韓非子 / 有度第六
故矯上之失,詰下之邪,治亂決繆,絀羡齊非,一民之軌,莫如法。厲官威民,退淫殆,止詐僞,莫如刑。刑重,則不敢以貴易賤;法審,則上尊而不侵。上尊而不侵,則主强而守要,故先王貴之而傳之。
新字:故矯上之失,詰下之邪,治乱決繆,絀羡斉非,一民之軌,莫如法。厲官威民,退淫殆,止詐偽,莫如刑。刑重,則不敢以貴易賤;法審,則上尊而不侵。上尊而不侵,則主強而守要,故先王貴之而伝之。
書き下し
故に上の失を矯め、下の邪を詰り、乱を治め繆を決し、羨を絀け非を斉へ、民の軌を一にするは、法に如くは莫し。官を厲まし民を威し、淫殆を退け、詐偽を止むるは、刑に如くは莫し。刑重ければ、則ち敢へて貴を以て賤に易へず。法審らかなれば、則ち上尊くして侵されず。上尊くして侵されざれば、則ち主強くして要を守る、故に先王之を貴びて之を伝ふ。
現代語訳
だから上の過ちを正し、下の邪悪を問いただし、乱れを治め誤りを裁き、余分なものを退けて不正をそろえ、民の行いの筋道を一つにするには、法に及ぶものはない。役人を励まし民を畏れさせ、放縦や怠慢を退け、偽りを止めるには、刑に及ぶものはない。刑が重ければ、身分の高さによって罪の軽重を変えることはできない。法が詳しく明らかであれば、君主は尊ばれて侵されない。君主が尊ばれて侵されなければ、君主は強く、要点を守ることができる。だから先王は法を尊び、それを後世に伝えたのである。
解説
有度篇の結びで、上の過ちも下の邪悪も正し、民の行いを一つの筋道にそろえるには法に勝るものはなく、役人を励まし偽りを止めるには刑に勝るものはないと述べます。刑が重ければ身分によって罪を軽くすることができない、という点は、法の前の平等を説いたものとして注目されます。法は下を縛るだけでなく「上の失を矯める」ものでもある、と冒頭に置かれていることも見落とせません。組織の規程も、現場を縛る道具としてではなく、経営陣も含めて誰にでも同じように適用されるときに力を持ちます。例外を作らないことが、規程の権威と組織の強さを支えます。
関連する章句
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『韓非子』有度第六先王の守る所要なり、故に法省きて侵されず。独り四海の内を制し、聡智も其の詐を用ゐるを得ず、険躁も其の佞を関するを得ず、姦邪も依る所無し。遠く千里の外に在るも、敢へて其の辞を易へず。勢郎中に在るも、敢へて善を蔽ひ非を飾らず。朝廷の群下、直湊単微にして、敢へて相踰越せず。故に治むること足らずして日に余り有るは、上の勢に任ずること然らしむるなり。夫れ人臣の其の主を侵すや、地形の如し、即ち漸く以て往き、人主をして端を失はしめ、東西面を易へて自ら知らず。故に先王は司南を立てて以て朝夕を端す。故に明主は其の群臣をして意を法の外に遊ばしめず、恵を法の内に為さしめず、動くこと法に非ざる無し。峻法は、過ちを禁じ私を外にする所以なり。厳刑は、令を遂げ下を懲らす所以なり。威は貳錯せず、制は門を共にせず。威・制共にすれば、則ち衆邪彰る。法信ならざれば、則ち君の行ひ危ふし。刑断ぜざれば、則ち邪勝へず。故に曰く、巧匠は目意もて縄に中るも、然れども必ず先づ規矩を以て度と為す。上智は捷挙して事に中るも、必ず先王の法を以て比と為す。故に縄直くして枉木斲られ、準夷らかにして高科削られ、権衡縣けて重きは軽きに益し、斗石設けて多きは少なきに益す。
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『韓非子』有度第六能く私行を去りて公法を行ふ者は、則ち兵強くして敵弱し。故に得失を審らかにして法度の制有る者を、群臣の上に加ふれば、則ち主詐偽を以て欺くべからず。得失を審らかにして権衡の称有る者を、以て遠事を聴かしむれば、則ち主天下の軽重を以て欺くべからず。
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『韓非子』有度第六法は貴に阿らず、縄は曲れるに撓まず。
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『韓非子』有度第六過ちを刑するに大臣をも避けず、善を賞するに匹夫をも遺れず。
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『韓非子』有度第六若し党を以て官を挙ぐれば、則ち民交はりを務めて法に用ゐらるるを求めず。故に官の能を失ふ者は其の国乱る。誉を以て賞と為し、毀を以て罰と為せば、則ち賞を好み罰を悪む人は、公行を釈て、私術を行ひ、比周して以て相為さん。
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『韓非子』八經第四十八民制を以て上を畏るるに、上勢を以て下に卑し、故に下肆很觸して君を輕んずるの俗を榮とす、則ち主威分かる。民法を以て上を犯すを難しとするに、上法を以て慈仁に撓む、故に下愛施を明らかにして賕納の政を務む、是を以て法令隳る。私行を尊びて以て主威を貳にし、賕納を行ひて以て法を疑はしむ、之を聽けば則ち治を亂し、聽かざれば則ち主を謗る、故に君位に輕く法官に亂る、此れを之れ無常の國と謂ふ。明主の道は、臣行義を以て榮を成すを得ず、家利を以て功と爲すを得ず。功名の生ずる所は、必ず官法に出づ。法の外なる所は、難行有りと雖も、以て顯はさず、故に民以て名を私する無し。法度を設けて以て民を齊しくし、賞罰を信にして以て民能を盡くし、誹譽を明らかにして以て勸沮す。名號・賞罰・法令の三隅なり。故に大臣行有れば則ち君を尊び、百姓功有れば則ち上を利す、此れを之れ有道の國と謂ふなり。