家道訓 / 巻之四・用財上
一天地の氣滯れば、必ず變をなして、風雷水旱地震などの災となる。世間の物、久しくあつまれば必ず散る。人の氣血飮食めぐらずして滯れば必ず病となる。財寶も、おほくあつめて人に施し惠まざれば、滯りて後日のわざはひとなる。老子も、多くあつむれば、必ずあつくうしなふといへり。是必然の道理なり。財多くあつまらば、貧苦なる人にほどこすべし。財を多くあつめて人にほどこさず、永く子孫につたへんとすれども、火災盜賊など、不意の災變にあひて財をうしなひ、或は子孫の不德によりて財をうしなふこと、古今世上に其ためし多し。財をあつめて、さいはひとせんとすれど、財をあつめたるまでにて、人にほどこさゞれば、必ずわざはひとなる。
新字:一天地の気滞れば、必ず変をなして、風雷水旱地震などの災となる。世間の物、久しくあつまれば必ず散る。人の気血飲食めぐらずして滞れば必ず病となる。財宝も、おほくあつめて人に施し恵まざれば、滞りて後日のわざはひとなる。老子も、多くあつむれば、必ずあつくうしなふといへり。是必然の道理なり。財多くあつまらば、貧苦なる人にほどこすべし。財を多くあつめて人にほどこさず、永く子孫につたへんとすれども、火災盗賊など、不意の災変にあひて財をうしなひ、或は子孫の不徳によりて財をうしなふこと、古今世上に其ためし多し。財をあつめて、さいはひとせんとすれど、財をあつめたるまでにて、人にほどこさゞれば、必ずわざはひとなる。
書き下し
一天地の気滞れば、必ず変をなして、風雷水旱地震などの災となる。世間の物、久しくあつまれば必ず散る。人の気血飲食めぐらずして滞れば必ず病となる。財宝も、おほくあつめて人に施し恵まざれば、滞りて後日のわざはひとなる。老子も、多くあつむれば、必ずあつくうしなふといへり。是必然の道理なり。財多くあつまらば、貧苦なる人にほどこすべし。財を多くあつめて人にほどこさず、永く子孫につたへんとすれども、火災盗賊など、不意の災変にあひて財をうしなひ、或は子孫の不徳によりて財をうしなふこと、古今世上に其ためし多し。財をあつめて、さいはひとせんとすれど、財をあつめたるまでにて、人にほどこさざれば、必ずわざはひとなる。
現代語訳
天地の気が滞れば、必ず変事をなして、風・雷・水害・日照り・地震などの災いとなります。世間の物は、久しく集まれば必ず散ります。人の気血や飲食がめぐらずに滞れば、必ず病となります。財宝も、多く集めて人に施し恵まなければ、滞って後日の災いとなります。老子も「多く集めれば、必ず厚く失う」と言いました。これは必然の道理です。財が多く集まれば、貧しく苦しむ人に施すべきです。財を多く集めて人に施さず、長く子孫に伝えようとしても、火災や盗賊など不意の災変にあって財を失い、あるいは子孫の不徳によって財を失うことは、古今世の中にその例が多いのです。財を集めて幸いとしようとしても、財を集めただけで人に施さなければ、必ず災いとなります。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『家道訓』巻之四・用財上一易に、天道は盈てるを断くといへり。又物みつればかくともいへり。又、古語に、多く蔵むればあつく失ふともいへり。財多くあつめたるまでにて、人の貧窮をめぐまざれば、盈ちては必ず虧くるわざはひあり。天道おそるべし。
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『家道訓』巻之一・総論上年をへて久しく行へば、其の善つもりて大なり。楽しむべし。貧しき人すら斯くの如くなるべし。況や富める人をや。富みて財あまりある人は、天道みてるを虧く理なれば、人にほどこさずして、財を多くあつめおけるは、後は必ずわざはひ出来て、財をうしなひ、子孫に其の財をのこしがたし。財多き人は、尤父母にあつくし、親戚朋友の乏しきをにぎはし、貧しき人をたすけ、飢寒をすくひて広く人を愛し、善を行ふべし。夫人をすくひたすくるは天の好み給ふ所、天道は善にさいはひし給ふ理なれば、かくの如くひろく人を愛すること久しくば、天のよろこび給ふことふかくして、福をうくることうたがひなかるべし。天道は還すことをこのむといへり。善を行へば天よりさいはひを下し、悪を行へば天よりわざはひを下し給ふ。
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『家道訓』巻之四・用財上一人もし富貴にして、たからを多く貯へもたば、是天より我一人にあつくし給ふにあらず、多く人をすくはしめんために、我にさづけたまふとおもひて、天命にしたがひて、つねに仁愛の心をもちて、貧苦なる人をめぐみ、飢饉する者をすくひて、善を行ふを以て楽とすべし。是天の御心にそむかざるなり。斯くのごとくならば、富貴なるかひありて、大なる楽なるべし。財を多くもちても、我が身ひとりの俸養におごり、人にほどこさずして善を行はざるは、無用の物なり。石瓦を多くもてるに同じ。かかる人を守銭虜と古人の云ひけんもむべなり。財をもてるかひなくして、貧賤の人と同じ。一財を用ふる道をしらで貧窮なれば、父母をやしなふにうすく、人に与ふべき物をあたへず、人を恵むことなりがたく、人のおひめをかへさず、廉恥の道行はれがたく、人の恵を受けてむくいず。官となりても、貧なれば民をむさぼりやすく、忠義をつとめがたし。礼義にそむき、心術に害あること、皆是困窮よりおこる。困窮は倹約ならざるよりおこれり。然る故に、倹約は家ををさむる要道なり。
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『家道訓』巻之四・用財上一財を多くたくはへて余りあらば、人に益あることにつかひ用ふべし。無益のいとなみをなして、財をつひやすはいたづら事なり。をしむべし。君子の財をみだりに用ひずしてをしむは、人に益あることに、財を用ひんがためなり。たとへば百万銭をつひやして万灯をともさんよりは、十万銭を出して、飢ゑたる者万人を養ふは益多し。又百万銭を出して、女子を嫁せしむれども、十万銭を出して子を教ふる人なしと、古人いへり。又大富の人は、一日の内にも千金をつひやして、無益の驕楽をなせども、百金を出して飢ゑたる人をすくふ人なきは何ぞや。
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『家道訓』巻之四・用財上一君より禄と位とを得るは、誠に難きことなり。されど、得る事かたきよりも、たもちて失はざること尤かたし。禄位を得ることは、幸にしても得る人あり。財禄をたもつてうしなはざることは、徳なければ成りがたし。幸ありて得れども、徳なくして失ふ人おほし。故に財禄ある人は、徳行をつつしんで其の財禄をたもつべし。又財禄をむさぼり、分外の富を求めて子孫にのこさんとせんより、家法を正しくし、子孫に道のをしへをのこすにはしかじ。子孫無道なれば、財禄をのこせども必ず失ふ。四民皆かくの如し。我が財禄をたもちて失はず、子孫長久ならしめんことをねがはば、只仁心を以て人をあはれみめぐみ、善を行ふをつねの楽とし、子孫に善ををしへ勧むべし。是天道にかなふ理なれば、当時目に見えたるさいはひなくとも、後に必ず天のめぐみをうくべし。是万金を捨てて神仏にへつらひいのるに百倍せる祈祷なり。これ我が私言にあらず、いにしへのかしこき人のをしへ、古今のためし明かなり。うたがふべからず。
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『家道訓』巻之四・用財上如何となれば、我身彼をすくふほど財あるは、天よりひとへに我が身にさいはひし給ふにあらず、貧苦なる者をすくはしめんとて、吾にたからをあたへ富ましめ給ふ理なれば、天の御心にしたがひて、貧人をすくひほどこすべし。もし是をすくはざれば、天の御心にそむきて、其のわざはひおそるべし。天道にそむきしわざはひ、たちまちに目に見え来らず、其のむくい、おそけれどものがれがたし。此の理必ずたがはず、うたがふべからず。天道おそるべし。
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