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家道訓 / 巻之六・用財下

一おごりてほしいまゝなる人は、三年に用ふる財を一年につひやし盡くす。たとへば無養生なる人、慾をほしいまゝにすれば、百年の元氣を一時にへらして、身を失ふが如し。一山谷が詩曰深念煩鄰里、忍窮禁貸除。此詩の意は、人の財を借り、人の物をおぎのり買ひて返さゞれば、我が鄕里人のわづらひとなるをふかく思案して、身の艱難をこらへて、人の財を借らず人の物をおぎのらずといへる意なり。家を治むるの道かくの如くすべし。財を貸したる者、物を賣りし者のうれひうらみをおもひはかるべし。むかしの人は、家まどしけれど、艱難をこらへて、我がもてる家財を以て家をすぐして、人の財をからず。故に今時の如く、人ごとにまどしきうれひなし。或は小祿の人も、財のたくはへありて、不慮の時の變にそなへしなり。今の人はおごりつひやして、必ず家財不足す。時の風俗にならひて、當時の慾をほしいまゝにして、後のうれひをおもんぱからざるなり。

新字:一おごりてほしいまゝなる人は、三年に用ふる財を一年につひやし尽くす。たとへば無養生なる人、慾をほしいまゝにすれば、百年の元気を一時にへらして、身を失ふが如し。一山谷が詩曰深念煩鄰里、忍窮禁貸除。此詩の意は、人の財を借り、人の物をおぎのり買ひて返さゞれば、我が郷里人のわづらひとなるをふかく思案して、身の艱難をこらへて、人の財を借らず人の物をおぎのらずといへる意なり。家を治むるの道かくの如くすべし。財を貸したる者、物を売りし者のうれひうらみをおもひはかるべし。むかしの人は、家まどしけれど、艱難をこらへて、我がもてる家財を以て家をすぐして、人の財をからず。故に今時の如く、人ごとにまどしきうれひなし。或は小禄の人も、財のたくはへありて、不慮の時の変にそなへしなり。今の人はおごりつひやして、必ず家財不足す。時の風俗にならひて、当時の慾をほしいまゝにして、後のうれひをおもんぱからざるなり。

書き下し

一おごりてほしいままなる人は、三年に用ふる財を一年につひやし尽くす。たとへば無養生なる人、慾をほしいままにすれば、百年の元気を一時にへらして、身を失ふが如し。一山谷が詩に曰く、深く鄰里を煩はさんことを念ひ、窮を忍びて貸除を禁ず。此詩の意は、人の財を借り、人の物をおぎのり買ひて返さざれば、我が郷里人のわづらひとなるをふかく思案して、身の艱難をこらへて、人の財を借らず人の物をおぎのらずといへる意なり。家を治むるの道かくの如くすべし。財を貸したる者、物を売りし者のうれひうらみをおもひはかるべし。むかしの人は、家まどしけれど、艱難をこらへて、我がもてる家財を以て家をすぐして、人の財をからず。故に今時の如く、人ごとにまどしきうれひなし。或は小禄の人も、財のたくはへありて、不慮の時の変にそなへしなり。今の人はおごりつひやして、必ず家財不足す。時の風俗にならひて、当時の慾をほしいままにして、後のうれひをおもんぱからざるなり。

現代語訳

驕ってほしいままにする人は、三年に使う財を一年で使い尽くします。たとえば養生をしない人が欲をほしいままにすれば、百年の元気を一時に減らして身を失うようなものです。山谷(黄庭堅)の詩に「深く郷里の人々を煩わせることを思い、貧しさを耐え忍んで借りることや掛け買いを禁じる」とあります。この詩の意味は、人の財を借り、人の物を掛けで買って返さなければ、自分の郷里の人々の煩いとなることを深く思案して、身の苦労をこらえ、人の財を借りず人の物を掛けで買わない、ということです。家を治める道はこのようにすべきです。財を貸した者、物を売った者の憂いや恨みを思いやりなさい。昔の人は、家が貧しくても苦労をこらえ、自分の持つ家財で家を暮らし、人の財を借りませんでした。ですから今の世のように、誰もが貧しさに苦しむということはありませんでした。あるいは禄の少ない人も財の蓄えがあって、思いがけない時の変事に備えたのです。今の人は驕って費やし、必ず家財が不足します。時の風俗にならって、目の前の欲をほしいままにし、後の憂いを考えないのです。

解説

前半は浪費を「百年の元気を一時にへらす」不養生にたとえ、後半は宋の詩人黄庭堅(号は山谷)の詩句を引いて、借金や掛け買いを慎む理由を説きます。自分が借りて返さなければ、郷里の人々に迷惑が及ぶという視点が大切です。借金は自分一人の問題ではなく、貸した人や売った人の暮らしを脅かすことだと益軒は見ています。昔は貧しくても借りなかったから皆が困窮しなかったという対比は、個人の借金が地域や社会の信用にも関わるという、今にも通じる指摘です。

この章句が説くこと

借金郷里忍耐倹約信義

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