師導古典を学びたいすべての人に

韓非子 / 十過第十

平公問師曠曰:「此所謂何聲也?」師曠曰:「此所謂清商也。」公曰:「清商固最悲乎?」師曠曰:「不如清徵。」公曰:「清徵可得而聞乎?」師曠曰:「不可。古之聽清徵者,皆有德義之君也。今吾君德薄,不足以聽。」平公曰:「寡人之所好者,音也,願試聽之。」師曠不得已,援琴而鼓。一奏之,有玄鶴二八,道南方來,集於郎門之垝。再奏之,而列。三奏之,延頸而鳴,舒翼而舞,音中宫商之聲,聲聞于天。平公大說,坐者皆喜。平公提觴而起爲師曠壽,反坐而問曰:「音莫悲於清徵乎?」師曠曰:「不如清角。」平公曰:「清角可得而聞乎?」師曠曰:「不可。昔者黄帝合鬼神於泰山之上,駕象車而六蛟龍,畢方並鎋,蚩尤居前,風伯進掃,雨師洒道,虎狼在前,鬼神在後,騰蛇伏地,鳯皇覆上,大合鬼神,作爲清角。今吾君德薄,不足聽之。聽之,將恐有敗。」平公曰:「寡人老矣,所好者音也,願遂聽之。」師曠不得已而鼓之。一奏之,有玄雲從西北方起;再奏之,大風至,大雨隨之,裂帷幕,破爼豆,隳廊瓦。坐者散走,平公恐懼,伏于廊室之間。晉國大旱,赤地三年。平公之身遂癃病。故曰:不務聽治,而好五音不已,則窮身之事也。奚謂貪愎?昔者智伯瑶率趙、韓、魏而伐范、中行,滅之。反歸,休兵數年,因令人請地於韓。

新字:平公問師曠曰:「此所謂何声也?」師曠曰:「此所謂清商也。」公曰:「清商固最悲乎?」師曠曰:「不如清徴。」公曰:「清徴可得而聞乎?」師曠曰:「不可。古之聴清徴者,皆有徳義之君也。今吾君徳薄,不足以聴。」平公曰:「寡人之所好者,音也,願試聴之。」師曠不得已,援琴而鼓。一奏之,有玄鶴二八,道南方来,集於郎門之垝。再奏之,而列。三奏之,延頸而鳴,舒翼而舞,音中宮商之声,声聞于天。平公大説,坐者皆喜。平公提觴而起為師曠寿,反坐而問曰:「音莫悲於清徴乎?」師曠曰:「不如清角。」平公曰:「清角可得而聞乎?」師曠曰:「不可。昔者黄帝合鬼神於泰山之上,駕象車而六蛟竜,畢方並鎋,蚩尤居前,風伯進掃,雨師洒道,虎狼在前,鬼神在後,騰蛇伏地,鳳皇覆上,大合鬼神,作為清角。今吾君徳薄,不足聴之。聴之,将恐有敗。」平公曰:「寡人老矣,所好者音也,願遂聴之。」師曠不得已而鼓之。一奏之,有玄雲従西北方起;再奏之,大風至,大雨随之,裂帷幕,破爼豆,隳廊瓦。坐者散走,平公恐懼,伏于廊室之間。晋国大旱,赤地三年。平公之身遂癃病。故曰:不務聴治,而好五音不已,則窮身之事也。奚謂貪愎?昔者智伯瑶率趙、韓、魏而伐范、中行,滅之。反帰,休兵数年,因令人請地於韓。

書き下し

平公師曠に問ひて曰く、「此れ所謂何の声ぞや」と。師曠曰く、「此れ所謂清商なり」と。公曰く、「清商は固より最も悲しきか」と。師曠曰く、「清徴に如かず」と。公曰く、「清徴は得て聞くべきか」と。師曠曰く、「不可なり。古の清徴を聴く者は、皆徳義有るの君なり。今吾が君は徳薄し、以て聴くに足らず」と。平公曰く、「寡人の好む所の者は、音なり、願はくは試みに之を聴かん」と。師曠已むを得ず、琴を援きて鼓す。一たび之を奏すれば、玄鶴二八有り、南方より来り、郎門の垝に集まる。再び之を奏すれば、而ち列す。三たび之を奏すれば、頸を延べて鳴き、翼を舒べて舞ひ、音宮商の声に中り、声天に聞こゆ。平公大いに説び、坐する者皆喜ぶ。平公觴を提げて起ち師曠の寿を為し、坐に反りて問ひて曰く、「音は清徴より悲しきは莫きか」と。師曠曰く、「清角に如かず」と。平公曰く、「清角は得て聞くべきか」と。師曠曰く、「不可なり。昔者黄帝鬼神を泰山の上に合はせ、象車に駕して蛟竜を六にし、畢方鎋に並び、蚩尤前に居り、風伯進みて掃ひ、雨師道に洒ぎ、虎狼前に在り、鬼神後に在り、騰蛇地に伏し、鳳皇上を覆ひ、大いに鬼神を合はせて、清角を作為す。今吾が君は徳薄し、之を聴くに足らず。之を聴かば、将に恐らくは敗有らんとす」と。平公曰く、「寡人老いたり、好む所の者は音なり、願はくは遂に之を聴かん」と。師曠已むを得ずして之を鼓す。一たび之を奏すれば、玄雲有りて西北方より起こる。再び之を奏すれば、大風至り、大雨之に随ひ、帷幕を裂き、俎豆を破り、廊瓦を隳す。坐する者散走し、平公恐懼して、廊室の間に伏す。晋国大いに旱し、赤地三年。平公の身遂に癃病す。故に曰く、聴治を務めずして、五音を好みて已まざれば、則ち身を窮むるの事なり。奚をか貪愎と謂ふ。昔者智伯瑶趙・韓・魏を率ゐて范・中行を伐ち、之を滅ぼす。反り帰りて、兵を休むること数年、因りて人をして地を韓に請はしむ。

現代語訳

平公は師曠に「これは何という音楽か」と尋ねた。師曠は「これは清商というものです」と答えた。平公が「清商がもっとも悲しい調べなのか」と問うと、師曠は「清徴には及びません」と答えた。平公が「清徴は聞くことができるか」と問うと、師曠は「なりません。昔、清徴を聴いたのは皆徳と義のある君主でした。いまわが君は徳が薄く、聴くには足りません」と答えた。平公は「私が好きなのは音楽だ。試しに聴いてみたい」と言った。師曠はやむを得ず琴を取って弾いた。一度奏でると、黒い鶴が十六羽、南方から飛んで来て、廊門の軒に集まった。二度奏でると、整列した。三度奏でると、首を伸ばして鳴き、翼を広げて舞い、その声は宮と商の音律にかない、天にまで響いた。平公は大いに喜び、座にいた者も皆喜んだ。平公は杯を手に立ち上がって師曠の長寿を祝い、座に戻って「清徴より悲しい音楽はないのか」と尋ねた。師曠は「清角には及びません」と答えた。平公が「清角は聞くことができるか」と問うと、師曠は言った。「なりません。昔、黄帝は泰山の上に鬼神を集め、象の引く車に乗り六頭の蛟竜を並べ、畢方(火の神鳥)が車の轄に並び、蚩尤が先頭に立ち、風伯が進んで道を掃き、雨師が道に水をまき、虎と狼が前に、鬼神が後ろに従い、騰蛇が地に伏し、鳳凰が上を覆い、大いに鬼神を集めて清角を作りました。いまわが君は徳が薄く、これを聴くには足りません。聴けば、おそらく災いがあるでしょう」。平公は「私はもう年老いた。好きなのは音楽だ。ぜひ聴きたい」と言った。師曠はやむを得ず弾いた。一度奏でると、黒い雲が西北から湧き起こった。二度奏でると、大風が吹き、大雨がそれに続き、幕を引き裂き、祭器を壊し、回廊の瓦を落とした。座にいた者は散り散りに逃げ、平公は恐れおののいて回廊の部屋の間に伏せた。晋は大日照りとなり、三年のあいだ地は赤く干上がった。平公自身もついに重い病にかかった。だから言う、政治を聴くことに努めず、音楽を好んでやめなければ、身を窮地に追いやることになる、と。欲深く頑ななとは何か。昔、智伯瑶は趙・韓・魏を率いて范氏と中行氏を討ち、滅ぼした。帰ってから数年兵を休めたのち、人をやって韓に土地を要求した。

解説

十過の第四「好音」の結末と、第五「貪愎」の書き出しです。晋の平公は、楽師の師曠が徳の薄い君主には聴かせられないと止めるのも聞かず、清徴、さらに黄帝が鬼神を集めて作ったという清角を弾かせ、大風雨と三年の日照り、自身の重病という災いを招きました。説話の細部は伝説的ですが、韓非の要点は、政務をおろそかにして趣味の欲をやめられない君主は身を滅ぼす、という点にあります。続いて、晋の実力者智伯が韓に土地を要求する場面から、欲深さと頑なさが招いた滅亡の話が始まります。立場のある人の趣味や欲が歯止めを失うと、組織全体に災いが及ぶことを示す話です。

関連する章句

この一句を、あなたの毎日に。

古典の教えを、今の状況に当てはめて考えてみる——師導があなたの学びと選択を支えます。

師導で古典を学ぶ
いま登録すると、7日間すべての機能を無料でお試しいただけます。 無料ではじめる