家道訓 / 巻之四・用財上
一およそ、人家になくてかなはざる物の外、無用の物をもとめたくはへざれば、心のわづらひなく、財のつひえなし。一器物は、朝夕用ある物を寶とすべし。無用の奇物を寶とするは、價は多く費えて、我が用にたつことはまれなり。常に用ある器は、價の費はすくなくて、用にたつこと多し。得がたき寶をたふとぶは、古人のいましめなり。
新字:一およそ、人家になくてかなはざる物の外、無用の物をもとめたくはへざれば、心のわづらひなく、財のつひえなし。一器物は、朝夕用ある物を宝とすべし。無用の奇物を宝とするは、価は多く費えて、我が用にたつことはまれなり。常に用ある器は、価の費はすくなくて、用にたつこと多し。得がたき宝をたふとぶは、古人のいましめなり。
書き下し
一およそ、人家になくてかなはざる物の外、無用の物をもとめたくはへざれば、心のわづらひなく、財のつひえなし。一器物は、朝夕用ある物を宝とすべし。無用の奇物を宝とするは、価は多く費えて、我が用にたつことはまれなり。常に用ある器は、価の費はすくなくて、用にたつこと多し。得がたき宝をたふとぶは、古人のいましめなり。
現代語訳
およそ人の家になくてはならない物のほかは、無用の物を求めてたくわえなければ、心の煩いがなく、財の費えがありません。器物は、朝夕に用のある物を宝とすべきです。無用の珍しい物を宝とするのは、代価は多く費えても、自分の用に立つことはまれです。常に用のある器は、代価の費えは少なくて、用に立つことが多いのです。得がたい宝を尊ぶのは、古人の戒めです。
解説
家に必要なもの以外を求めず蓄えなければ、心も煩わず財も減らないと説きます。宝とすべきは毎日使う道具であって、珍しいだけの品は高価なわりに役に立たないというのです。結びの「得がたき宝を尊ぶは古人の戒め」は、老子第三章の「得難きの貨を貴ばず」を踏まえたものでしょう。骨董や珍品の収集が流行した時代に、実用を重んじた益軒らしい言葉です。毎日使う道具を大切に選ぶという今の暮らし方の提案とも、よく重なる考えです。
この章句が説くこと
倹約道具簡素老子欲
関連する章句
-
『家道訓』巻之五・用財中むげのことなり。およそ、一とせの衣食の費は多からず、やどりは茅屋一間に起きふして足りぬ。しもべは、我労にかはる人の外はなくても事かかず。うつはものは、只飲食の器日用の調度のみ助となる。其外の器皆用なし。人の身をやしなふには、此のあまたの物にすぎず。これを備ふるは、さほどつひえおほからず。然れば財禄ある人、倹約をだに行はば、自俸するに余あるべし。不足して人に乞ひ借るに及ぶべからず。然るに財用を多く費し過し、人に乞ひ借り、みづから困窮にいたり、一生身をくるしめ人を苦しめ、子孫まで困窮せしむるは悲むべし。是用財の良法を知らざればなり。
-
『家道訓』巻之四・用財上是財を用ふるに法なくして、天命をやすんぜざるなり。よく財を用ふる人は、財禄の多少によらず、其の家に得たる所の財禄の分量にて事足りぬ。家の困窮するとせざるは、家禄の多少によらず、又時の風俗の奢れると倹なるにもよらず、又我が幸不幸にもよらず、只我が一心の倹なると、怠り奢れるによれり。約を以て之を失ふ者は鮮しと、聖人ののたまへること信ずべし。是家をたもつ法なり。
-
『家道訓』巻之四・用財上一凡太平の世の勢は、年々に、万の事必ず華美におもむきておごり、つひえ多くなりもてゆくものなれば、倹約をむねとして行はずして、只其のままにて、世の成行にまかせぬれば、人々困窮して家をたもちがたし。俗にながれ時にうつりゆかば、倹約の道立たずして、後には、必ず家をやぶるにいたるべし。家主となる人は、早く謀り遠くおもんばかるべし。万の事は、遠き後の事を早くおもんぱからざれば、必ずちかきうれひあり。はじめ憂ひ勤むれば、後は必ず安楽なり。初におこたりて心を用ひざれば、後は必ずうれひくるしみとなる。此の理をよくおもんぱかるべし。
-
『家道訓』巻之六・用財下一凡財を用ふるには、心を用ひて、よき程の節にかなひて、過不及のあやまりなかるべし。用ふべき時は用ひ、あたふべき時はあたふべし。をしむべからず。君子の倹約を行ふは、用ふべき時用ひんがためなり。費ををしむこと過ぎて中をうしなひ、心せはしくして、わが楽み人の和をうしなふべからず。
-
『家道訓』巻之四・用財上一家ををさめ、財を用ふるに、事ごとに心を用ひて精しくし、こまやかにして疎略なるべからず。おごらずやぶさかならず、過不及なくよき程にすべし。用ひ過すはおごれり、不及なるはやぶさかなり。心あしくして、大やうにおろそかなれば、財の用ひやう過不及にして、或はおごり或はやぶさかなり。与ふべきものを与へず、与ふまじきものに与へ、多く与ふべき者にすくなくし、すくなかるべきに多くするは、事そむきて理にあたらず。是心を用ひず、用ひても精しからざるなり。
-
『家道訓』巻之五・用財中衣食家居器物の美をこのまず、物ずきをこのまず。気に合はざるとてかるがるしく改め作らず、営作をこのまず、無用の器物をこのまず、無益の芸能をこのまず、およそこのむ事すくなし。このむ事すくなきは、則是わざはひを好まざるなり。斯くのごとくなる人は、必ず人のいさめをよく聞き用ひてふせがず、
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る