価原 / 『価原』債家が金銀を駆る淵叢のたとえ
夫富家大ナル者ハ巨萬ヲ儲ヘ小ナル者ハ數金ヲ儲ヘ小家ハ數金ノ家ニカリ大家ハ巨萬ノ家ニカル借ル者ハ本錢ニシテ收ル者ハ息ヲ幷ス小民ノ數金大人ノ數萬其勢伴クシテ同ク富家ノ爲ニ金銀ヲ歐者ナリソレ叢ニハ雀聚リ淵ニハ魚聚ル叢ニ雀ノ聚ルモノハ鸇外ヨリコレヲ歐レバナリ淵ニ魚ノ聚ルハ獺ノ瀨ヨリコレヲ歐レバナリ淵叢ノ力ニテ魚雀ハ聚ラザレドモ鸇ト獺トノ魚ト雀トヲ好ム故ニ却テ淵叢ニ聚ルナリ金銀モ其如ク富家ノ力ニテハ中中聚ル者ニ非ズ債家コレヲ歐ル故ニ倍蓰什佰巨萬ニ至ル抑債家何故ニコレヲ歐ルゾナレバ歳計ノ常ニ足ラザルヨリ成ル歳計ノ足ラザルハ奢侈賄賂昔ニ倍シテ制度未立ズ節儉ノ道行ハレザレバナリ
新字:夫富家大ナル者ハ巨万ヲ儲ヘ小ナル者ハ数金ヲ儲ヘ小家ハ数金ノ家ニカリ大家ハ巨万ノ家ニカル借ル者ハ本銭ニシテ収ル者ハ息ヲ幷ス小民ノ数金大人ノ数万其勢伴クシテ同ク富家ノ為ニ金銀ヲ欧者ナリソレ叢ニハ雀聚リ淵ニハ魚聚ル叢ニ雀ノ聚ルモノハ鸇外ヨリコレヲ欧レバナリ淵ニ魚ノ聚ルハ獺ノ瀨ヨリコレヲ欧レバナリ淵叢ノ力ニテ魚雀ハ聚ラザレドモ鸇ト獺トノ魚ト雀トヲ好ム故ニ却テ淵叢ニ聚ルナリ金銀モ其如ク富家ノ力ニテハ中中聚ル者ニ非ズ債家コレヲ欧ル故ニ倍蓰什佰巨万ニ至ル抑債家何故ニコレヲ欧ルゾナレバ歳計ノ常ニ足ラザルヨリ成ル歳計ノ足ラザルハ奢侈賄賂昔ニ倍シテ制度未立ズ節倹ノ道行ハレザレバナリ
書き下し
夫れ富家大なる者は巨万を儲え、小なる者は数金を儲え、小家は数金の家に借り、大家は巨万の家に借る。借る者は本銭にして、収むる者は息を併す。小民の数金、大人の数万、その勢い等しくして、同じく富家のために金銀を駆る者なり。それ叢には雀集まり、淵には魚集まる。叢に雀の集まるものは、鸇外よりこれを駆ればなり。淵に魚の集まるは、獺瀬よりこれを駆ればなり。淵叢の力にて魚雀は集まらざれども、鸇と獺との魚と雀とを好む故に、かえって淵叢に集まるなり。金銀もその如く、富家の力にてはなかなか集まる者に非ず。債家これを駆る故に、倍蓰什佰巨万に至る。そもそも債家、何故にこれを駆るぞなれば、歳計の常に足らざるより成る。歳計の足らざるは、奢侈賄賂、昔に倍して、制度未だ立たず、節倹の道行われざればなり。
現代語訳
富家は、大きな者は巨万を蓄え、小さな者は数金を蓄え、小家は数金の家に借り、大家は巨万の家に借りる。借りる者にとっては元手であり、貸す者は利息をも併せて受け取る。小民の数金も、大人の数万も、その勢いは同じで、ともに富家のために金銀を追い立てる者である。茂みには雀が集まり、淵には魚が集まる。茂みに雀が集まるのは、鷹が外から雀を追い立てるからである。淵に魚が集まるのは、獺が瀬から魚を追い立てるからである。淵や茂みの力で魚や雀が集まるのではないが、鷹や獺が魚や雀を好むために、かえって淵や茂みに集まる。金銀もそのとおりで、富家の力ではなかなか集まるものではない。債務を負う家がこれを追い立てるために、倍、五倍、十倍、百倍、巨万に至る。そもそも債務を負う家がなぜ金銀を追い立てるのかといえば、年ごとの収支が常に足りないことから起こる。年の収支が足りないのは、ぜいたくと賄賂が昔の倍にもなり、制度がまだ立たず、節倹の道が行われないからである。
解説

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