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韓非子 / 存韓第二

魏欲發兵以攻韓,秦使人將使者於韓。今秦王使臣斯來而不得見,恐左右襲曩姦臣之計,使韓復有亡地之患。臣斯不得見,請歸報,秦韓之交必絶矣。斯之來使,以奉秦王之歡心,願效便計,豈陛下所以逆賤臣者邪?臣斯願得一見,前進道愚計,退就葅戮,願陛下有意焉。今殺臣於韓,則大王不足以强,若不聽臣之計,則禍必搆矣。秦發兵不留行,而韓之社稷憂矣。臣斯暴身於韓之市,則雖欲察賤臣愚忠之計,不可得已。

新字:魏欲発兵以攻韓,秦使人将使者於韓。今秦王使臣斯来而不得見,恐左右襲曩姦臣之計,使韓復有亡地之患。臣斯不得見,請帰報,秦韓之交必絶矣。斯之来使,以奉秦王之歓心,願効便計,豈陛下所以逆賤臣者邪?臣斯願得一見,前進道愚計,退就葅戮,願陛下有意焉。今殺臣於韓,則大王不足以強,若不聴臣之計,則禍必搆矣。秦発兵不留行,而韓之社稷憂矣。臣斯暴身於韓之市,則雖欲察賤臣愚忠之計,不可得已。

書き下し

魏兵を発して以て韓を攻めんと欲し、秦人をして使者を韓に将ゐしむ。今秦王臣斯をして来らしめて見ゆるを得ず、恐らくは左右曩の姦臣の計を襲ひ、韓をして復た地を亡ふの患有らしめん。臣斯見ゆるを得ずんば、請ふ帰りて報ぜん、秦韓の交必ず絶えん。斯の来使するや、以て秦王の歓心を奉じ、便計を效さんことを願ふ、豈に陛下の賤臣を逆ふる所以の者ならんや。臣斯願はくは一たび見ゆるを得て、前みては愚計を進道し、退きては葅戮に就かん、願はくは陛下意有れ。今臣を韓に殺さば、則ち大王以て強きに足らず、若し臣の計を聴かずんば、則ち禍必ず搆へん。秦兵を発して行を留めずして、韓の社稷憂へん。臣斯身を韓の市に暴さば、則ち賤臣の愚忠の計を察せんと欲すと雖も、得べからざるのみ。

現代語訳

魏も兵を出して韓を攻めようとしており、秦は人をやって魏の使者を韓に引き連れさせている。いま秦王は私李斯を遣わしたのに、お目にかかれない。おそらく側近たちが以前の姦臣の計略をそのまま踏襲し、韓に再び領土を失う憂き目を見させようとしているのだろう。私がお目にかかれなければ、帰って報告するほかなく、そうなれば秦と韓の交わりは必ず断たれる。私が使いとして来たのは、秦王の好意を届け、有益な計略を献じたいと願ったからである。陛下が私を拒まれる理由などあろうか。私はぜひ一度お目にかかり、進んでは愚かな計略を申し上げ、退いては塩漬けの刑に処されてもよいと願っている。どうか陛下にはお心をお向けいただきたい。いま私を韓で殺しても、大王が強くなることはなく、私の計略を聞かなければ禍いは必ず組み上がる。秦が兵を出して足を止めなければ、韓の社稷は危うくなる。私が韓の市場で屍をさらすことになれば、そのとき私の愚直な忠言を察しようとしても、もうかなわないのである。

解説

李斯が韓王に面会を求め、会えなければ秦韓の交わりは断絶すると迫る一節です。自分を殺しても韓は強くならず、計略を聞かなければ禍いが来ると述べ、脅しと誠意の訴えを交互に使っています。「葅戮」は死体を塩漬けにする極刑で、命を懸けて面会を求める覚悟を示す言葉です。韓王が李斯に会わなかったのは、秦の使者に会えば身柄を留められる危険などを警戒したためとも考えられます。交渉では、会わないという選択そのものが相手に強い合図を送ります。避けることで事態が悪化しないか、会って聞いたうえで断るほうがよいのかを見極める必要があります。

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