価原 / 『価原』西洋の実測に学ぶ天文地理と医術
天文地理ノ學梵最粗ナリ漢ハ寢精シ然レドモ思量模索ニ出デテ實測ニウトシ西洋ハ器ヲ制シ舟ニ駕シ足跡至ラザルノ地ナシココニ於テ天地ヲ見ルコト掌菓ノ如シ實ニ千載ノ大愉快ナリ西洋ノ醫治内ヲ略シテ外ニ詳ナリ大ニ漢人藩園ノ外ニ出ヅ漢人ノ治ハムカシノ人五運六氣五臟六腑ナド云コトヲ云始メシヨリ終ニコレニ誤ラレテ實測ニ暇アラズ西人ハ意ヲ實測ニ用ユ故ニ人ノ臟腑筋骨ノ如キモ數剝シテ眞ニ試ム故ニ最精詳ヲ盡ス蓋天地ニ條理アリ未條理ヲ得ザレバ實測アリトイヘドモ是ヲ彷彿ニ得テ猶眞ニ遠シ故ニ造化ヲ說ニ至テハ漢ニ木火土金水ト云梵ニ地水火風ト云西洋ニ水火土氣ト云共ニ伯仲ノ說ナリ
新字:天文地理ノ学梵最粗ナリ漢ハ寝精シ然レドモ思量模索ニ出デテ実測ニウトシ西洋ハ器ヲ制シ舟ニ駕シ足跡至ラザルノ地ナシココニ於テ天地ヲ見ルコト掌菓ノ如シ実ニ千載ノ大愉快ナリ西洋ノ医治内ヲ略シテ外ニ詳ナリ大ニ漢人藩園ノ外ニ出ヅ漢人ノ治ハムカシノ人五運六気五臓六腑ナド云コトヲ云始メシヨリ終ニコレニ誤ラレテ実測ニ暇アラズ西人ハ意ヲ実測ニ用ユ故ニ人ノ臓腑筋骨ノ如キモ数剥シテ真ニ試ム故ニ最精詳ヲ尽ス蓋天地ニ条理アリ未条理ヲ得ザレバ実測アリトイヘドモ是ヲ彷彿ニ得テ猶真ニ遠シ故ニ造化ヲ説ニ至テハ漢ニ木火土金水ト云梵ニ地水火風ト云西洋ニ水火土気ト云共ニ伯仲ノ説ナリ
書き下し
天文地理の学、梵は最も粗なり。漢はやや精し。しかれども思量模索に出でて、実測にうとし。西洋は器を制し、舟に駕し、足跡至らざるの地なし。ここにおいて天地を見ること掌菓のごとし。実に千載の大愉快なり。西洋の医治は、内を略して外に詳らかなり。大いに漢人の藩園の外に出ず。漢人の治は、むかしの人、五運六気・五臓六腑など言うことを言い始めしより、ついにこれに誤られて、実測に暇あらず。西人は意を実測に用ゆ。故に人の臓腑・筋骨のごときも、数剥して真に試む。故に最も精詳を尽くす。けだし天地に条理あり。いまだ条理を得ざれば、実測ありといえども、これを彷彿に得て、なお真に遠し。故に造化を説くに至っては、漢に木火土金水と言い、梵に地水火風と言い、西洋に水火土気と言う、ともに伯仲の説なり。
現代語訳
天文や地理の学問は、インドは最も粗い。中国はやや詳しい。しかし、頭で考え、手探りで推し量るところから出ていて、実際の測定には疎い。西洋は器械を作り、船に乗って、足跡の及ばない土地がない。そこで天地を見ることが、手のひらの果物を見るようである。まことに千年に一度の大きな愉快である。西洋の医術は、体の内側を省いて、外側に詳しい。中国人の垣根を大きく越え出ている。中国人の治療は、昔の人が五運六気や五臓六腑などと言い始めてから、とうとうこれに惑わされて、実際の測定をする余裕がなかった。西洋人は心を実測に向ける。だから人の内臓や筋肉、骨なども、何度も解剖して本当に確かめる。そのため最も詳しく尽くしている。思うに、天地には筋道がある。まだその筋道を得ていないうちは、実測があっても、ぼんやりと捉えるだけで、なお真実からは遠い。だから万物の造化を説く段になると、中国では木火土金水といい、インドでは地水火風といい、西洋では水火土気というが、どれも似たり寄ったりの説である。
解説

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