家道訓 / 巻之六・用財下
一人におくり物するは、心を用ふべきことなり。すべてあしき物を贈るは、贈らざるにおとりてはづかし。魚のあざれ、肉のやぶれ、餅餌醬醢などのつくりなせる物、味變じ色あしく臭あしき、又菓など、いまだ熟せざる物の、時ならずして人に害あるもの、皆人に贈るべからず。贈物によりて人の心のうすきあつきあらはる。下部に任せてはうしろめたし。みづからえらぶべし。
新字:一人におくり物するは、心を用ふべきことなり。すべてあしき物を贈るは、贈らざるにおとりてはづかし。魚のあざれ、肉のやぶれ、餅餌醬醢などのつくりなせる物、味変じ色あしく臭あしき、又菓など、いまだ熟せざる物の、時ならずして人に害あるもの、皆人に贈るべからず。贈物によりて人の心のうすきあつきあらはる。下部に任せてはうしろめたし。みづからえらぶべし。
書き下し
一人におくり物するは、心を用ふべきことなり。すべてあしき物を贈るは、贈らざるにおとりてはづかし。魚のあざれ、肉のやぶれ、餅餌醬醢などのつくりなせる物、味変じ色あしく臭あしき、又菓など、いまだ熟せざる物の、時ならずして人に害あるもの、皆人に贈るべからず。贈物によりて人の心のうすきあつきあらはる。下部に任せてはうしろめたし。みづからえらぶべし。
現代語訳
人に贈り物をするのは、心を用いるべきことです。すべて悪い物を贈るのは、贈らないよりも劣って恥ずかしいことです。腐った魚、傷んだ肉、餅・団子・塩辛・肉の醤などの加工品で、味が変わり色が悪く臭いの悪いもの、また果物などでまだ熟しておらず、時期外れで人に害のあるもの、これらはみな人に贈ってはいけません。贈り物によって人の心の薄さ厚さが表れます。使用人に任せるのは気がかりです。自ら選びなさい。
解説
この章句が説くこと
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『武士道』第六章 禮儀・礼道の要は心を練るにあり予も亦た、或はスペンサー氏の社会学論理法に倣ひて、我国の礼法の源頭に溯り、其由つて来れる進化の次第経路を繹ぬるを得ん。されどかくの如きは本書の任とする所にあらずして、予はただここに、礼を厳守することの含有せる徳育を主眼として、之を説かんとするものなり。既に云へるが如く、礼の道は精緻を極めて、委曲繊巧となりたるよりして、遂に作法を異にせる多岐の流派を生ずるに至りたりと雖、此等は要するに其大旨に於て、ついに帰を同じうせざるは無く、其極意は、小笠原流礼法の宗家たる小笠原清務氏の語る所によりて明かなり。曰く、『礼道の要は、心を練るにあり。礼を以て端坐すれば、兇人、剣を取りて向ふとも、害を加ふること能はず』と。
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『慎思録』巻之三邵子曰く、人の心は、即ち天地の神なり。人の自ら欺くは、天地を欺く所以なり。慎まざるべけんや、と。邵子の意は、人心も亦天地の神有りと為すを謂ふ。此れ詩の所謂上帝汝に臨むの意と較々異なる者は、天に在ると人に在るとの異なるを以てなり。其の実は天に在ると人に在ると両般無し。人心の神明は、即ち天神の我に在る者なり。天地の神と、人心の神明とは、本自ら一般なり。只体統と各具との分殊有るのみ。故に人の自ら欺くは、即ち天を欺くなり。豈に畏るべきの甚しきに非ずや。孟子曰く、其の心を存し其の性を養ふは、天に事ふる所以なり、と。蓋し吾が心性は、即ち是れ天の賦予する所にして、我に在るの天なり。我に在るの天を存養すると、上天に事ふるとは、二理無く二事無きなり。
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『大和俗訓』巻之三・心術上一心は身の主にて、万事の本根なり。此故に、心正しからざれば身をさまらずして、家をととのへ、人ををさめがたし。たとへば草木の根堅からざれば、枝葉さかえず、家の主不徳なれば、家をさまらざるが如し。心を正しくする道は、まづ善をこのみ、悪を嫌ふこと真実なるを本とすべし。心の内に善をこのむ誠なく、悪をきらふ事まめやかならずんば、猶悪人の境界をまぬかれがたきゆゑ、心を正しくすべきやうなかるべし。是大学の道、心を正しくせんと欲しては、先其意を誠にするにあり。既に善をこのみ悪をきらふこと誠あらば、心を正しくする事やすかるべし。心を正しくすとは、心よりおこる所の喜・怒・哀・楽・愛・悪・慾の七情、よきほどに過不及なくして、片落ちざるを云ふ。喜ぶべくして喜び、其喜すごすべからず。怒るべくして怒り、其怒過すべからず。自余も亦かくの如くなるべし。七情過不及なくして、片落ちざれば、心の内とどこほりなくして、常に和平なり。是心正しきなり。
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『五常訓』巻之四・礼一君子は、耳に非礼の音楽淫声をきかず。目に非礼なる見物を見ず。口に非礼の事をいはず。身に非礼のうごきをなさず。飲食を慎み、節にして過さず。皆是礼の制する所なり。一口の過なきより、身の過なきは難く、身の過なきより、心の過なき事は難し。三のもの、ともに礼を以て正さずんばあるべからず。
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