家道訓 / 巻之六・用財下
一我が父、人の財を借りてかへさず、又買ひたる物の價をかへさゞる、是父のひが事なり。其の子たる者、我がかへすべき力だにあらば、年久しくへだたりぬとも、其のかし主と賣れる主をたづね求めて、我が財を以て父の借れるおひめと、買へる物のあたひを、滯りなくつぐのひ返すべし。是を父の過を補ふと云ふ。孝の道なり。父の時、人の財をかへさず、あたひをかへさゞるは、我が心に快からず。又貸主賣主も、財を失へるうらみふかし。然るに是をかへせば、親の過を補ひ、我が心を快くし、かし主うり主のうらみ無くする、此の三の益あり。必ず我が身の養をはぶきつひえをやめて、父のおひめをつぐのひかへすべし。かくのごとく孝を行ひ、道を直くしてあはれみある人は、其の故とは目に見えざれども、必ず後に天のむくいありて、ひそかにめぐみたすけ給ふ理あり。君子は、其のむくいを心にかけて善を行はざれども、其のじねんのしるしは必ずある理なり。俄に目に見えざるとて、此の道理あるをうたがふべからず。
新字:一我が父、人の財を借りてかへさず、又買ひたる物の価をかへさゞる、是父のひが事なり。其の子たる者、我がかへすべき力だにあらば、年久しくへだたりぬとも、其のかし主と売れる主をたづね求めて、我が財を以て父の借れるおひめと、買へる物のあたひを、滞りなくつぐのひ返すべし。是を父の過を補ふと云ふ。孝の道なり。父の時、人の財をかへさず、あたひをかへさゞるは、我が心に快からず。又貸主売主も、財を失へるうらみふかし。然るに是をかへせば、親の過を補ひ、我が心を快くし、かし主うり主のうらみ無くする、此の三の益あり。必ず我が身の養をはぶきつひえをやめて、父のおひめをつぐのひかへすべし。かくのごとく孝を行ひ、道を直くしてあはれみある人は、其の故とは目に見えざれども、必ず後に天のむくいありて、ひそかにめぐみたすけ給ふ理あり。君子は、其のむくいを心にかけて善を行はざれども、其のじねんのしるしは必ずある理なり。俄に目に見えざるとて、此の道理あるをうたがふべからず。
書き下し
一我が父、人の財を借りてかへさず、又買ひたる物の価をかへさざる、是父のひが事なり。其の子たる者、我がかへすべき力だにあらば、年久しくへだたりぬとも、其のかし主と売れる主をたづね求めて、我が財を以て父の借れるおひめと、買へる物のあたひを、滞りなくつぐのひ返すべし。是を父の過を補ふと云ふ。孝の道なり。父の時、人の財をかへさず、あたひをかへさざるは、我が心に快からず。又貸主売主も、財を失へるうらみふかし。然るに是をかへせば、親の過を補ひ、我が心を快くし、かし主うり主のうらみ無くする、此の三の益あり。必ず我が身の養をはぶきつひえをやめて、父のおひめをつぐのひかへすべし。かくのごとく孝を行ひ、道を直くしてあはれみある人は、其の故とは目に見えざれども、必ず後に天のむくいありて、ひそかにめぐみたすけ給ふ理あり。君子は、其のむくいを心にかけて善を行はざれども、其のじねんのしるしは必ずある理なり。俄に目に見えざるとて、此の道理あるをうたがふべからず。
現代語訳
自分の父が人の財を借りて返さず、また買った物の代金を払わないでいるのは、父の過ちです。その子である者は、自分に返す力さえあれば、年月が久しく隔たっていても、その貸し主と売り主を探し求めて、自分の財で父の借金と買った物の代金を滞りなく返しなさい。これを「父の過ちを補う」といいます。孝の道です。父の代に人の財を返さず代金を払わないでいるのは、自分の心にも快くありません。また貸し主や売り主も、財を失った恨みが深いのです。それなのにこれを返せば、親の過ちを補い、自分の心を快くし、貸し主や売り主の恨みをなくすという、三つの益があります。必ず自分の身の養いを省き出費をやめて、父の借金を返しなさい。このように孝を行い、道をまっすぐにして哀れみのある人には、そのためとは目に見えなくても、必ずのちに天の報いがあって、ひそかに恵み助けてくださる道理があります。君子はその報いを心にかけて善を行うのではありませんが、その自然の験は必ずある道理です。すぐに目に見えないからといって、この道理があることを疑ってはいけません。
解説
この章句が説くこと
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