ち其の智の至る所の者浅し。
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『韓非子』難勢第四十今国位を以て車と為し、勢を以て馬と為し、号令を以て轡と為し、刑罰を以て鞭筴と為し、堯・舜をして之を御せしむれば則ち天下治まり、桀・紂之を御すれば則ち天下乱る、則ち賢不肖相去ること遠し。夫れ速きを追ひ遠きを致さんと欲して、王良に任ずるを知らず、利を進め害を除かんと欲して、賢能に任ずるを知らざるは、此れ則ち類を知らざるの患なり。夫れ堯・舜も亦民を治むるの王良なり。復た之に応へて曰く、其の人は勢を以て恃みて以て官を治むるに足ると為す。客曰く「必ず賢を待ちて乃ち治まる」と、則ち然らず。夫れ勢とは、名一にして変無数なる者なり。勢必ず自然に於てせば、則ち勢に言ふを為す無し。吾が勢を言ふ所の者は、人の設くる所を言ふなり。夫れ堯・舜生まれて上位に在れば、十桀紂有りと雖も乱す能はざる者は、則ち勢治まればなり。桀・紂も亦生まれて上位に在れば、十堯舜有りと雖も亦治むる能はざる者は、則ち勢乱るればなり。故に曰く、「勢治まる者は則ち乱すべからず、而して勢乱るる者は則ち治むべからざるなり」と。此れ自然の勢なり、人の設くるを得る所に非ざるなり。吾が言ふ所の若きは、人の設くるを得る所を謂ふのみ、賢何ぞ事とせん。何を以て其の然るを明らかにせん。客曰く、「人に矛と楯とを鬻ぐ者有り、其の楯の堅きを誉めて、『物能く陥す莫きなり』と。俄かにして又其の矛を誉めて曰く、『吾が矛の利なる、物陥さざる無きなり』と。人之に応へて曰く、『子の矛を以て、子の楯を陥さば、何如』と。其の人応ふる能はざるなり。」以為へらく、陥すべからざるの楯と、陥さざる無きの矛とは、名として両立すべからざるなり。夫れ賢の道為る禁ずべからず、而して勢の道為るや禁ぜざる無し。禁ずべからざるの賢と禁ぜざる無きの勢とを以てするは、此れ矛楯の説なり。夫れ賢勢の相客れざるも亦明らかなり。且つ夫れ堯・舜・桀・紂は千世にして一たび出づ、是れ肩を比べ踵を随へて生まるるなり。世の治むる者は中に絶えず、
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『韓非子』功名第二十八故に人に余力有りて応ずるに易く、技に余巧有りて事に便なり。功を立つる者は力に足らず、親近の者は信に足らず、名を成す者は勢に足らず、近き者親しまずして遠き者結ばずんば、則ち名実に称はざる者なり。聖人、徳は堯・舜の若く、行ひは伯夷の若くとも、位世に載せられずんば、則ち功立たず、名遂げず。故に古の能く功名を致す者は、衆人之を助くるに力を以てし、近き者之に結ぶに成を以てし、遠き者之を誉むるに名を以てし、尊き者之を載するに勢を以てす。此の如し、故に太山の功長く国家に立ちて、日月の名久しく天地に著はる。此れ堯の南面して名を守る所以、舜の北面して功を效す所以なり。
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『淮南子』主術訓是の故に人主の一舉や、慎まざる可からざるなり。任ずる所の者 其の人を得れば、則ち國家治まり、上下和し、群臣親しみ、百姓附く。任ずる所 其の人に非ざれば、則ち國家危うく、上下乖き、群臣怨み、百姓亂る。故に一たび舉げて當たらざれば、終身 傷つく。得失の道、權要は主に在り。是れ繩 上に正しくして、木 下に直きなり。事有るに非ず、緣りて以て修むる所の者 然らしむるなり。故に人主 誠に正しければ、則ち直士 事に任じて、奸人 伏匿す。人主 正しからざれば、則ち邪人 志を得て、忠なる者 隱蔽す。夫れ人主の玉石を抓かずして瓜瓠を抓く所以の者は、何ぞや。玉石に得る無ければ、犯さざるなり。人主をして正を執り平を持し、繩准に從いて高下するがごとくならしめば、則ち群臣の邪を以て來たる者は、猶お卵を以て石に投じ、火を以て水に投ずるがごとし。故に靈王 細要を好みて、民に食を殺して自ら饑うる者有り。越王 勇を好みて、民 皆な危きに處りて死を爭う。此に由りて之を觀れば、權勢の柄、其れ以て風を移し俗を易う。堯 匹夫と為らば、一里を仁化する能わず。桀 上位に在れば、令 行われ禁 止む。此に由りて之を觀れば、賢は以て治を為すに足らずして、勢は以て俗を易う可きこと明らかなり。『書』に曰く、「一人 慶有れば、萬民 之に賴る」と。此れ之を謂うなり。
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『韓非子』難勢第四十今勢を廃し法に背きて堯・舜を待ち、堯・舜至りて乃ち治まるは、是れ千世乱れて一たび治まるなり。法を抱き勢に処りて桀・紂を待ち、桀・紂至りて乃ち乱るるは、是れ千世治まりて一たび乱るるなり。且つ夫れ治千にして乱一なると、治一にして乱千なるとは、是れ猶ほ驥・駬に乗りて分かれ馳するがごときなり、相去ること亦遠し。夫れ隠栝の法を棄て、度量の数を去り、奚仲をして車を為らしむれば、一輪をも成す能はず。慶賞の勧め、刑罰の威無く、勢を釈て法を委て、堯・舜戸ごとに説きて人ごとに之を弁ずるも、三家をも治むる能はず。夫れ勢の用ふるに足るも亦明らかなり、而るに「必ず賢を待つ」と曰ふは、則ち亦然らず。且つ夫れ百日食はずして以て粱肉を待たば、餓うる者活きず。今堯・舜の賢を待ちて乃ち当世の民を治むるは、是れ猶ほ粱肉を待ちて餓うるを救ふの説のごときなり。夫れ「良馬固車、臧獲之を御すれば則ち人の笑ひと為り、王良之を御すれば則ち日に千里を取る」と曰ふも、吾以て然りと為さず。