価原 / 『価原』欲に限りがあり財には限りがある
事兩ナガラ全フシ難ケレバ廉耻ノ風荒メバ人賄賂ヲ好ム禮讓ノ敎至ラザレバ人爭奪ヲ好ム制度立コトナケレバ華奢等ヲ踰ユ今其好ムヲ好ムニ任セ踰ルヲ踰ルニ任セ限ナキ人ノ慾ヲ極リ有ル財寶ニテ償ンコトヲ求メバ天下ノ大山高岳ヲシテ盡ク金ヲ出サシムルトモ米粟布帛ノ至寶ヲ生ズル者ヲシテ其業ヲ棄シメ衣食器械ニモナラザル物ニ人巧ヲ費サシムルニスギズ是ヲ以テ今タトヒ金銀ヲシテ天下ノ米粟布帛ノ如ク多カラシムトモ世唯債數ノ多クナルマデニテ至寶ノ生路ハ日々ニ薄ク人ノ賑フコトハ有ルマジキナリ
新字:事両ナガラ全フシ難ケレバ廉耻ノ風荒メバ人賄賂ヲ好ム礼譲ノ教至ラザレバ人争奪ヲ好ム制度立コトナケレバ華奢等ヲ踰ユ今其好ムヲ好ムニ任セ踰ルヲ踰ルニ任セ限ナキ人ノ慾ヲ極リ有ル財宝ニテ償ンコトヲ求メバ天下ノ大山高岳ヲシテ尽ク金ヲ出サシムルトモ米粟布帛ノ至宝ヲ生ズル者ヲシテ其業ヲ棄シメ衣食器械ニモナラザル物ニ人巧ヲ費サシムルニスギズ是ヲ以テ今タトヒ金銀ヲシテ天下ノ米粟布帛ノ如ク多カラシムトモ世唯債数ノ多クナルマデニテ至宝ノ生路ハ日々ニ薄ク人ノ賑フコトハ有ルマジキナリ
書き下し
事、両ながら全うし難ければ、廉恥の風荒めば、人、賄賂を好む。礼譲の教え至らざれば、人、争奪を好む。制度立つことなければ、華奢、等を踰ゆ。今、その好むを好むに任せ、踰ゆるを踰ゆるに任せ、限りなき人の欲を、極まり有る財宝にて償わんことを求めば、天下の大山高岳をして尽く金を出ださしむるとも、米粟布帛の至宝を生ずる者をしてその業を棄てしめ、衣食器械にもならざる物に人巧を費やさしむるに過ぎず。これをもって今たとい金銀をして天下の米粟布帛のごとく多からしむとも、世ただ債数の多くなるまでにて、至宝の生路は日々に薄く、人の賑わうことは有るまじきなり。
現代語訳
物事は両方を全うしがたいので、廉恥の風が荒れれば、人は賄賂を好む。礼譲の教えが行き届かなければ、人は争い奪うことを好む。制度が立たなければ、ぜいたくは身分の等級を越える。今、人の好むに任せ、越えるに任せ、限りのない人の欲を、限りのある財宝で満たそうとするなら、天下の大きな山や高い峰にことごとく金を出させたとしても、米や粟、布や絹という至宝を生み出す者にその業を捨てさせ、衣食や器にもならない物に人の工夫を費やさせるだけに過ぎない。このため、今たとえ金銀を天下の米粟布帛のように多くしたとしても、世は債務の数が増えるだけで、至宝を生み出す道は日々に細り、人々が豊かに栄えることはあるまい。
解説

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